雇用維持・創出に向けた「雇用のためのプラン」を公表

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2020年8月

政府は7月、新型コロナウイルスの感染拡大による経済や雇用への影響に対応するため、雇用維持や就労支援、またインフラ整備などを通じた雇用創出策などを盛り込んだ新たな政策パッケージ「雇用のためのプラン」(A Plan for Jobs)を公表した。

若年層の雇用維持・就労支援に重点

総額で300億ポンドを投じる新たな対策パッケージ(図表)における柱の一つは、「雇用維持一時金」(Job Retention Bonus)だ。新型コロナウイルスの影響を受けた企業に対して、雇用維持のための補助を行う雇用維持スキーム(従業員の一定期間以上の一時帰休について、賃金の8割を補助)が10月末に終了することを受けて、対象従業員を2021年1月まで継続して雇用した場合に、1人当たり1000ポンドを雇用主に支給するというもの。最大で94億ポンドの予算を充てるとしている。

また、失業者等の就労支援策としては、とりわけ失業リスクの高い若年層を就労体験のために6カ月間受け入れる企業に対して、週25時間分の最低賃金相当額および社会保険料等を支給する「キックスタート・スキーム」のほか、同じく若年層を中心とした各種の求職活動や職業訓練等の支援策を実施する。

加えて、新型コロナウイルスの影響がとりわけ大きいとみられるホスピタリティ業や娯楽業、飲食業に対する支援策として、付加価値税の一時的な引き下げを適用するとともに、外食の奨励のため、8月中は月~水曜日について、一人当たり10ポンドを上限に食事料金の半額を補助する(料金の減額分を、申請に基づいて政府が参加事業所に支給)。

一方で、雇用創出策としては、公的機関の施設整備や住宅整備、道路の保全などのインフラ整備、また脱炭素化に向けたエネルギー効率の向上のための改修への助成など、建設業の需要拡大を挙げている。住宅所有者によるこうした改修への補助では、10万人以上の雇用創出効果を見込んでいる。

なお、政府はこれまで実施してきた段階的な営業再開をさらに進め、感染対策を講じにくいと考えられる一部業種(展示会場、会議場、カジノ、ナイトクラブなど)を除いて、8月半ばには原則としてほぼ全ての業種で営業再開を認めるとの方針を示している(注1)。これに合わせて、これまでの在宅就業の推奨を改め、労働者の職場復帰については、安全対策ガイダンスの順守を前提に、雇用主の判断に委ねるとしている。

雇用状況は今後悪化の見通し

労働市場への影響は、雇用統計では未だ明確に把握されていないものの、低所得の求職者層を対象とした社会保障給付の受給者が3月以降5月までの期間で142万人増加したことが報告されており(注2)、新型コロナウイルスの影響により仕事を失った者がこの間増加したことが類推される。ただし、失業者数についてはこの間(3-5月期まで)、ほぼ横ばいで推移している。シンクタンクResolution Foundationはこれについて、急増した社会保障給付受給者に関して把握されている雇用状況が、実態を反映していない可能性を指摘、実際には就労していたか、雇用維持スキーム等による一時帰休状態、あるいは自営業者向けの所得補助スキームの適用を受けていた者を含んでいるとして、実質的な失業者は、増加した受給者全体の45%との試算を示している(注3)。一方で、失業者数にほとんど変化が見られない点については、行動制限や応募可能な求人件数の減少から、求職活動を控えている非労働力人口(仕事を欲しているが、求職はしていない者)の増加によりある程度吸収されたとみている。

こうした失業者数の抑制には、雇用維持スキームや自営業者所得補助スキームが少なからず役割を果たしているとみられる。制度を所管する歳入関税庁によれば、雇用維持スキームの適用対象となった労働者は、3月末の導入から6月末までの累計で937万人(適用可能な労働者全体の31%)で、卸売・小売業(161万人)や宿泊・飲食サービス業(160万人)、製造業(96万人)などで多い。特に、休業要請による影響が大きいとされる宿泊・飲食サービス業では、労働者の73%が一時帰休の適用を受けた。なお年齢階層別には若年層で比率が高い。一方、自営業者向けの所得補助スキームについては、同じく6月末までで255万人が適用を受けており、うち建設業が87万人(適用可能な自営業者の8割)と多くを占めるほか、運輸・倉庫業が22万人、管理事務・補助サービス業が19万人、など。

雇用維持スキームには8月以降、労働者の職場復帰を後押しするため、短時間勤務を行っても引き続きスキームの対象とする制度改正が行われる(従来は3週間以上の継続的な休業のみに適用)。併せて、10月のスキーム終了までに、雇用主負担(賃金の一部および社会保険料)が順次拡大される予定だ。しかし、依然として大きな影響を被っているホスピタリティ業や小売業などを中心に、雇用の維持が難しいと判断する雇用主が増加するとみられており、スキーム終了以降の失業者の急速な増加が懸念されている。現地メディアは、既に航空業や観光業、小売業、ホスピタリティ業などの企業による人員削減計画が相次いでいる状況を報じている(注4)

