最低賃金引き上げが賃金の底上げをもたらす
―2016年アメリカ賃金状況:経済政策研究所
リベラル系シンクタンク、経済政策研究所(Economic Policy Institute)は、「2016年アメリカ賃金状況(The State of American Wage:2016)」を3月9日に公表した。
報告によれば、低位および中位の賃金が改善しており、その理由として州別最低賃金の引き上げと、失業率の低下がみられると分析している。一方で、男女間の賃金格差に縮小がみられないこともあわせて指摘する。以下、報告の要点を紹介する。
最も賃金の低い労働者の賃金が上昇
2000年から2016年にかけて高賃金労働者の賃金が継続的に上昇を続けており、賃金格差を拡大させる要因となっている。一方で、2016年に限れば、高賃金だけでなく、中位層の賃金も前年比で3.1%上昇しており、これまでより公平な分配となっている。
最も賃金の低い労働者に目を転じれば、最低賃金の引き上げを行った州が引き上げを行わなかった州と比べて大幅な改善がみられた。100分位数で10番目の賃金で比較すれば、最低賃金の引き上げを行わなかった州では対前年比2.5%の上昇にとどまったのに対して、最低賃金の引き上げを行った州では倍以上の5.2%の上昇だった。
男女間の賃金格差は解消されず
賃金が上昇した最も賃金の低い労働者の大半は女性であった。このことは、女性が100分位数の10番目の多くの割合を占めていることを意味している。
報告では、最も賃金の低い層だけでなく、あらゆる教育レベルにおいて同様の職務を担う男性に対して女性の賃金が低く、かつもっとも高い教育レベルにおいて男女間の賃金格差がもっとも大きいことを指摘している。
依然として横たわる賃金格差
報告は男女間以外の賃金格差も指摘する。
学歴では、大卒と高卒の時間当たり賃金の格差が2000年以来拡大しているが、それを説明することができる有効な理由は見当たらないとする。
人種間では、白人とヒスパニックの賃金の上昇が黒人労働者よりも大きくなっている傾向が2000年から続いており、白人労働者と黒人労働者の賃金格差が2000年と比較して拡大してきた。しかしながら、2016年にはその格差は若干、縮小している。
賃金格差は黒人労働者のなかにも存在する。黒人労働者のうちで高賃金を得ているのは、大学および高等教育を受けたもののみであり、2007年時点よりも上昇している。しかし、その伸び率は、白人、ヒスパニック系の労働者と比較すれば顕著に低くなっている。
一方で、ヒスパニック系労働者の2016年の賃金は、ほかの人種グループと比較して、高位、中位、低位すべての賃金階層にわたって上昇している。とくに高位、中位の階層で白人との賃金格差が縮小した。
継続的な取り組みが必要
最も賃金の低い労働者の賃金が上昇した背景として、報告書は景気回復と失業率の低下による労働市場の逼迫があるとするが、同時にこうしたことが当然の結果である一方で、男女、学歴、人種間に継続して残る賃金格差の解消には景気回復や失業率の回復といったことだけでは不十分であるとし、労働基準の強化をもたらす政策的な取り組みが必要であると指摘している。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
- Gould Elise (2017) “The State of American Wages 2016, Lower unemployment finally helps working people make up some lost ground on wages” Economic Policy Institute, March 9, 2017.
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