生活賃金改定
 ―ロンドンで10.75ポンド、ロンドン以外で9.30ポンド

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  • 国別労働トピック:2020年3月

生活賃金運動を担う非営利団体Living Wage Foundationは11月、今年の改定額について、ロンドンで10.75ポンド、ロンドン以外で9.30ポンドとすることを明らかにした。およそ21万人余りの労働者が賃金引上げの恩恵を受けるとみられる。

最低賃金との差は、数カ月~1年分の食費などに相当

生活賃金は、最低限の生活水準を維持するために必要な生活費に基づく賃金の下限を設定して(注1)、雇用主に支払いを求める運動で、市民団体や教会、労働組合などが参加して設立されたLiving Wage Foundationが推進を担っている。法定の最低賃金とは異なり、雇用主は自主的に参加して「生活賃金雇用主」としての認証を受ける(注2)。認証雇用主は現在6000組織余りで、年々増加している(注3)。18歳以上の労働者に一律に適用され、年齢等による減額はないが、住居費や物価の格差を考慮し、ロンドンとそれ以外の地域で異なる金額が設定されている。

Living Wage Foundationが11月に発表した今年の改定額は、ロンドンで時間当たり10.75ポンド(20ペンス、1.9%増)、ロンドン以外で9.30ポンド(30ペンス、3.3%増)。ロンドン以外についてより大幅な改定を行った大きな理由は、地方での民間賃貸料や託児費用の上昇が、ロンドンより顕著であったことによるとされる。改定により、認証雇用主の元で働く21万人余りの労働者が賃金引上げの恩恵を受けるとされ、また法定最低賃金(注4)との差額を年換算すると、ロンドンでは年5000ポンド(平均的な世帯の食費・光熱費1年分)、ロンドン以外では2000ポンド(同食費9カ月分)の収入増に相当する、と同団体は試算している(いずれもフルタイム労働の場合)。

なお、改定に合わせて毎年公表されているKPMGの報告書によれば、改定に先立つ2019年4月時点で生活賃金未満の賃金水準の労働者は全体の19%(519万人相当)と推計され、前年から3ポイント(56万人相当)減少した(2012年以降で最も低い水準)。属性別には、パートタイム労働者で38%、フルタイム労働者では12%と大きな開きがあるほか、女性では24%と相対的に比率が高い傾向にある。

最低労働時間の保障等の取り組みも

Living Wage Foundationは低賃金問題への新たな対応策として、複数のキャンペーンを開始している。ひとつは、就労時間が不安定な労働者に最低時間の保障を求める「living hours」で、参加雇用主には、シフトの事前通告時期の下限(最低4週間前)の順守や、週最低労働時間の保障(最低労働時間を16時間とし、実労働時間がこれを下回る場合にも保障された時間分の賃金を支払う)などが求められる。また、地域等における生活賃金普及の取り組みを認証する「living wage places」は、地域内の認証雇用主(自治体や企業など)が核となって、生活賃金の普及に向けた3カ年のプランを作成、実施し、生活賃金の適用労働者の拡大を図るものだ。都市、町、地区あるいは建物といった多様な単位で、認証を受けることができる。

法定最低賃金の動き

一方、法定最低賃金についても、改定の方向性をめぐって検討の動きがある。2016年に、従来の最低賃金制度に上乗せする形で導入された「全国生活賃金」(注5)は、2020年までに平均賃金の6割の水準に達することを目標に引上げが行われてきた。政府は、2020年以降の改定の方向性とや若年層の扱いをめぐって、諮問機関であるLow Pay Committeeに検討を依頼していた。また並行して、財相は9月、低賃金状況の収束を目的に掲げ、全国生活賃金を2024年までに平均賃金の3分の2相当の水準に引き上げるとの意向を示した。平均賃金に関する政府機関(OBR)の予測に基づけば、10.50ポンドへの引き上げに相当する。

これに対してLow Pay Commissionが11月に公表した報告書は、政府の目的自体には賛意を示しつつも、最低賃金額は雇用や経済状況などを考慮の上で決定すべきであるとして、目標を設定する場合にも、目標達成までの段階や達成時期についてこれを逸脱する独立性と裁量が低賃金委員会に認められなければならない、としている。また若年層については、将来的には全国生活賃金の適用年齢を25歳から21歳に引き下げるべきであるとした上で(注6)、段階的な実施の必要を指摘、まずは2021年4月に対象年齢を23歳に引き下げ、以降はその影響を検証しつつ可否を判断するよう提言している。

図表:最低賃金額および生活賃金額の推移
画像:図表

参考資料

参考レート

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