なお、年末にはイギリスのEU離脱が予定されていることから、既に大きな影響を被っている業種に加えて、これまでは新型コロナウイルスの影響が相対的に小さかったとみられる情報通信業や専門・技術・科学分野などのビジネス向けサービス、あるいは電機、化学分野などが、今後大きな打撃を被る可能性が指摘されている(注5)

図表:「雇用のためのプラン」の概要
雇用維持一時金
  最大
94億ポンド
一時帰休の対象となった従業員を2021年1月まで雇い続けた雇用主に、1人当たり1000ポンドを助成。対象従業員は、雇用維持スキーム終了後から1月末までの月平均の賃金が国民保険の加入下限額(月520ポンド)以上の者。支給は2021年2月に実施。
雇用の支援
キックスタート・スキーム 21億ポンド グレートブリテン(北アイルランドを除くイギリス)において、ユニバーサル・クレジットの受給者で長期失業リスクのある16-24歳層を対象に、質の高い6カ月の就労体験の提供に20億ポンドを投入。週25時間までの最低賃金相当の賃金と国民保険の雇用主負担分、自動加入年金(企業年金)の雇用主補助分を助成。
仕事探し、訓練、アプレンティスシップの促進 16億ポンド 全国キャリアサービス(訓練機会等の情報提供、アドバイス)の拡充に、2年間で3200万ポンドを措置、イングランドの26万9000人に、個々人に合わせた訓練や仕事に関するアドバイスを提供。
    イングランドにおけるトレイニーシップ(低資格層の若者向け訓練)に1億1100万ポンドの追加予算を投入、16-24歳層に質の高い職場体験や訓練を提供。現状の3倍までの受け入れが可能となる。また、トレイニーの受け入れに一人当たり1000ポンドを雇用主に支給。受け入れ可能なトレイニーシップのレベルをレベル3に引き上げ。
    アプレンティス(見習い訓練生)の受け入れに対して、25歳未満であれば一人当たり2000ポンド、25歳以上で1500ポンドを支給(2020年8月から2021年1月末まで)。現行の16-18歳層(学習困難者等の支援プラン参加者の場合は25歳未満)の受け入れに対する1000ポンドの支給に追加。
    イングランドの全ての18-19歳層で、雇用機会がない場合に、質の高いレベル2~3の教育訓練を提供するため、1億100万ポンドを措置。
    グレートブリテンで提供されている求職者の集中的就労支援をに拡充・強化、ユニバーサル・クレジットを受給する全ての18-24歳層に適用。
    グレートブリテンにおけるジョブセンター・プラス(公的職業紹介・給付支給機関)のアドバイザーを今年度中に2倍に拡大。8億9500万ポンドを投入。
    ワーク・ヘルスプログラム(病気・障害による就労困難者の就労支援プログラム、イングランドとウェールズで実施)の対象を、グレートブリテンにおける失業期間3カ月超の給付受給者に拡大。最大で9500万ポンドを投入。
    グレートブリテンにおいて民間組織による求職支援サービス(失業期間3カ月未満の者に対するオンラインのマンツーマンの支援)を秋に提供、4000万ポンドを措置。
    グレートブリテンにおいて、ジョブセンター・プラスの求職者等の支援用基金(Flexible Support Fund)を1億5000万ポンド追加。
    業種別アカデミー(教育訓練機関)に今年度1700万ポンドの予算を追加、受け入れ枠を3倍に拡充して、地域におけるスキル需要に合わせた職業訓練や就職面接の機会を提供。
雇用の保護
ホスピタリティ、宿泊業、娯楽業の付加価値税引き下げ 41億ポンド ホスピタリティ業の支援のため、7月15日から2021年1月12日までの期間、レストラン、パブ、バー、カフェおよび類似の事業所において提供される食品・飲料の付加価値税を5%に引き下げ。宿泊業、娯楽業における料金についても、同等の付加価値税引き下げを適用。
外食の奨励による支援 5億ポンド 外食の奨励のため、レストラン、カフェ、パブその他の食品サービスを提供する参加事業所に、8月中の月~水曜日につき、一人当たり10ポンドを上限に食事料金の半額までを補助。
雇用の創出
インフラ整備 56億ポンド 教育、医療などの公的機関の施設整備、住宅整備、道路の保全など。
公的機関および社会的住宅の脱炭素化 11億ポンド 学校、病院などの公的機関の施設について、エネルギー効率の向上、低炭素の暖房設備へのアップグレードを助成。来年には10億ポンドを投じる。
社会的住宅についても、家主による同種の投資を補助。今年度は5000万ポンドを投入。
環境にやさしい住宅化の助成 20億ポンド 住宅所有者によるエネルギー効率向上のための改修に対して、世帯当たり5000ポンドを上限に費用の半額を補助。低所得世帯については、1万ポンドを上限に全額を補助。10万人超の雇用創出の効果を期待。
印紙税の一時的減税 38億ポンド 居住用の土地・建物の購入にかかる印紙税を免除する上限額を、2021年3月末まで現行の12万5000ポンドから50万ポンドに引き上げ。

出所:HMRC “A Plan for Jobs

参考資料

参考レート

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