政府、職業訓練生の最低賃金導入を検討
 ―2020年から月額515ユーロ

政府は、法定最低賃金の適用対象外となっている職業訓練生に対する最低賃金の導入を検討している。法案によると、今後、職業教育訓練法(BBiG)の改正を通じて2020年から月額515ユーロの最低賃金が導入される見込みだ。

段階的引き上げ、さらに上乗せ手当も

職業訓練生の最低賃金は、2020年の導入当初に月額515ユーロ、2021年に同550ユーロ、2022年に同585ユーロ、2023年に同620ユーロへと、4年かけて段階的に引き上げられる予定である。さらに、訓練年数に応じて、訓練2年目に18%、3年目に35%の上乗せ手当が加算される。

最低賃金の導入によって、労働協約を締結していない訓練生、あるいは美容や飲食などの賃金が低い業種の訓練生、旧東ドイツ地域の小規模・零細事業主のもとで働く訓練生等の待遇改善につながることが期待されている。ただし、施行予定日の2020年1月1日の時点で締結済みの労働協約は、逸脱が可能で、その場合は最低賃金を下回ることもあり得る。

適用除外の「訓練生」と「一部の実習生」

ドイツでは2015年に全国一律の法定最低賃金が導入された。最低賃金法(MiLoG)は、労働協約による逸脱を認めていないが、22条において「職業訓練生(Auszubildende, Azubi)」と「一部の実習生(Praktikant)」に対する適用除外を規定している。

「職業訓練生(Azubi)」は、実務と座学を並行して行う二元的な訓練制度(デュアルシステム)の枠内で学ぶ者が多い。約350ある職業訓練職種のうち、男性は自動車や機械、電気などの技術職種、女性は小売や事務などのホワイトカラー職種を希望する者が多い。

訓練内容は、企業における実務が週3~4日、職業学校における座学が週1~2日と、実務の比重が大きい。企業と訓練生は「職業訓練契約」を締結し、期間中は訓練手当(月額賃金)が支給され、社会保障の対象にもなる。訓練内容は法律で規定されており、期間は職種や受講生の保有資格によって2年~3年半、最終試験に合格すると訓練修了資格が取得できる。

職業訓練は企業・訓練生双方に参加義務はなく、あくまで自主性に基づく制度である。また、若者が労働市場に入るための主要経路の一つとなっているが、訓練後の採用保障はなく、長期間にわたり薄給(法定最低賃金の適用対象外)で多くの業務をこなさなければならないため、一部の訓練生から不満の声も上がる。他方で、企業にとっては、数年間の訓練を通じてより良い人材を獲得したいという思惑のほか、当該地域における社会的責任を果たすために、多くの訓練生を雇い、時間や費用をかけて人材育成を行っているという側面もある。

「実習生(Praktikant)」は、企業で研修する者を指し、原則として法定最低賃金の適用対象である。しかし、例外的に一部の大学や校則等で、履修課程の一環で義務として実習を行う場合等は、最低賃金法22条によって、法定最低賃金の適用対象外とされる(詳細は注1)。なお、今後導入予定の月額最低賃金が、このように法定最低賃金の適用対象外となっている一部の実習生にも適用されるかについては、政府広報や現地報道等でまだ明らかにされていない。

労組は賛成、産業界は批判

統一サービス産業労働組合(ver.di)は今回の法案を歓迎している。その上で、最低賃金の額は、職業訓練生の労働協約締結額(全体平均)の8割以上とすべきだと主張している。これに基づくと、月額最低賃金は660ユーロになる。

他方、産業界や手工業界からは、企業にとって大きな負担になるとの批判が出ている。法案を担当するカルリチェク連邦教育研究省(BMBF)大臣も「最低賃金は企業が実際に支払える額であるべき」という点を強調している。与党のキリスト教民主同盟(CDU)広報担当者は「職業訓練生に対する最低賃金が導入されれば、企業が自主的に行っている職業訓練ポスト数が減少する可能性もある」との懸念を示している。

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