広範囲なウイルス「検査・追跡」の実施と若者を対象とした政策措置が必要
 ―ILO報告

カテゴリ−:雇用・失業問題労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2020年6月

ILO(国際労働機関)は2020年5月、「ILO 緊急報告: COVID-19と仕事の世界(ILO Monitor: COVID-19 and the world of work.)」第4版を発表した。最新版では、第3版(2020年4月発表)で公開された新型コロナウイルスの影響による労働時間の減少率が若干上方修正された(注1)。また、WHO(世界保健機関)が推奨する新型コロナウイルスの「検査・追跡」が労働市場にもたらすメリットや、若者が他の世代より新型コロナウイルスによる影響を大きく受けていることを伝えている。以下、当該資料の概要を紹介する。

労働市場における「検査・追跡」実施のメリット

WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスの流行との戦いにおいて、症状の発見、検査、接触の追跡、隔離、治療(以降「検査・追跡」と略記)の重要性を繰り返し述べている。ILOの推定によれば、「検査・追跡」は労働時間の減少を50%程度食い止める。「検査・追跡」の実施率が高い国々では労働時間の減少幅は平均7%と推定されたが、実施率の低い国々では約14%だった(図1)。

図1:予測される労働時間の減少(%)と「検査・追跡」の関係(45カ国)
画像:図1
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出所:ILO(2020)

「検査・追跡」の労働市場におけるメリットは、公衆衛生政策・経済的信頼・職場の操業の3つの側面から説明できる。第1に、「検査・追跡」の普及により、各国は厳しい制限政策への依存を減らすことができ、措置に伴う経済的負担が軽減される。第2に、「検査・追跡」は経済的活動のために必要な国民の信頼を生み出し、維持することに役立ち、消費と生産の双方でパンデミックの影響を和らげる。第3に、「検査・追跡」は職場の閉鎖を最小限に抑えることを助け、企業が職場活動をより効果的かつ安全に組織化し実施することを可能にする。例えば、予防措置、労働者のシフトや病気休暇の代替の調整、業務の継続性の維持などを容易にする。

また、「検査・追跡」にかかる費用を差し引いても、経済的かつ社会的に大きな期待収益を提供することになる。効果的な「検査・追跡」のために必要な財源は、パンデミックの全体的な経済的影響よりもはるかに少ない。例えば、ILOの推定によれば、広範な「検査・追跡」プログラムを実施している2カ国(韓国、アイスランド)の検査への支出は、国内総生産(GDP)の0.1%を下回る。

さらに、「検査・追跡」はたとえ一時的だとしても、新たな雇用機会を創出する可能性があり、これを新型コロナウイルスの流行によって悪影響を受けた若者や他の集団を対象としたものにすることもできる、とILOは指摘している。

若者の危機 ―「ロックダウン世代」が出現する可能性

若者(15~24歳)は以下の3点において、新型コロナウイルス危機の影響を他の世代と比べて不釣り合いなほど受けている。①教育と訓練の中断、②失業や倒産の高まりによる収入と雇用の減少、③求職や転職の際の大きな障害の出現である。労働市場からの若者の除外は長期的な影響を与え、現状において社会にとって最も大きな危険の一つである。ILOはこのままでは「ロックダウン世代」が出現する可能性があるとして、迅速な行動を政府に呼びかけている。

1)新型コロナウイルス危機以前に若者が直面していた課題

新型コロナウイルス危機以前の2019年の若者(15~24歳)の失業率は13.6%(若年女性13.1%、若年男性14.0%)で、世界金融危機以前の2007年の失業率(12.3%)をはるかに上回っていた(図2)。また、6800万人に上る若年失業者を含む、2億6700万人の若者が雇用されておらず教育・訓練を受けていない状態(ニート)であった。若年女性のニート率は男性(13.9%)と比べ、約31.1%と高い。多くの若者、特に若年女性が、労働市場で活用されておらず、その中には時間関連の不完全就業者や求職を諦めた労働者などの潜在的労働力が含まれる。

図2:新型コロナウイルス危機以前の2019年の世界の失業率等の推定値
画像:図2
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出所:ILO(2020)

また、世界の若年労働者(15~24歳)のほぼ77%(3億2800万人)がインフォーマル労働者である。インフォーマル雇用は労働条件が悪く、労働組合の代表性や雇用関係を通じた保護が弱いという特徴を持つ。この年代の若者のインフォーマル率を所得グループ別に見ると、低所得国で95%以上、下位中所得国で91.4%に上る。地域別に見ると、アフリカ(93.4%)、アジア太平洋(84.4%)、アラブ諸国(71.2%)で最も高い。

加えて、この年代の若者はプライム・エイジ(25~54歳)より収入が少なく、所得への打撃に脆弱である。64カ国のデータを分析した結果、1時間ごとの収入は若者よりプライム・エイジのほうが平均で71%高い。このことは、若者が低賃金の職や業界(その多くが新型コロナウイルス危機の強い打撃を受けている)で働く傾向があり、年功序列が少ないという事実を反映している。

