EU離脱後の新たな移民労働者受け入れ制度案
政府は2月、EU離脱後の新たな移民労働者の受け入れ制度として、ポイント制を導入する案を公表した。国内での雇用が確保されていることや、一定水準の英会話能力などを前提に、給与水準や労働力が不足している職種か否か、また職務に関連する博士号の有無等で入国の可否を判断するもの。欧州経済圏(EEA)と域外に共通のルールを適用する。
引き続き雇用の確保が前提
政府はEU離脱後、EEA(EU加盟国及びノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)との間の人の移動の自由を廃止し、域内と域外に共通の受け入れ制度を導入するとの方針を従来から示していたところだが、新たなポイント制を導入する方針は、2019年の首相交代時に浮上したものだ。政府は、対象者の技能・職業資格水準や言語能力、年齢などの属性により重点を置くオーストラリア型(注1)を参考とした制度の導入可能性を諮問機関Migration Advisory Committee (MAC)に諮問したが、MACが1月にまとめた答申は、これに反対する立場を示していた。国内での雇用における職務や給与水準などを基準とした、現行の受け入れ制度の枠組みを維持すべきである、というのがその理由だ。
今回公表された新制度は、折衷的な内容となった(図表)。申請には、外国人労働者の受け入れが認められた雇用主により雇用されること、職務内容が所定の技能水準以上であること、また所定の水準の英会話能力を有することが必須要件となる(計50ポイント)。これに加えて、予定される給与水準や、労働力不足職種リストに記載された職種か否か、また職務に関連する博士号の有無により、ポイントが加算され、合計で70ポイント以上であれば受け入れが認められる(注2)。
給与水準の下限は現行の7割弱
労働力確保の観点から、職務水準の下限は現行の高等教育修了相当(資格枠組みにおけるレベル6)から中等教育修了相当(同レベル3)に引き下げられ、これに合わせて給与水準の下限も緩和される。MACは、職務水準の要件引き下げに合わせた給与水準として、現行の85%程度(2万5600ポンド)とし(注3)、雇用の劣化を防止することを提言していたが、政府はこれをポイント付与の上限(20ポイント)としつつ、下限についてはさらに引き下げて現行の7割弱(2万480ポンド)(注4)とするとしている。給与水準以外の項目でのポイントと合わせて、既定の70ポイントに達すれば、受け入れ可能となる仕組みにより、賃金水準が下限と同等であっても、労働力不足職種リストに記載された職種に従事することを証明するか、職務に関連するSTEM(科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学)分野の博士号を有していれば、要件を満たすことが可能となる。
新制度は、今年12月末まで設けられた移行期間が終了する2021年1月から、数年をかけて導入される予定だ。
必須項目 | 外国人の雇用が認められた雇用主の下での雇用であること 所定の技能水準以上の職務であること 所定の水準の英会話能力があること |
20ポイント 20 10 |
加点項目 | 予定される給与額が年20,480(下限)~23,039ポンド 年23,040~25,599ポンド 年25,600ポンド以上 |
0 10 20 |
労働力不足職種リストに記載された職種であること | 20 | |
職務に関連する分野の博士号を保有していること 職務に関連するSTEM*分野の博士号を保有していること |
10 20 |
* 科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学
注
- 受け入れ先となる雇用の確保は必須要件ではなく加点要素とされる。(本文へ)
- なお、従来は受け入れに際して、年間の数量制限が月毎に割り振られ、上限が設定されていたが、これが停止されるほか、国内での一定期間の求人活動を義務付ける労働市場テストも廃止となる。(本文へ)
- 現行の給与水準基準(3万ポンド)は、賃金統計における第25百分位値相当(職種内の75%の労働者がこれを超える給与を得ている水準)として設定されており、原則としてこの算定手法を引き継ぐもの。(本文へ)
- 2万5600ポンドの8割。なお、新卒層(new entrants)についてはさらに3割低い給与水準の下限が設定されるとみられる。(本文へ)
参考資料
- Gov.uk、Migration Observatory ほか各ウェブサイト
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=139.08円(2020年8月12日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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