新型コロナウイルス感染拡大防止措置に伴う労働者保護

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  • 国別労働トピック:2020年2月

新型コロナウイルスによる肺炎が広がる中国で、雇用安定など国有企業・民間企業を含めた一連の労働政策が発表された。以下、それら政府方針を時系列にまとめた(注1)

2020年1月24日

新型コロナウイルス患者、感染を疑う患者、濃厚接触者が、患者の隔離治療期間中或いは接触者の健康観察期間中、政府の実施した隔離措置或いは他の緊急措置により通常の労働を提供できない従業員に対し、企業はその期間中の賃金を支払うべきとした。また企業は、労働契約の解除もできない。同期間中に労働契約が期間満了となる場合、従業員医療期間終了、健康観察期間終了、隔離期間終了或いは政府の緊急装置期間終了後まで延期する。

新型コロナウイルスの影響により経営困難に陥った企業は、従業員との話し合いによる賃金調整、交替勤務、労働時間短縮などの方式で雇用を維持し、可能な限り人員削減の防止に努める、或いは人員削減の人数を最小限に抑える。

これに関して、2019年より各地で実施されている雇用安定のための補助金制度が改めてフォーカスされた。同制度は、2018年11月に中国政府から出された雇用維持対策のひとつで、「人員削減を行わない、あるいは、人員削減数が少ない企業に前年度の失業保険料の半分を返還する」という内容のものだ。この方針に沿ってすでに各省・市が個別の制度を制定、実施している(注2)。例えば、上海市では、当該企業の解雇率が定められた数値以下で、且つ上海市産業調整政策、環境保護政策に適合する企業、且つ失業保険を納付している企業であれば、前年度納付した失業保険総額(会社負担分+個人負担分)の50%を、雇用安定の補助手当として企業に還付する(注3)。今回の新型肺炎の影響を受け、中国政府は同制度の適用を促進する考えだ。

労使紛争に関しては、仲裁時効の停止が定められた。新型コロナウイルスの影響により当事者が法定仲裁時効期間中に労働人事争議仲裁を申し込むことができない場合、仲裁時効が停止し、時効計算は順延される。

2020年1月26日

春節(旧正月)の休暇期間〔1月24日から30日の7日間〕を2月2日(日)まで延長する。また、肺炎感染拡大の状況を受け、各地域は休暇期間をさらに延長すると発表した。2月13日までとした湖北省を除いて、上海市、北京市、浙江省などの地域は企業に対して、2月9日まで操業停止を指示した。天津市、陝西省、海南省、チベット自治区、青海省は未定とされた。

延長された春節休暇は法定休日になり、企業は従業員に対して賃金を支払う。法定休日に出勤する従業員に賃金の2倍(時間や日を単位として)を支払わなければならない。

2020年2月6日

「国計民生」に関連する企業への支援

新型コロナウイルスによる感染拡大防止、公共事業運行及び国民生活必需を保障する企業などのいわゆる「国計民生」(注4)に関連する企業および建設・鉄道等の大型プロジェクトにおいて、雇用募集情報を優先的に発表させ、企業の雇用需要を満たす。春節休暇期間(1月24日~2月9日)に感染拡大防止のための緊急必需品を生産・配送していた企業に、一括で雇用手当を補助する。

活動再開企業の準備

各地方政府は、管轄区域の企業の活動再開日時を把握し、地域の人力資源・社会保障部のホームページやSNS(ウィーチャットの公式アカウントなど)を通じて公開する。企業に対しては、企業が電話やSMS、電子メール、SNSなどの方法を通して、従業員に職場復帰日時を伝えるよう促す。農村出身の都市労働者である農民工など、流動性の高い労働者には「予防冊子」を配布し、労働者の在宅隔離と職場復帰のための基礎的な知識を指導する。

感染が重大な地域の労働者支援

暫く外出が困難で、就職を希望する農民工に対して、居住地近くに新規雇用を創出する。起業を希望する農民工は当該地域の起業支援制度を利用し、一括で起業手当を受け取ることができる。湖北省など感染が重大な地域で感染拡大防止措置(注5)の影響により失業した従業員に、失業補助金を給付する。感染拡大防止措置の影響で従業員が職場復帰できず、通常の労働を提供できない場合、企業は労働契約を解除できない、あるいは、労働派遣者を派遣元に返すことはできない。

新卒者の就職活動の整備

会場を使用して行われる大学生の就職活動は暫く停止する。国および地方の就職支援サイト、大学卒業生専門の就職支援サイトを活用し、就職支援サービスを行う。オンラインで就職面接、労働契約の締結、入社手続きなどを実施する。事業組織と国有企業の2020年度雇用活動も筆記面接時間を調整し、延期する。公的人材サービス機構、人力資源サービス機構などの組織はオンラインで就職支援サービスを行い、テレビ電話による就職面接、遠隔面接、映像による雇用情報の公表など、多様な採用活動を実施する。

2020年2月7日

話し合いによる柔軟な労働管理

在宅勤務の可能な企業は、従業員との話し合いにより、従業員が電話やインターネットなどを通じた柔軟な方法により業務を行うようにする。

在宅勤務ができない企業は、従業員との話し合いにより、優先的に有給休暇や企業独自の休暇などを利用させる。出勤する従業員に時差出勤やフレックスタイムなどの方式で柔軟な出勤時間を採用する。

給与計算における特別対応

従業員が通常の労働を提供できない場合、次の通り給与を計算する。「休暇」日数のうち、賃金支払基礎日数(最長30日)を超えない部分については、企業は従業員が通常の出勤をしたとみなし、当該従業員に定められた給与を支払わなければならない。「休暇」日数のうち、賃金支払基礎日数を超える部分については、当該地域の最低賃金基準に基づき給与を支払わなければならない(注6)

経営困難な企業は、企業の労働組合や労働者代表と話し合いを行い、給与の支払を延期することができる。

隔離により従業員が通常の労働を提供できない場合、企業は当該従業員に給与を支払わなければならない。隔離終了後に治療を必要とする従業員については、医療期間中の賃金支払基準規定に基づき給与を支払う。

企業負担の削減

企業の求人募集活動のコストを削減する。オンラインでの求人募集活動を支持する。人材削減が少ないあるいは人材削減のない企業に対し、先に述べた失業保険料の一部返還という形での「雇用安定補助金」を与える。オンラインで無料の職業訓練を行う。

参考文献

  • 中国政府網、国務院弁公庁、人力資源・社会保障部、最高人民法院網

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