移民政策の諮問機関、労働力不足職種リストの拡充を提言

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  • 国別労働トピック:2019年7月

移民政策の諮問機関Migration Advisory Committeeは2019年5月、労働力不足職種リストの見直しに関する報告書をまとめた。医療、ITなどの分野を中心に、現在の人手不足の状況を考慮して、従来のリストからの大幅な拡充を提言している。一方で、EU離脱後に想定される新たな移民制度では、受け入れ手続きの簡素化などで、リストに基づく受け入れのメリットは減少する見込みであることから、将来的にはリストの役割自体を見直すよう提案している。

対象職種の大幅な拡大案

労働力不足職種リストに該当する仕事にEU域外からの労働者を受け入れる場合、通常の受け入れにおいて求められる労働市場テスト(国内での一定期間の求人)が免除され、月ごとに設定されている数量制限に達した際に、優先的な受け入れが認められるほか、ビザの申請に係る料金の減免や、5年間の滞在後に永住権を申請する際に、所得水準に関する要件(年収35800ポンド)が免除されるといった利点がある。

2013年以降、2度目となる今回の全面的な見直しでは、医療、エンジニアリング、科学、デジタル・ITなど8分野(注1)における労働力需給状況の検証のほか、中~低技能職種の状況についても検討の上、リストの大幅な拡充を提言している。国内の全般的な労働力不足への対応が理由に挙げられている。従来のリストに含まれる職種が、国内の雇用の1%弱相当(約18万人分)にとどまったのに対して、今回提案されたリストでは、およそ9%(250万人)の雇用に相当する職種が含まれることになる。特に、人材の調達が困難になっているとみられる医師、看護師、またプログラマー・ソフトウェア開発職といった職種については、職名を特定せずにリストの対象とすることをMACは提言している。ただし同時に、大幅な拡充に伴うリスクも指摘、運用実態を観察し、問題がある場合はさらなる見直しを行うよう内務省に要請している。

加えて、予定されるEU離脱後の移民制度では、MACの昨年の提言を受けて、数量制限や労働市場テストを廃止するとの方針が政府によって示されており、労働力不足職種リストによる受け入れのメリットは、従来よりも曖昧になるとみられる。MACは離脱後の移民制度がより明確になった上で、労働力不足職種リストの役割について改めて検討を行うべきであるとしている。

なお、政府はMACに対して、現在スコットランドについて作成されている補足的なリスト(注2)を、ウェールズや北アイルランド向けに作成する必要性についても、検討を諮問していた。MACは、これらの地域における労働力不足職種は概ね全国的にも不足が認められるものであり、現時点では追加のリスト作成の必要はない、と結論付けている。

看護師の減少に域外からの調達を拡大

離脱に関する2016年の国民投票以降、EU域内からの労働者の流入は急速に減少しており(図表)、複数の業種で既に労働力不足が生じているとされる。MACの報告書も取り上げている医療部門でも、医師・看護師の不足により公的医療サービスが困難に直面しているともいわれる。看護師協会NMCによれば、EUからの看護師の新規登録数は、2016年まで増加傾向にあったものの、以降は急速に減少(注3)。並行して進むイギリス人看護師の離職と併せて、看護師不足に拍車をかけている。

対応策として、政府は昨年、医師・看護師のEU域外からの受け入れを通常の専門技術者の受け入れに係る数量制限から除外することとし、結果として、2018年には域外からの看護師の新規登録が前年の倍以上(注4)に増加したが、今後も同様の状況を維持し得るかは不透明だ。

また一方、国内の看護師育成を拡充するとの方針も従来から示されているが、公的医療サービス(NHS)の訓練生はむしろ減少が続いている。これには、一昨年に廃止された奨学金制度の影響も指摘されている。現地メディアは、政府内部の報告書も今後数年にわたり、数万人規模の看護師不足を予測している(注5)、と報じている。

図表:就労目的のイギリス人・外国人の地域別純流入数の推移 (千人)
図表:画像

注:1年以上の滞在(予定)者に関する推計。各期のデータは直近12カ月のもの。2017年以降については統計局のデータからの試算。

出所:Office for National Statistics 'Migration Statistics Quarterly Report'

参考資料

参考レート

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