人工知能発展計画と雇用問題
国務院(政府)は2017年7月に「次世代人工知能(AI)発展計画」を発表した。2030年までにAI技術を世界最先端の水準に引き上げ、関連産業を含め10兆元を超える市場規模に発展させる目標を掲げている。AI産業の発展を担う人材の育成に取り組むことや、人工知能の普及が就業構造に与える影響を研究し、それにより失われる職業に就いている労働者の職種転換を支援することも盛り込んでいる。
生産性向上の効果
「発展計画」はAI産業の重点分野として、ソフトウェア、ハードウェア、オペレーティングシステムの開発、個別的には産業用ロボットや自動車の自動運転、自動翻訳の技術の発展などをあげている。
中国国内ではAI技術を活用した「無人スーパー(コンビニ)」が実用化されはじめている。人民日報社のウェブサイト「人民網」(日本語版)によると、「無人スーパー」の利用者はスマートホン(スマホ)の画面に、事前に取得したQRコード(二次元バーコード)を表示させて入口の機器にかざす。すると、システムがユーザー情報を読み込みドアが開く。このとき顔認証も行なわれる。商品を選んでレジの台上に置くとそれぞれの商品の情報が認識され、スマホで決済することができる。
アリババ集団やテンセント、バイドゥなどのIT 企業がこうしたAI技術の開発を進めている。
米国のビジネス特化型SNS「LinkedIn」が2017年7月に発表した『グローバルAI人材報告』によると、2017年第一四半期の全世界のAI技術者は190万人を超える。そのうち中国には5万人がいて、その7割が北京と上海に集まっている。
また、米国のコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが2017年7月に発表した報告書『人工知能――次世代のデジタル・フロンティア』によると、2016年に全世界のAIに対する投資の17%を中国が占め、アメリカ(66%)に次ぐ水準になっている。
労働集約型産業を主体とする成長モデルからの脱却をめざす中国政府は、AI関連産業を今後の経済成長を牽引するものと重視し、近年その振興策を次々と打ち出している(表1)。
発表年月 | 発表機関 | 政策名等 | 主な内容 |
---|---|---|---|
2015年5月 | 国務院 | 中国製造2025 | 「製造大国」から「製造強国」への転換を掲げ、「次世代情報通信技術産業」「高度数値制御工作機械・ロボット産業」を重点分野に設定。 |
2015年7月 | 国務院 | 互聯網+(インターネットプラス)行動指導意見 | インターネットとAIの融合を意味する「互聯網+(インターネットプラス)AI」を提唱。 |
2016年3月 | 国務院 | 国民経済と社会発展・第13次五カ年(2016-2020年)計画要綱 | AI関連技術の発展を重要分野に設定。 |
2016年5月 | 国家発展改革委員会 | インターネットプラスAI三年行動実施方案 | 2018年までに1000億元レベルのAI活用市場を創出する目標を設定。 |
2017年3月 | 国務院 | 政府活動報告 | AIの技術研究開発と実用化を加速すると表明。 |
2017年7月 | 国務院 | 次世代AI発展計画 | 2030年までに関連産業を含めて10兆元を超す規模のAI市場を創出。 |
雇用代替の可能性
コンサルティング業の多国籍企業アクセンチュアは2017年6月に大連で開かれた世界経済フォーラム「夏季ダボス会議」で、「中国の経済成長を後押しする人工知能」と題するレポートを発表した。それによると、AIのサポートで労働者は時間を有効活用できるため、2035年までに中国の労働生産性は27%向上する見通しだという。
一方、AIの普及が既存の雇用を奪うおそれもある。人民網では翻訳や運転手、警備員、カスタマーサービス、家事労働、会計などの職業について、AIによって将来的に代替される可能性があることを指摘している。
また、AIビジネスが成功して豊かになる者と、失業を余儀なくされる者が生まれ、国内の貧富の格差が拡大するのではないかとみる向きも少なくない。
マッキンゼー・グローバル・インスティチュートが2017年3月に発表した報告書「人工知能の未来」は、単純作業は人工知能で代替されて需要が減少するため、雇用の場を失う低スキルの労働者と、高需要のデジタルスキルを持つ者との間で所得格差が拡大するとの見方を示している。
中国のニュースサイトなどにもこうした意見が少なからず掲載されている。「自動化は所得格差を拡大し、経済的不平等をもたらす可能性がある(テンセント網)」、「多くの女性は人工知能で代替できる仕事に多く就いていて、代替できない管理職のポストに就いている人は少ない。人工知能の普及は男女間の貧富の格差を広げる(毎日頭条)」などである。
こうした点も踏まえ、「発展計画」はAI産業の発展を担う人材の育成に取り組むことに加え、人工知能の普及が就業構造に与える影響を研究し、それにより失われる職業に就いている労働者の職種転換、職業訓練を支援することも盛り込んでいる。
参考資料
- 人民網、中国網
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=16.97円(2017年11月22日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2017年11月 中国の記事一覧
- 障害者100万人に無料職業訓練
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