雇用維持対策としての民間企業支援

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  • 国別労働トピック:2019年4月

景気の減速を受け、中国政府は2018年11月、雇用安定を図るための「国務院の現在と今後一定期間の就業促進業務にかかる若干意見」を発表した。人員削減を行わない企業や起業家・零細企業への優遇策、失業者への就業支援などを定めたもので、雇用維持・雇用促進への姿勢を明確にしている。国によるこれらの規定を基に各地域で具体的な実施方法を策定し、2019年1月1日に施行された。

企業支援の必要性

中国人民大学の中国就職研究所と大手人材会社「知聯招聘」は、共同で、2018年第4四半期の「中国就職市場景気報告」を発表した。労働市場の景況を示すCIER指数(当該期の求人数を求職者数で割った値)は、対前年比で0.53ポイント下がり、2.38にとどまった(2017年同期は2.91)。企業規模別のCIER指数は、大企業(従業員10000人以上)で2.50、中規模企業(従業員500~9999人)で1.23,小企業(従業員20~499人)で1.02,小微企業(注1)で1.10と、いずれも対前年比で減少した。

就職環境が以前より厳しくなりつつある中国では、民間企業が雇用創出の主力として認識されている。習近平主席は、2018年11月1日に開かれた民営企業座談会で、「中国において、民間企業は税収の50%、GDPの60%、技術革新の70%、都市部雇用の80%、企業数の90%を占めている。我が国の民営経済はもはや我が国の発展に不可欠の力になっている」と述べ、民間企業を支持する立場を示した。

中央政府の「雇用維持対策」

2018年7月、中国政府は「雇用安定、金融安定、対外貿易安定、外資安定、投資安定、所期安定」という6つの経済発展目標を設定し、「雇用安定」を最優先課題とした。同11月、政府は「国務院の現在と今後一定期間の就業促進業務にかかる若干意見」(以下、「雇用維持対策」)(注2)を発表し、①企業の安定的発展の支援、②起業・雇用の奨励、③技能・職業訓練の実施、④失業者支援、⑤行政責任の明確化―を柱とした全15項目を定めた(表1)。また、各項目に対してそれぞれ担当する関連官庁部門の責任なども明確にした。

新たな対策のいくつかのポイントは、人員削減を行わないか削減人数の少ない企業に前年度失業保険料を50%返還、就業困難な起業家への融資額の引き上げ(注3)、「小微企業」に対する融資条件の緩和、実習補助金対象者の拡大(注4)、失業者等への職業訓練期間中の生活補助金の付与、就業支援の強化―等である。

表1:雇用維持対策の15項目
対策項目 対策内容
企業の安定発展への支援
  • 人員削減を行わない、あるいは人員削減数が少ない企業に前年度の失業保険料の半分を返還する。
  • 政府系による中小企業信用保証機関の役割を強化する。
起業・雇用の奨励
  • 起業保証融資条件を満たした起業者に、最高15万元(約250万円)を超えない起業保証融資を付与する。新規募集人数が当該企業の従業員数の25%を超え、かつ1年以上の労働契約を結んだ「小微企業」には、最高300万元(約5000万円)を超えない起業保証融資を付与する。
  • 起業インキュベータの創設を支援。失業者の起業に対し、経営場所を無料で提供する。
  • 2019年1月1日の3年間で、若者300万人の実習計画を実現する。16-24歳の若者失業者に実習補助金を付与する。
技能・職業訓練の実施
  • 2019年1月1日~12月31日の期間、経営状況の困難な企業の従業員教育訓練費用に補助金を付与する。
  • 2019年1月1日~2020年12月31日の期間、失業者のうち就職困難者と就業者のいない家庭に、職業訓練期間中につき、生活補助金を提供する。一人たり年1回に限られる。
  • 2019年1月1日~2020年12月31日の期間、技能・技術補助金への申込条件につき、失業保険の最低加入期間を3年から1年に緩和する。
失業者への支援
  • 本籍問わず、失業者は常住地の公共就業サービス機構に失業登録をし、当該地域の就業創業サービス、就職支援政策、創業就業税金優遇政策などの就業支援を受ける。
  • 「失業保険待遇」の確実な実施(注5)。失業者に対して、失業保険金の給付、および、個人が支払うべき基本医療保険料の失業保険基金からの支払い等を確実に実施する。
  • 生活の困難なレイオフ者に生活補助金を提供する。
担当官庁・地方政府の責任
  • 中央政府による雇用維持対策の発表から30日以内に、各地方政府は具体的な実施方法を公布しなければならない。
  • 各部門は協調し、雇用維持対策を実現させる。
  • 対策実施のサービスを確実にサポートする。
  • 企業に対して社会責任の履行を指導する。

地方政府による支援策

各地方政府は、前述の「雇用維持対策」に基づき、地域の現状に応じた具体的な支援方法を策定、公布した。国が定めた規定を変更せずに用いる地方政府も多いが、それを上回るような雇用支援策を打ち出すケースもある。

とりわけ社会保険料(注6)に関しては、複数の省で国の規定を上回る内容が定められた。湖北省では、人員削減を行わない企業に対する前年度の失業保険料の返還率を、国が規定する50%から70%に増額した。山東省では、社会保険料の引き下げ(失業保険料を3%から1%へ)を行うほか、社会保険料支払いの延期も可能とした。2019年1月1日~2020年12月31日の期間、3カ月以上連続で従業員に最低賃金を支払えない場合、あるいは3カ月正常な経営を行えず、従業員に生活費しか払えない場合、社会保険料の支払いを延期または滞納金の免除が可能となる。江蘇省では、失業保険料を3%から1%に下げるほか、経営困難な企業に対し、基本医療保険以外の社会保険料を最長6カ月延期して支払うことを認めた。

より積極的な独自の取り組みを行う省もある。広東省では、2018年11月末に、「さらなる就業促進の若干措置に関する通知」(通称:「就業促進9条」)を発表し、社会保険料の削減から、就業困難者への支援までを具体的に規定した。「就業促進9条」の実施に向け、省政府は、失業保険基金からの185億元を合わせ、総計400億元近くの雇用安定化資金を拠出する。この他、北京市では、就職困難者、退役軍人、企業の余剰人員などを雇用する場合に企業に与えるポスト手当額の増額(一人あたり毎年5000元から8000元に引上げ)を決定した。

参考資料

  • 中国政府網、人民網、第一財経、経済日報、中国就業研究所

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