コンピュータによる代替リスクの高い雇用、非熟練職など150万人分
 ―統計局試算

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2019年7月

統計局は2019年3月、職種別の自動化(コンピュータによる代替)リスクに関する試算結果をレポートにまとめた。高リスク職種は、飲食店や小売業の非熟練職のほか、農場作業者、縫製工、清掃・家事作業者などで、現状ではおよそ150万人(就業者の7.4%)の雇用に相当。女性の比率が高く、また多くがパートタイム労働者だ。ただし、こうした職種の雇用が一様に減少傾向にあるわけではないという。

高リスク職種の雇用は必ずしも減少していない

自動化リスク(automation risk)は、ある職種を構成する複数の作業(タスク)が、コンピュータ制御の装置によってどの程度代替可能かを指標化したもの。統計局は、代表的な先行研究(注1)をベースとしつつ、従来の職種毎の分析よりも、職業に含まれる代替不可能なタスクを重視して指標を作成したとしている。

試算結果によれば、特に自動化リスクが高い職種は、給仕係(ウェイター・ウェイトレス)や商品陳列作業者、非熟練販売職など、飲食店や小売業の非熟練職のほか、農場作業者、縫製工、清掃・家事作業者など。2017年時点では、就業者の7.4%にあたる約150万人がこうした職種に従事しており、男女別には女性が、またフルタイム・パートタイム別ではパートタイム労働者がそれぞれ7割を占める。一方、自動化リスクが低い職種は、医師・療法士、教員、研究者などの専門職で、就業者で約550万人(27.7%)に相当する。

高リスク職種では、代替の進行に伴って雇用が減少していることが予想されるが、2011年以降の雇用量の変化を見る限り、この想定は必ずしも当てはまらない、と統計局は述べる。高リスクの上位20職種では、この間の雇用の減少は4万6000人分(マイナス0.5%)に留まり、また職種毎にも傾向が大きく異なる(図表)。レポートは、高リスク職種のうち雇用がわずかに減少したものについて、自動化がある程度進んだことを示すものではないか、とみている。なお、低リスク職種では、2011年以降で2.4%の雇用の増加がみられたとしている。

図表:高リスク職種とリスク指標、雇用の変化
図表:画像

レポートは加えて、自動化リスクにかかわる職種別のスキルやタスクの傾向を捉えるため、高リスクと低リスクのそれぞれ上位50職種について、職業の内容の説明から出現頻度の高い関連語を抽出している。高リスク職種では「機械」「操作」「清掃」「装備」「積荷」など、低リスク職種では「計画」「患者」「研究」「治療」「準備」などが、それぞれ頻度が高かったという。

技術進歩は経済社会や雇用をどう変えるか

シンクタンクのRSAは同月に公表した報告書(注2)で、技術の進歩に伴う経済社会や雇用の将来像として、4つのシナリオを提示している。

その一つ、「Big Tech Economy」(大テクノロジー経済)では、急速な技術進歩によって、製品やサービスの大幅な質的向上と、交通やエネルギーを含む日常生活のコストの減少がもたらされる。ただし失業や経済の不安定さが増大し、成長の利益はごく一部の米国や中国のテクノロジー企業に集中。急激な変化に労働者や労働組合は対応できない。

次の「Precision Economy」(精度経済)は、強力な監視の世界として描かれる。技術の進歩は緩やかだが、センサーの普及により企業が物や人、環境に関してより多くの情報を収集・分析することで付加価値を生み出す。ギグプラットフォームがより注目され、レーティングの制度が職場で普及する。一部の人々が、こうした傾向はプライバシーを侵害して主体性を奪い、過度に競争的な職場文化を作ると嘆く一方、他の人々は、努力がより報われる、より能力主義的な社会がもたらされたと考える。高度に連結した社会では、遊休のリソースが減少するため、無駄をより少なくするという波及効果を生む。

Exodus Economy」(脱出経済)は、経済成長の減速で特徴づけられる。2008年の経済危機は、イノベーションに向けられる資金を枯渇させ、低技能・低生産性・低報酬のパラダイムにイギリスを捕らえ続けている。さらなる歳出削減に直面して、労働者は資本主義に彼らの生活を改善することはできないと考え、代替的経済モデルに関心が集まる。食料やエネルギー、金融といった人々の経済的ニーズに対応するため、多くの協同組合や互助組織が出現する。一部の労働者は低賃金による貧困にあえぎ、他の者は都市から離れるなど、より効率的な生き方を見つける。

最後の「Empathy Economy」(共感経済)は、責任ある管理(stewardship)による未来を描く。技術は急速に進展するが、その危険性に関する意識も高まる。テクノロジー企業はそうした懸念に対応して自主規制を行い、外部の利害関係者との協働により多くの人の条件に合った新たな製品を生み出す。自動化は、労働者や労働組合とのパートナーシップにより緩やかに進む。雇用の好調に支えられて拡大する可処分所得が、教育や介護、娯楽といった「共感業種」(empathy sector)に流入する。この傾向は広く歓迎されるものの、感情労働(他の人々のニーズに応えるため、働く人々が感情の管理・抑制を行うこと)という新たな課題をもたらす。

教育訓練の促進など基本的な制度整備が重要

報告書は、各シナリオには長短があるとして、特定のシナリオの実現を求めることは避けている。その上で、将来の如何を問わず緊急かつ効果が期待できる施策として、国民の教育訓練への参加促進を図る施策(個人別学習口座)の試行や、低技能職種の社会的・経済的ステータスの改善に向けたライセンス制の導入、自営業者に対する課税と権利保障の両面の強化、税制のバランスの見直し(不労所得に対する課税強化)、さらに、新たな働き方に対応した労働組合の機能拡大の奨励などを提言している。

参考資料

  • Office for National Statistics "The probability of automation in England: 2011 and 2017"
  • Gov.uk新しいウィンドウRSA新しいウィンドウ 各ウェブサイト

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