低所得・求職者向け社会保障給付の受給者が急増

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2020年8月

新型コロナウイルスの労働市場への影響は、雇用・失業に関する統計では未だ明確に把握されていないものの、低所得の求職者層を対象とした社会保障給付の受給者の急増が報告されており、営業規制や行動制限等の結果として職を失った者が多くを占めるとみられている。

給付受給者、2カ月で2倍強に

統計局が6月に公表した雇用関連統計によれば、2020年2-4月期の月平均の就業者数は3299万1000人で、前期(11-1月期)からほぼ横ばい(6000人増)、また失業者数は133万6000人(同8000人減)、失業率は3.9%(前期同)となった。新型コロナウイルスの感染対策として3月下旬から本格的に開始された営業規制等の影響は、雇用統計では未だ把握されていない。

一方で、5月から試験的に提供が開始されている求職者向け社会保障給付の受給者数は、大幅な増加を示している。従来から公表されている求職者手当の受給者数に、低所得者向けの新たな給付制度として現在導入が進められているユニバーサル・クレジット(注1)受給者のうち、求職活動を受給条件に課された(Searching for Work)グループ(注2)の受給者数を合算したもので、これによれば4月の受給者数は前月から103万2690人(対前月比83%)増加して227万2812人に、さらに5月にも52万8917人(同23%)増の280万1729人となり、金融危機による景気低迷期を上回っている(図表1)。男女とも増加がみられるものの、男性は4月、5月の合計で97万5400人(3月からの増加率は135%)、女性は58万6200人(同114%)で、男性の増加が顕著だ。

図表1:求職者向け給付受給者の推移 (千人)
図表1:画像

出所:Office for National Statistics “Labour market overview, UK: June 2020”

同データでは、給付種別ごとの内訳は示されていないが、統計局が併せて提供している求職者手当の受給者数は、5月時点で28万7700人(3月からの2カ月間で11万2900人増)にとどまることから、ほぼ9割近くをユニバーサル・クレジット受給者が占めていることになる。

給付制度を所管する雇用年金省が別途提供している、ユニバーサル・クレジット受給者に関するより詳細なデータによれば、求職グループの受給者の1~2割は、就業しているものの非常に所得水準が低いことから給付を受給している。今回増加した受給者のうち、5月分は速報値のため内訳が不明だが、4月分については4分の1強を就業層が占め、結果として同グループ全体に占める就業層の比率も15%前後から19%に上昇している(図表2)。多くの低賃金労働者(または低収入の自営業者)が、影響を被っていることがうかがえる。なお、4月から5月に増加した受給者の多くは相対的に若い層で、16~24歳層が全体の20%、24~35歳層が29%、などとなっている。

図表2:ユニバーサル・クレジット受給者(求職グループ)の就業の有無
図表2:画像

注:2020年4月は改定値、5月は速報値。

出所:Office for National Statistics “Labour market overview, UK: June 2020”

雇用関連統計ではこのほか、求人件数の記録的な減少が明らかとなっている。3-5月期の求人件数は47万6000件で、前四半期(12-2月期)からは34万2000件と4割強の減。とりわけ卸売・小売業、自動車等修理業(6万6000件、49.6%の減少)や、宿泊・食品サービス業(同6万3000件、70%の減)などでの減少が大きく影響している。経済活動の停滞が、労働力需要の縮小につながっている状況がうかがえる。また、週当たり労働時間はフルタイムで3時間、パートタイムで1.8時間、いずれも減少。賃金水準は、実質ベースで前年から0.4%のマイナスとなっている。

賃金助成スキームの対象、910万人に

経済指標は、新型コロナウイルスの影響をより明確に示している。統計局によれば、4月のGDP成長率はマイナス20.4%、大部分(15.2ポイント)はサービス業における生産額の減少によるもので、とりわけ卸売・小売業や宿泊・食品サービス業などの影響が顕著だ(それぞれ2.77ポイントと1.82ポイント)(注3)。一方、部門別には、建設業の下落幅がマイナス40%と大きい(サービス業は19%、生産部門(製造業、エネルギー関連業種等)は20%)。統計局は、生産額減少の主な要因として、多くの企業が事業の一時的な休止や、工場等の閉鎖、あるいは建設プロジェクトの中断などを余儀なくされているとみられる点を挙げている(注4)

新型コロナウイルスの影響により、事業を休業あるいは縮小せざるを得ない企業等に対して、政府は支援策として「コロナウイルス雇用維持スキーム」を4月から実施している。雇用主が従業員を一時帰休させて、休業等の期間における雇用維持をはかる場合に、平均的な賃金の8割(月2500ポンドが上限)および社会保険料等を助成するもので、スキーム開始以降の累計申請件数は、6月半ばまででおよそ110万件、対象労働者数は910万人に達している。なお、5月末時点の申請ベースでの賃金助成の支給額は174億7100万ポンドにのぼる。制度を所管する歳入関税庁が公表した申請状況の業種別データ(5月末時点)によれば、対象労働者は卸売・小売業、自動車等修理業(160万9800人)や宿泊・食品サービス業(140万3300人)、製造業(83万1000人)、建設業(67万9000人)などで多い(図表3)。政府が奨励する在宅就業によることが難しいこうした業種では、スキームの適用を受けることで解雇あるいは無休での休業を免れている労働者も多いとみられる。

スキームは、導入当初の期限(5月末)が逐次延長され、最終的には10月末に終了することが決まっている。ただし7月以降は、労働者の職場復帰を想定したより柔軟な制度の適用がはかられるとともに、雇用主の負担が段階的に引き上げられる予定だ。

図表3:コロナウイルス雇用維持スキーム申請状況の業種別内訳(5月末時点)
図:画像

出所:HMRC ‘Coronavirus Job Retention Scheme statistics: June 2020新しいウィンドウ

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