2)若年労働者への新型コロナウイルスの影響

パンデミック以前、雇用されている若年労働者(15~24歳)の10人中4人(1億7800万人)が、今回の危機による打撃が強かった4つの業界(宿泊・飲食サービス、製造業、卸売・小売業、不動産・事務管理業)で働いていた(注2)。世界の若年労働者のうち女性の比率は39%未満だが、これら4つの業界では割合が高い。宿泊・飲食サービスでは若年労働者のほぼ51%、卸売・小売りでは41.7%、不動産・事務管理業では43.8%を女性が占める。学校の閉鎖の広がりやチャイルドケアサービスの欠如のために、若年女性、とくに小さい子供を持つ女性には、有給労働と無給労働の2重の負担がかかっている。また、パンデミック対応の最前線で医療・ソーシャルケアの分野で働く若年労働者(1180万人)のおよそ74%が女性である。

2020年2月以降、特に若年女性を中心に若者の失業率が急激かつ大幅に増加している。例えばカナダでは、2020年2月から4月にかけて、若年男性の失業率は14.3%上昇し27.1%となり、若年女性は20.4%上昇し28.4%となった。他の国々でも、若者の失業率における同様の動向が現れてきている。

さらに、ILOと「若者のための働きがいのある人間らしい仕事に関するグローバルイニシアチブ」のパートナーによるオンライン調査「若者と新型コロナウイルスに関する世界調査」によれば、調査対象の6人に1人の若者(18~29歳)が新型コロナウイルス危機以降、就労していない(図3)。就業が維持されている若年労働者は労働時間が23%減少しており、彼らの43%は新型コロナウイルス発生以降、収入が減少したと報告している。また、若年労働者のほぼ4人に3人(71%)が完全に、もしくは部分的に自宅勤務をしている。

図3:パンデミック以降働いていないと回答した若者(18~29歳)の割合 (%)
画像:図3
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出所:ILO(2020)

こうした影響や不安定さが、若者の精神状態に大きな影響を与える可能性がある。この危機状況で、若年女性の60%と男性の53%が、自分のキャリアの見通しに不安や恐れを抱いている。精神的幸福度の標準化された尺度では、調査対象の若者の約半数、とくに失業者がパンデミック以降、不安や憂鬱の影響を受けやすくなっていると評価された。

3)若い学生への新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルス危機は学校や大学、職業訓練校の閉鎖、見習いや研修生などの労働に基づく教育の中断を通して、大きな混乱を引き起こした。前述のオンライン調査によれば、若い学生の約半数が現在の学業の修了が遅れるかもしれないことを報告しており、10%は修了できないことを予想している。

新型コロナウイルス危機における教育や訓練の提供に関するILO・ユネスコ・世界銀行共同調査では、世界中の回答者の98%が職業訓練校やトレーニングセンターが、完全または部分的に閉鎖されていると回答している(図4)。回答者の4分の3が試験や評価の延期または中止を報告している。現在では、トレーニングの3分の2以上が遠隔地で提供され、ほぼ全てのトレーニングセンターがオンラインで研修を提供している。しかし、完全に閉鎖されている学校の数はアフリカが最も高く、こうした地域ではオンラインコースを含め、教育や訓練を遠隔化するための良い設備がない。

図4:地域別、職業訓練校やトレーニングセンターが閉鎖していると回答した人の割合 (%)
画像:図4
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出所:ILO(2020)

教育及びトレーニングの混乱は、学業を辞めざるをえなくなった若者たちの生涯収入の不利益を生み出す恐れがある。例えば、アメリカ合衆国における4か月間の学校閉鎖による将来の収入の潜在的・長期的な損失は、国内総生産(GDP)の12.7%(2.5兆ドル)と推定される。

また、景気後退時に労働市場に参入することは、労働市場において10年以上にわたる悪影響を若者が被る可能性がある。2019年及び2020年度中に高校または大学を卒業する若者たちは、長期にわたる賃金の喪失を経験する可能性があり、今後数年間は少ない仕事を求めて競争が激化するという状況に彼らは直面することになる。

若者を対象とした政策措置が急務

当該資料は第3版と同様に、1)経済と雇用の刺激、2)企業、雇用、収入の支援、3)職場における労働者の保護、4)解決に向けた社会対話の活用の4本柱戦略に則り、労働者と企業を支える包括的で大規模な政策対応の迅速な実施を提案している。

ガイ・ライダーILO事務局長は、経済と社会を迅速に動かすためには、ウイルスの「検査と追跡」は「総合政策の重要な一部となる」と指摘した。また、若者が新型コロナウイルス危機の影響により才能を発揮できなければ、「新型コロナウイルス後のより良い経済の立て直しがずっと困難になる」として、若者の状況を改善するために相当規模の迅速な行動を各国へ呼びかけている。

参考資料

  • ILO資料 ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. 4th Edition
  • ILO(27/05/2020)COVID-19: Protecting workers in the workplace

参考レート

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