最低賃金額、2019年4月から8.21ポンドに

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2019年1月

最低賃金制度に関する政府の諮問機関は10月、2019年4月からの最低賃金額の改定案を政府に示した。景気の安定や雇用の好調などを受けて、成人向けの基本額を4.9%引き上げて時間当たり8.21ポンドとするほか、若年層向けの額についても4%前後の引き上げを提案するもの。政府は、最低賃金の額を2020年までに平均賃金の6割に引き上げるとの目標を掲げており、この方針に沿った委員会の改定案を歓迎、これを承認した。

平均賃金の6割を目標とした改定案

最低賃金制度は従来、年齢別など4区分による「全国最低賃金」(National Minimum Wage)で運用されていたが、最低賃金額のさらなる引き上げ策として、25歳以上層を対象とする「全国生活賃金」(National Living Wage)(注1)が2016年に新設された。全国生活賃金は、従来の最低賃金とは異なり、2020年までに平均賃金(賃金統計における中央値)の6割相当額に引き上げるとの目標が掲げられている。毎年の改定額の検討は、諮問機関である低賃金委員会(Low Pay Commission)が担うが、政府は今回の諮問あたり、従来の最低賃金については雇用への影響に重点を置く一方、全国生活賃金については、経済への影響を勘案しつつ目標額の達成に向けた改定案を検討するよう求めている。

委員会は、目下の持続的な経済成長や雇用の好調、このところの賃金水準の上昇(直近7カ月連続)、さらに現時点で参照可能な経済や雇用に関する予測などを踏まえ、引き続き政府目標に向けた改定が妥当との判断を示し、全国生活賃金額の来年の改定額について、前年から4.9%(38ペンス)引き上げて8.21ポンドとする案を示した。また、25歳未満層については、21-24歳層向け額を7.70ポンド(前年から32ペンス、4.3%増)、18-20歳層向け額を6.15ポンド(同25ペンス、4.2%増)、16-17歳向け額を4.35ポンド(15ペンス、3.6%増)、アプレンティス(見習い訓練参加者)向け額を3.90ポンド(20ペンス、5.4%増)とすることを提案した。委員会は、この改定によりおよそ200万人が賃金引き上げの対象となるとみている。

また、政府が目標達成の期限としている2020年の改定額について、委員会は目安として8.62ポンドとの予想を示している。ただし、来年3月に予定されるEU離脱をめぐる交渉の状況を含め、不確定要素を懸念材料として挙げており、経済状況やその見通しが悪化する場合、雇用の保護を優先して、目標額への改定を断念すべきかを検討するとしている。政府は、引き続き目標達成に向けて改定を行うべきとする委員会の案を歓迎、これを承認した。

最低賃金額の大幅な引き上げを伴う全国生活賃金は、その導入前から雇用や企業業績に悪影響が生じる可能性が懸念されてきたが、これまでのところ、そうした影響は生じていないとみられる。ただし、今回の改定案の検討に際して委員会が実施した一般向け意見聴取に対しては、経営側から、年々の改定により影響を受ける雇用主の拡大や、費用負担の増加をめぐって懸念も示されている(注2)。とりわけ小規模企業の雇用主の間では、年々の利益の減少から事業の維持を危ぶむ声も聞かれるという。

生活賃金、控えめな改定

なお11月には、非営利団体などが推進する「生活賃金」(living wage)の改定額が公表された。最低限の生活水準を維持するための賃金額として、雇用主に自主的な導入を求めるもので、運動を主導するLiving Wage Foundationによれば、国内で4700超の雇用主が参加している。改定額は、ロンドンで時間当たり10.55ポンド(前年から35ペンス・3.4%増)、ロンドン以外で9ポンド(同25ペンス、2.9%増)と、前年の引き上げ幅(それぞれ4.6%と3.6%)を下回る結果となった。

改定に合わせて毎年公表されているKPMGの報告書によれば、改定に先立つ2018年4月時点で生活賃金未満の賃金水準の労働者は、就業者全体の22%にあたる約575万人で、前年の21%から1ポイントの上昇(約25万人の増加に相当)となった。女性が約6割(350万人)を占め、就業形態別には、パートタイム労働者で43%、フルタイム労働者で13%となっている。年齢階層別には、若年層(18-21歳層)でとりわけ比率が高い(68%)。また、生活賃金未満の労働者が多い職種は、販売・小売補助(75.6万人)、キッチン・ケータリング補助(42.9万人)、清掃・家事(38.7万人)、介護(30.6万人)、未熟練倉庫職(17.8万人)、など。

図表:最低賃金額および生活賃金額の推移
画像:図表

参考資料

参考レート

2019年1月 イギリスの記事一覧

関連情報