第四次メルケル政権発足
―連立協定書に基づく今後の労働政策骨子

「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」と「社会民主党(SPD)」の連立協定が3月4日に成立し、それに伴って14日に第四次メルケル政権が正式に発足した。連立協定に基づき、今後様々な政策が実施されるが、労働面では労使自治の強化や有期雇用の濫用規制などが予定されている。

半年近い政治空白に終止符

昨年9月24日の総選挙後、メルケル首相率いる「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」は当初、「自由民主党(FDP)」と「緑の党(Grüne)」との三者の連立交渉を行った。しかし、一部の政策で折り合うことができず、11月19日に交渉が決裂。その後、下野(野党)宣言をしていた「社会民主党(SPD)」と交渉を行った結果、3月4日に連立協定が成立し、半年近い政治空白にようやく終止符が打たれた。

良質な雇用の実現に向けた諸政策

180ページ近い連立協定書には、今後4年間で実施する政策のロードマップが記されている。労働政策については「良質な雇用(Gute Arbeit)(注1)」を中心に据えて、その実現に向けた取り組みを行うとしている。以下にその概要を簡単に紹介する。

1)有期パートタイム請求権(フルタイム復帰権)の導入

「有期パートタイム請求権」の主な概要は以下の通りである。これは、家庭の事情(育児や介護等)でフルタイムから一時的に労働時間の短縮(パートタイム)を希望する労働者に付与される権利で、一定期間後再びフルタイムに戻る権利を有するため、「フルタイム復帰権」とも言う(注2)

  1. 認められた有期パートタイム期間中に、労働時間の短縮や延長、または以前の労働時間へ早期回復を求めることはできない。
  2. 有期パートタイム請求権の適用を受けるのは、原則として45人以上の従業員を擁する企業である。
  3. さらに、従業員数が200人以下の企業の場合、従業員15人につき1人に限って請求権を付与する。これ以上の請求が発生した場合、使用者は申請を拒否することができる。
  4. 有期パートタイム期間は原則1年以上5年未満とする。それ以外の期間(1年未満あるいは5年以上)については、使用者は有期パートタイムを拒否できる。ただし、協約当事者はこれと異なる規則の取り決めが可能である。
  5. 有期パートタイムの終了後、労働者は、早ければ1年後に改めて労働時間短縮を求めることができる。

2)呼び出し労働の処遇改善

呼び出し労働(on-call work)が増加しているが、当該労働者の安定を保証するための法律を導入する。例えば、週労働時間に関する合意がない場合、週20時間とみなされる。また、病気等で働けない場合には、直近3カ月間の平均収入が算定基礎となる。

3)有期雇用の濫用規制

75人を超える従業員を擁する企業では、全従業員の最大2.5%までしか正当な理由がない有期雇用契約は認められない。この比率を超えて正当な理由がないまま有期労働者を採用している場合は、いかなる契約も無期で成立しているものと見なされる。また、正当な理由のない有期雇用は、18カ月(従来は最大24カ月)までしか認められない。この期間を上限とする契約更新は1回のみ(従来は3回)である。さらに、同一使用者と従前に、無期、または1回もしくは複数回の有期雇用契約を合計5年以上結んでいた場合、その有期雇用契約は認められない。なお、5年という最長期間には、現在、有期雇用で働く者が従前に、1社以上の派遣会社に1回以上派遣されていた期間も算入する。同一使用者との新規の有期雇用契約は、3年の待機期間終了後に初めて可能となる。

4)WLBや家族給付の改善

特定の家族モデルは定めず、様々な形態の家族を尊重する。また、デジタルコンテンツ等を用いた各種申請や処理の効率化、育児サービスの改善、ワークライフバランス(WLB)の改善を目指す諸政策を実施する。この他、家族給付の引き上げを行い、全家庭の経済的負担軽減を実施する。特に子どもの貧困撲滅のための関連給付を引き上げる。また、州や自治体の負担軽減のため、連邦政府による保育施設の運営予算(2019年5億ユーロ、2020年10億ユーロ、2021年20億ユーロ)の提供も行う。さらに、保育時間や基礎学校(日本の小学校に相当)の授業時間を延長し、全日教育の目標実現を目指す。

