介護職の人手不足改善のための提言
 ―エルコムリ前労働大臣による報告書

カテゴリー:労働条件・就業環境

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2020年6月

フランスでは高齢化が進んでおり、介護を必要とする高齢者の数は2020年の約139万人から2025年には148万人に増加すると見込まれ、介護従事者を9万人以上増やす必要があるとの予測がある。現在、介護職関係の仕事は恒常的な人手不足の状況にあるため、オランド政権時に労働大臣を務めていたエルコムリ氏が、改善方策をまとめた報告書を提出した(注1)

低賃金で重労働のため、介護分野の人手不足

フランスでは要介護者が年々増加しているなか、介護を担う人材が不足している。とくに、看護助手(aide-soignant)、ヘルパーAES(注2)の7%程度のポストが充足していない。これらの資格取得養成機関の入学希望者も過去6年間で25%減少している。

その要因は、低賃金で重労働のために職業として魅力がなく、尊敬されない職業と見なされているためである。報告書によれば、勤続13年にもかかわらず法定最低賃金水準にとどまる事例もあり、17.5%が貧困線以下となっている。この数字は、一般的な勤労者世帯の6.5%程度と比較して高い。また、労災認定を受ける者の割合が全産業平均の3倍程度となっている。この数字は建設・土木よりも高い(注3)

看護助手、ヘルパーAES

看護助手は、患者の治療において看護師(infirmier)を援助するとともに、患者の日常生活を支援する看護と介護の両面の役割を担うものである。具体的には、排せつの介助、食事の補助、ベッドメーキング、患者の搬送などの業務を担っている。それだけではなく、勤務中に気が付いたことを口頭あるいは紙面で同僚に伝えたり、患者の心身を良好にするための役割など、治療以外の広範な役割が求められている。

看護助手の資格を取得するには、養成機関で10カ月間の教育課程を修了するか、看護師養成課程(通常3年)の1年目を修了する、職業経験認定制度(注4)で資格を獲得するといった方法がある。

2019年現在、公立病院で21万人以上の看護助手が就労しており、月額賃金は公立病院で1,352ユーロ(初任給、各種手当を除く)から1,926ユーロ程度(定年前、各種手当を除く)である。医師や看護師と同様に、夜勤や週末・祝祭日に就労することもある(注5)

ヘルパーAESは、要介護の高齢者や障害者に対する各種援助の必要性を把握し、日常生活の行動を支援する職業である。要介護者の自宅や施設においての生活力の維持・向上や、生活の質の改善を支援する。具体的には、食事の補助、排せつの介助、掃除や洗濯、移動の付き添いのほか、文化・余暇活動に一緒に参加することも含まれる。ヘルパーAESは国家資格であり、取得のためには養成機関で525時間の理論と840時間の実務からなる9カ月から24カ月間の課程を修了する必要がある。

介護の質を適切な水準に引き上げるため介護職従事者20%増を提言

報告書では、介護の質を高め適切な水準を確保するためには、要介護の高齢者数に対する介護職従事者数を20%増加させる必要があるとしている。また、訪問介護サービスを提供する事業所や老人ホームにおける介護の適切化、効率化のために、月4時間のミーティングの義務付けも提案している。このためには、2020年から5年間で92,300人分のフルタイムのポストを増加する必要がある。このためには毎年の資格取得者数を現状の2倍にする必要がある。これらの提案に必要な介護従事者数は、それぞれ、高齢者の介護の質向上が66,500人、高齢者数の増加への対応が20,700人、ミーティング実施に必要な時間数の補填が5,100と試算する(注6)。この増員を達成するために、養成機関の入学試験の廃止や授業料の無償化を提案している。介護業務経験者の中で無資格者の者に職業資格認定制度による資格取得を促進することや、失業者をはじめとする就労者を対象として、介護職への転換を積極的に進めていく必要性も指摘する。このほか、賃金を引き上げるための労働協約締結の必要性や(注7)、採用促進や人材確保の窓口となる「高齢者の支援・介護に関する職種のプラットフォーム」を県レベルで設立することを提案している(注8)

これらの提言は、今後審議される高齢者介護関連法に盛り込まれる予定である。

(ウェブサイト最終閲覧:2020年6月10日)

参考レート

2020年6月 フランスの記事一覧

関連情報