「仕事の未来」に向けてすべきこととは
―雇用アウトルック2019

経済協力開発機構(OECD)は加盟国の雇用情勢をまとめた報告書『雇用アウトルック2019』を2019年4月に公表した(注1)。本報告書は、変化する労働環境に各国が適応できるように、政府一体の取り組み「あらゆる人に有効な未来のための移行計画(Transition Agenda for a Future that Works for All)」を提案している。

デジタル化やグローバル化が進展しても雇用は減少しない

デジタル化やグローバル化によって仕事が失われるのかとの問いに対し、報告書は、現在の仕事の14%は完全に自動化され、32%は内容が変化する可能性があるとしながらも、失われる仕事がある一方で新たな仕事が生み出されるために、雇用を大幅に減少させるには至らないと予想している(図1)。来たるべき変化に対応するため、斜陽産業や地方で働く労働者の円滑な労働移動を促す施策の重要性をOECDは指摘している。

図1:仕事の自動化・変容リスク
図1:画像

注:自動化リスク:自動化される可能性が少なくとも70%ある仕事の割合
変容リスク:自動化される可能性が50~70%ある仕事の割合

出所:OECD Employment Outlook 2019

全ての労働者に対する労働法の保護と社会保障制度の見直しが必要

デジタル化は被雇用者と自営業者の中間のような新しい就業形態―雇用類似労働者を生み出しているが、こうした労働者は、雇用労働者の保護を前提とした既存の法制度の下では十分な保障を受けることが難しい。こうした労働者を加えた新しい保護規制の必要性を報告書は指摘している。しかし、新しい規制により使用者が一方的に不利益を被る可能性もある。そうしたことを防ぐために、労使間の利害調整においても新しい取組みが求められる。具体的には、使用者の恣意的な労働量や価格のコントロール等の労働市場操作の防止、労使間の情報の非対称性を防止するための措置の整備を挙げている。

また、今後の拡大が予想される柔軟な働き方について、それに対応した社会保障のあり方を見直す必要がある。パートタイムや有期契約の雇用労働者、雇用類似労働者を対象とした失業保険、健康保険、年金といった社会保障制度は十分に整備されていない。デジタル化やグローバル化の進展により、労働市場が急変する可能性が高まるなか、既存の社会保障制度の変革が必要だとOECDは指摘する。そのうえで、変更に伴う財政支出に関し、加盟諸国が積極的な政策論議を行なうよう促している。

仕事の未来に団体交渉は重要

環境の変化が避けられないなか、1985年に30%であった加盟国の労働組合組織率は徐々に減少し、2016年には平均で16%となった。このことが労働分配率の低下につながっているため、既存の労働組合員である雇用労働者だけでなく、その他の労働者(新しい就業形態の就業者等)をも包含する新しい労働組合によって、労使間の力関係の均衡を再構築する必要があることをOECDは指摘した。

団体交渉は、環境変化に伴う労働者の新たな権利の形成や労働者の権利を脅かす新技術の利用規制のあり方を探る上で有効と言える。そのためOECDは、現在続いている組織率の低下に警鐘を鳴らしており、これまで組織化の対象とされていなかった非典型労働者にも団体交渉・社会的対話への参加を拡大すべきと主張している。

成人学習の強化

「仕事の未来」が叫ばれるなか、ICT等の新たな仕事に対応したスキルを持つ労働者は少数にとどまっている。研修を最も必要とする労働者―非典型労働者の他、低技能、高齢の労働者、失業者等―ほど、時間的・金銭的制約や支援不足等、研修への参加に障壁を抱えており、政府および企業による十分且つ持続可能な資金の提供、既存の教育プログラムの再編が必要だとOECDは指摘している。

あらゆる人に有効な未来のための移行計画

より包摂的で、実りある仕事の未来を築くために、介入を最も必要とする人を対象とした政府一体の取り組み、「あらゆる人に有効な未来のための移行計画(Transition Agenda for a Future that Works for All)」が求められる。主要政策の効力や対象設定を向上させるためにできることは多々あるが、それには包括的な支出見直しに取り組み、公共政策目標と解決策に関する政府一体の取り組みを深めることが必要である。OECDは、雇用保障、社会保障、生涯学習、社会対話という4つの主要分野に焦点を当てるよう、各国に提言している(図2)。

図2:あらゆる人に有効な未来のための移行計画
図2:画像

出所:筆者作成。

参考

2020年1月 OECDの記事一覧

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