5)男女平等の促進-罰則導入ほか

指導的地位における女性比率を引き上げるため、職場の意思決定に関与する上層部の男女平等参画を目的に「民間企業及び公的部門の指導的地位における男女平等参加のための法(FührposGleichberG)」が2015年に制定された。しかし、同法施行後も、指導的立場の女性がいないまま目標値を「ゼロ」とする企業がある。このように非協力的な企業に対しては、新たに商法典(HGB)335条の規定に則した制裁(罰則)を導入し、同法の効力を強化する。

また、男女間の賃金格差是正を目的とした「賃金構造の透明化促進法(EntgTranspG)」が2017年に制定された。同法の効力については、2019年に連邦政府による初の評価が実施され、結果に応じた政策が決定される。

この他、政界、社会、経済界、学術界における女性の正当な参画に取り組むため新たに連邦財団を設立する。

6)長期失業者への支援

社会法典第2編の改正を通じ、長期失業者の教育訓練や有資格化を進める。その際、失業者のみならず、その家族全体に対する支援も強化する。約15万人の長期失業者を労働市場へ再統合させるため、2018年~2021年の4年間で約40億ユーロの予算を計上する。

7)デジタル化と技能向上訓練

これまで人間が担ってきた情報や技術のデジタル化が進展しているが、このデジタル化の対応に欠かせないのは「生涯学習」である。今後、「教育政策」と「労働市場政策」の連携を密にし、労使団体や州政府などの関係組織と調整して、労働者が継続的に学び続けられるよう、技能向上訓練の再構築を目指す。そのため、現在は別々に実施している連邦や州の技能向上訓練を一本化して、就労者のニーズに沿うものとし、新たな訓練文化(カルチャー)を確立する。

この他、技能向上訓練に関する事業所委員会(注3)の発議権をさらに強化する。使用者と事業所委員会は、従業員の職業訓練措置について協議しなければならない。双方の折り合いがつかない時は、合意に至るために、どちらも調停者に判断を求めることができる。

8)良質なデジタル雇用4.0

労使の関与のもと、引き続きデジタル化に積極的に取り組む必要がある。デジタル時代に対応するため、技能向上訓練の制度改革や長期労働時間口座の普及を図る。また、労働協約当事者(労使)の労働時間に関する多様な要求を満たす枠組みを形成し、特に労働者主権による時間決定にデジタル技術を活用する。さらにモバイルワークを支援し、容易に実施するための法的枠組みをつくる。その際、イノベーションと労働災害防止はセットで考慮する。また、デジタル化に伴い従業員の個人データは企業に蓄積される可能性がある。このような個人データの取り扱いについては、労使の義務と権利を明確にし、労働者の人格権を確保していく。さらに、自営業者の身分関係が確認手続きを簡素化し、社会保険分野で異なる対応や異議申し立てがないような枠組みをつくる。

9)労使自治の強化-事業所委員会手続きの簡素化

労使自治と労働協約による職場の働き方や労働条件などの拘束力を強化するため、5人以上100人以下の従業員を擁する事業所に対して、事業所委員会の設立や役員選出手続きの簡素化を義務づける。また、企業が本社をドイツ国外に移転させても、事業所委員会等の労使の共同決定(注4)に関する国内規定を適用させる仕組みをつくる。

10)移民の流入コントロール

シリア難民の急増等による2015年の欧州難民危機のような状況(1年で100万人近い難民が流入した)が繰り返されないよう、移民の動向を適切にコントロールし、制限する努力を継続する。過去20年間の経験に基づき、移住者の受入れは年18万~22万人の範囲を超えないようにする。家族の呼び寄せも、1カ月につき1000人を上限とする。

労働環境報告書の発行に向けて

以上が連立協定における労働関連分野の主な概要である。2016年の白書「労働4.0」で予告された通り、連立協定書においても、デジタル化がもたらす変化や課題の対応をまとめた「労働環境報告書(Arbeitsweltberichterstattung)」の発行が予告されている。そこでは、特に法定災害保険や職業病関連法分野の改善を目指す方針も示されている。

参考資料

  • Koalitionsvertrag zwischen CDU, CSU und SPD , Deutsche Welle (14.02.2018)ほか。

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