公的年金制度に対する抗議運動が大規模ストに発展
 ―改革審議はコロナ対策で一時棚上げに

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2020年6月

マクロン政権が公約として掲げた公的年金制度改革の骨子が、19年12月に明らかとなった。乱立する42の制度を一本化する改革である。これに反対する労働総同盟(CGT)やフランス労働総同盟「労働者の力」(FO)、連帯(Solidaires)、統一労働組合連合(FSU)などの労組は、12月5日から無期限のストライキを実施した。パリ首都圏の公共交通機関、特に、パリ市内の地下鉄(メトロ)の大部分の路線が閉鎖され、新幹線TGVなどが軒並み運休となり、国民の足に大きな影響が出た。しかし、3月に入って新型肺炎感染拡大の影響により、審議は凍結されることになった。

42の公的年金の一本化改革

マクロン政権は2017年の大統領選挙の公約として年金改革を掲げており42ある公的年金制度を一本化する改革に着手した。今回の改革は、労使との協議を踏まえて18年10月に基本方針が決定し、その後、国民との意見交換を経て2019年12月、フィリップ首相が改革の具体的な骨子を公表した。この改革には特別制度の廃止が含まれていたためフランス国鉄(SNCF)やメトロの職員の多くが支持するCGTを中心とする労組が強く反発した。

公務員や国鉄職員など特別制度を廃止して普遍的制度へ

年金改革の最大の争点となっているのが、優遇制度を含む現行の42の制度を廃止し、普遍的公的年金制度を導入することである。フランスの年金制度は、財政赤字だけでなく、一部の優遇された特権的な年金制度が長年問題となってきた。公務員やSNCF、パリ交通公団RATP(パリ市内の地下鉄やバス、一部の郊外電車の運行)の職員などを対象とした様々な特別制度があり、保険料率や年金支給の条件が異なっている。マクロン政権は、公共部門と民間部門の違いや産業、就労形態などの区別のない普遍的公的年金制度への改革をすすめている。例えば、SNCFやRATPの職員(運転手等)は、現行制度では52歳での年金受給開始が認められているが、1985年生まれ以降の者に対して新たな制度が適用され、受給開始年齢が引き上げられる。同様に、消防士、税関職員、警察官、RATPやSNCFの整備士などは57歳での受給開始が可能であるが、1980年生まれの者から引き上げられる。

この他、今回の改革では支給額の算定方法をポイント制とする改正や、満額支給開始年齢を均衡年齢として設定し、2027年には現行の62歳から64歳への引上げ等が盛り込まれた。

温度差がある主要労組の姿勢

CGTは、公務員及びSNCFでは最大労組であり、RATPでも2番目の勢力を誇るが、今回の改革自体に反対しているだけでなく、近年の改革で引き上げられた62歳の支給開始年齢を60歳へ引き下げることや、公的年金制度の財政均衡のための賃上げや使用者に対する社会保険料使用者負担の免除の廃止などを求めて抗議活動を展開している。

フランス民主労働総同盟(CFDT)は、公的年金制度の改革の必要性には理解を示しており、ポイント制の導入については支持をしているが、支給開始年齢の引き上げや均衡年齢の設定に反対している。改革案が示された段階では政府から妥協を引き出すことも視野に入れつつ交渉を継続し、他の労組に合流して政府の年金改革案への反対も否定しないスタンスをとっていた。そのような曖昧な姿勢のためにCFDT加入の国鉄職員らは組織方針とは異なりストライキに突入することになった。

RATPで最大労組、SNCFでも2番目の勢力をもつ独立組合全国連合(Unsa)は64歳の均衡年齢の設定に激しく反発した。また、FOは、ポイント制の導入に対して反対しているが、年金財政の均衡の必要性は認識しており、現行制度を維持した上での改革を求めている。FOは、当初政府との交渉の席に着いていたが、結局、離脱してストに参加する形となった。

改革案が示された12月初旬には、CFDTは政府と対話する余地を残してストには参加していなかった。しかし、政府は均衡年齢設定を譲歩することはなく、CFDTは同じく均衡年齢設定に反対していたCFTC(フランスキリスト教労働者同盟)とともに、12月17日に行われた3回目の全国規模のストライキに合流し、抗議活動が大規模化、長期化するきっかけとなった。

大規模なストライキは年明けも継続して実施され、1月半ばに状況が改善し2月に入ってからは小規模なストは行われたが、鉄道はほぼ正常運行にもどった。政府は、今年末までには年金制度改革の法整備を終える方針で、1月24日の閣議に法案を提出し、2月17日から国会での審議が始まった。その後、新型肺炎対策の経済支援を盛り込んだ補正予算が3月18日に採択された際、年金改革の凍結が決まった。

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧:2020年6月10日)

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