ニューヨーク州でウーバー運転手に失業保険を認める行政審判官判断
―他州へ波及か
ニューヨーク州労働省行政審判官(An administrative law judge)は、6月9日に3人のウーバー社の元運転手に失業保険の受給資格があるとする判定をしただけでなく、現在、業務に従事している他の全ての運転手の失業保険掛け金をウーバー社が負担しなければならないとする見解を示した。
この判断は、同様の事案を判断する際の雛形となり、同様のビジネスモデルのなかで個人請負として働く労働者が雇用労働者とされる転機となる可能性がある。
ライドシェアリングの問題点:安全性と雇用・請負
今回の事案は、ウーバー社の3人の元運転手が失業保険の受給請求をしたことに始まる。
ライドシェアのビジネスモデルは、スマートフォンのアプリケーションを介在して、登録しているユーザーとしてのタクシーサービスの利用者とサービスの提供者としての運転手をマッチングする。運転手は仕事単位の請負労働者になる。
マッチングを利用して運転手は時間や場所に縛られない自由を手にし、スマートフォンを利用する利用者はどこでもタクシーを呼ぶことができる利便性を手にすることができる。
しかし、ここにはいくつかの問題がある。
一つは、旅客業としての利用者の安全確保である。タクシー業には行政が営業免許を発行することで規制をかけている。ライドシェア・ビジネスはあくまでもマッチングのみをしているということからタクシーの営業免許を取得していない。
二つめは、請負労働者とされる運転手にさまざまな条件が課せられていることである。それは、料金設定や料金の受け取り方、使用できる車の使用年数などさまざまにある。さらに、運転手は顧客から点数で評価される。点数が悪ければ仕事を続けることができない。マッチングを行う企業との力関係や情報の非対称性の問題もある。
一方で、企業側の利益の構造はどうなっているのか。
サービスの利用者は登録済みのクレジットカードで運賃を支払う。そこから手数料を差し引かれた金額を運転手が手にする。
ところで、タクシー業を営む企業であれば、運転手の人件費と社会保険料、教育訓練にかかる費用、自動車購入費用、維持費、ガソリン代、高速代などの必要経費を負担する。それらを売り上げから差し引いたものが利益となり、財務諸表上で公開される。
一方で、ライドシェアでマッチングを行う企業はこうした経費を負担していない。話を単純化すれば、運賃として利用者から得た売り上げから運転手に渡す分を指し引いた手数料が利益となる。運賃と手数料がどれだけか決定することに運転手が関わることはできない。企業側は既存のタクシー会社との競争から運賃を低く設定することも、運転手の利益を小さくする。そのうえ、雇われているならば手にすることができる健康保険や年金、失業保険などがない。
こうした状況が公正さを欠き、運転手の生活を不安定にしているとの批判の声が運転手側からあることが、今回の失業保険受給申請の背後にある。
現役運転手にも適用
3人の元運転手の請求に対して、ウーバー社は職務場所、勤務時間、欠勤届け義務や各種手当てがないことなどから、彼らが請負労働者であると主張していたが、行政審判官はその主張を退けた。
これまでも同様の請求や雇用関係を確認する訴訟が米国各地で起こされていた。失業保険の受給資格や雇用関係を認める判断が下された前例もある。だが、それらは、当事者である元運転手に限られたものあった。今回の判断は、現在、業務に従事している他の全ての運転手に適用するとしたものであり、画期的なものである。
米国の失業保険は、人件費総額に一定の割合を乗じて算出し、企業が負担する。失業保険税と呼ばれ、徴収は内国歳入庁が行う。今回の判断が適用されれば、失業保険税だけでなく、年金や労災保険の掛け金の負担も発生する。ウーバー社としては、既存のタクシー企業に対するアドバンテージを失うことになるだけでなく、大きな負担を強いられることになる。そのため、法廷の場を通じてこれまでの主張を続けることが予想されている。一方で同様の行政判断が全米各地で行われる前例となる可能性が高まっている。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
- Dubé,Lawrence E.(2017)Uber Drivers Chalk Up New York Win With Employee Status Finding By, Daily Labor Report, June.14.
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