ILO、新型コロナウイルスが労働に与える影響に関する分析を発表
ILO(国際労働機関)は2020年3月から「ILO 緊急報告: COVID-19と仕事の世界(ILO Monitor: COVID-19 and the world of work.)」と題し、新型コロナウイルスが労働に与える影響に関する分析を相次いで発表している。ILOは当該資料において、新型コロナウイルス危機を「第2次世界大戦後最悪の地球規模の危機」と捉え、適正かつ迅速な経済政策を実施することを各国へ呼びかけている。以下、4月に発表された第3版の概要を紹介する(注1)。
労働時間の急減
世界の就業者数(33億人)の68%の人々が新型コロナウイルスの流行に伴い、職場の閉鎖が義務づけられているか、閉鎖が推奨されている状態にある。2020年第2四半期の世界の労働時間合計は、新型コロナウイルス危機以前の2019年第4四半期に比べ、約10.5%減少する予想となった(図1)。これはフルタイム労働者(週48時間労働)に換算すると、3億500万人分の労働時間に相当する。
図1:世界、地域、所得グループ別総労働時間の予想される減少率 (%)
―2019年第4四半期(季調値)との比較
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出所:ILO(2020)
2020年第2四半期に労働時間の急激な減少が予想される地域は、南北アメリカ(12.4%減)、ヨーロッパ・中央アジア(11.8%減)である。他の地域でも9.6%減以上の水準にある。所得グループ別に見ると、下位・中所得国が12.5%と最も高い労働時間の減少率を記録するが、他の所得グループも同程度の打撃(8.7%減以上)を受けると予想される。
2020年の世界全体の失業の増加については、下半期の世界経済や回復期以降の政策対応に左右されるとした(注2)。
倒産の危機にある企業―特に宿泊・飲食、製造業、卸売・小売業、不動産・事務管理業
新型コロナウイルス危機の影響を最も受けているのは、宿泊・飲食サービス、製造業、卸売・小売業、不動産・事務管理業の4つの産業部門である。これらの産業部門の合計で平均すると、GDPの30%以上を占めている。
これらの産業部門で操業している約4億3600万の企業と自営業者が、倒産の危機にさらされている。その内訳は、卸売・小売業約2億3200万、製造業約1億1100万、宿泊・飲食サービス約5100万、不動産・事務管理業約4200万である。
自営業と小規模企業は、小売業における世界の雇用の70%以上を占め、宿泊・飲食サービスにおいては60%以上を占めている。世界中の小規模企業は、特に低所得国及び中所得国において、仕事の提供者として重要な役割を果たしているが、多くの場合、信用供与を受けられず、資産は限られており、財政措置全般と景気刺激策の恩恵を受けにくい。パンデミックの影響で、先進国の小規模企業の経営破綻が拡大していることから、先進国の小規模企業は減少すると予想される。また、投資や事業の回復には、相当の時間がかかると考えられる。
危機にさらされているインフォーマル労働者
インフォーマル経済で働く人々は全世界で20億人以上に上るが、その67%が完全なロックダウン実施国(約11億人)、もしくは部分的ロックダウン実施国(約3億400万人)に住んでいる。途上国や新興国で多く見られるインフォーマル労働者は、社会保障を含む基本的な保護が欠如していることに特徴がある。彼らは医療サービスへのアクセスに乏しく、病気になった場合やロックダウンが実施された場合に代替の収入源がない。
インフォーマル労働者の収入は、危機の最初の1カ月で60%減少したと推定される。予想される減少率は、アフリカとラテンアメリカで81%と最も大きくなっている。所得グループ別に見ると、上位・中所得国では28%、下位・中所得国及び低所得国では82%、高所得国では76%の減少となる。
インフォーマル労働者に代替収入源がないことを想定すると、インフォーマル労働者の相対的貧困率(世帯の月額所得がその国の中央値の半分に満たない労働者の割合)は全世界で約34%上昇すると予測される(図2)。所得グループ別に見ると、上位・中所得国では21%以上、高所得国では約52%、下位・中所得国では 約56%上昇すると予想される。
図2:パンデミックがインフォーマル労働者の貧困レベルに与える潜在的影響 (%)
―インフォーマル労働者の相対的貧困率の予想上昇率
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出所:ILO(2020)
4つの柱を考慮した政策が必要
ガイ・ライダーILO事務局長は、「ウイルスの世界的大流行と雇用危機が進むにつれ、最も脆弱な層を守る必要性が一層急務になっている」と述べ、以下に挙げられる4つの柱に重点を置いた、大規模な総合的政策措置の必要性を各国へ説いている。
- 経済・雇用の活性化:積極的な財政政策、緩和的な金融政策、保健分野を含む特定分野への融資と金融支援
- 企業・雇用・収入の支援:社会保護の拡大、雇用維持策の実施、企業のための財政援助/減税およびその他の救済の提供
- 職場における労働者の保護:職業安全衛生(OSH)の強化、テレワークなど就労形態の調整、差別・排除の防止、すべての人に対する医療サービスの提供、有給休暇の取得拡大
- 政労使の社会対話:雇用者及び労働者の組織力と回復力の強化、政府の能力強化、社会対話・団体交渉・労働関係の制度とプロセスの強化
注
- 脱稿後の2020年5月27日に、ILO(国際労働機関)は「ILO 緊急報告: COVID-19と仕事の世界」第4版を発表した。最新版では、新型コロナウイルスの世界的大流行が始まってから、若者(15歳以上25歳未満)の6人に1人以上が失職している状況などを伝えている。(本文へ)
- ILOは第1版(3月発表)にて、新型コロナウイスの影響による失業者数は世界全体で2500万人増加すると予測した。第2版(4月発表)では、年末時の失業者数は当初予測を大幅に上回る危険性が高いという見解を示した。(本文へ)
参考資料
- ILO資料 ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. 3rd Edition
- ILO(29/04/2020)COVID-19: Stimulating the economy and employment.
2020年6月 ILOの記事一覧
- ILO、新型コロナウイルスが労働に与える影響に関する分析を発表
- 広範囲なウイルス「検査・追跡」の実施と若者を対象とした政策措置が必要 ―ILO報告
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