「フレキシブルな就業」につく労働者への支援

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  • 国別労働トピック:2020年3月

2019年12月、国務院常務会議において李克強総理が、雇用安定に向けた社会保険の企業負担低減や障害者・失業者への就業支援等について述べたほか、「フレキシブルな就業」への支持を改めて表明した。近年、中国政府は、「フレキシブルな就業」への支援を目的とした、雇用体制、社会保障のあり方、就職支援サービスなどを提言しており、地方政府の取り組みも進んでいる。

多様化する就業形態と「フレキシブルな就業」

中国では、ITの発展とそれが生み出すシェアリングエコノミーの拡大が進行中だ。政府統計によれば、現在シェアリングエコノミーへの国内参加規模は7億人を超え(注1)、インターネットプラットフォームを通して新しい就業形態の労働が加速度的に増加している。「フレキシブルな就業」とは、これらの新しい就業形態を含めた「非正規就業」の新たな概念として、政府および社会に受入れられている(注2)(以下、新しい就業形態の労働者を新形態労働者、企業を新形態企業、それに雇われる従業員を新形態従業員とする)。

最近の就職傾向調査には、「フレキシブルな就業」に対する労働者の相反するイメージが映されている。大手求人サイト・智聯招聘の「2019年雇用関係傾向調査報告」(調査対象2835人)によれば、調査対象の7割が「フレキシブルな就業」を望んでいるが、その一方で、不安定な収入(73.1%)、社会保障の不在(67.7%)、関連する法律が不十分(45.8%)、信用リスク(31.9%)など、「フレキシブルな就業」への不安も覗かせている。

社会保障支援の重視

国務院が12月24日に発布した『雇用安定へのさらなる取り組みに関する指導意見』(注3)において、「フレキシブルな就業」支援として、新形態労働者の労災保険単独の加入の試験的実施(注4)、「フレキシブルな就業」を制限する不合理な制度の撤廃、就業困難者(注5)を対象としたフレキシブルな就労における社会保険料の補助、といった具体的な政策が示された。近年の中央政府の方針に沿い、各地でも社会保障を軸とした施策が見られる。

浙江省の取り組み

巨大ECサイト・アリババの本社所在地がある浙江省では、省政府が「浙江省新形態労働雇用へのサービスの最適化に関する指導意見」(2019年11月4日)を発表し、「フレキシブルな就業」がもつ主要な二つの課題、『雇用関係の認定』と『社会保障』に関する指導意見を提起した。

雇用関係については、新形態企業と新形態従業員は、法律に基づき「書面労働契約」を結び、労働契約期限は双方協商で確定すべきとした。労使双方合意の上で、電子版労働契約の締結が可能。新形態企業におけるポストが臨時的、補助的、代替的である場合、労働派遣雇用方式を採用できる。「非全日制」の場合、従業員と書面労働契約を結ぶ、あるいは口頭協議を行う。

社会保障については、マルチレベルの保障システムを構築することとした。企業と労働契約を結んだ新形態従業員は法律に基づいて社会保険に加入する。家事サービス企業は家事労働者と労働契約を結ぶ場合、社会保険に加入させる。業務委託契約を結ぶ場合、家事労働者には自主的に企業従業員社会保険また都市農村住民社会保険に加入させる。

新形態従業員は規定により、予め労災保険のみに加入できる。新形態企業や従業員に対しては、医療、労働災害などの民間保険への加入を促す。

その他、新形態従業員の効率的な休暇権利の保障も規定している。新形態企業と新形態従業員間の協議で、労働契約あるいは関連協議中に具体的な休憩休暇或いは経済的な補償方法を明確に記入し、実際の生産状況に基づいて特別労働時間制度を実施する。業務繁忙期には、新形態従業員の健康を損なわない範囲で、作業時間を延長させる。反対に、業務閑散期には、集中休暇、配置転換、交替勤務、雇用調整社会訓練などの方法で、従業員を解雇させない努力を行い、就職の安定を促進する。

上海市の取り組み

上海市は、2019年1月、「フレキシブルな就業集団労働組合会員の経費使用管理弁法」と「フレキシブルな就業集団労働組合会員限定の基本保障権利」を施行した。団体、家事労働者、宅配員、介護看護者、出前配達員などの「フレキシブルな就業」者を適用対象とする。会員は上海労働組合プラットフォームに登録され、実名で管理される。会員費は毎年1人あたり420元(約7000円)で、各会員が120元を負担、上海市労働組合は120元を負担、残り180元は上海市と当該区が50%ずつ助成する。

会員限定の基本保障権利は四つ。入院補助金、指定難病治療保障、労働災害と重度障害状態保障、病気死亡保障で、個人最高保障金額は年9.08万元とされる。

参考資料

  • 中国国務院、中国政府網、浙江省政府網、新民晩報

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