ホワイトカラー・エグザンプションの見直しが後退

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  • 国別労働トピック:2017年8月

2016年12月1日に実施されるとしていたホワイトカラー・エグザンプションの見直しが一転して後退する状況にある。ホワイトカラー・エグザンプションとは、特定の労働者を残業代の支給対象から除外するもので、公正労働基準法の運用規則に基づいている。ブッシュ政権下で行われた運用規則の見直しで労働者の年収が著しく低下した状況を是正するため、オバマ政権は議会承認の必要のない運用規則の改正を行った。トランプ政権になり、その改正にストップがかかったかっこうだ。

行政規則の差し止め

2016年11月22日、テキサス州連邦判事はオバマ政権下ですすめられていた行政規則変更を差止める決定を下した。これに対して、オバマ政権下の司法省は決定を不服として控訴している。

1月に入り、トランプ政権が発足したが、2017年3月12日現在で労働長官はまだ決まっておらず、控訴についての方針の表明を5月1日まで猶予されている。労働長官就任が有力視されているアレキサンダー・アコスタ氏が控訴に向けて、行政規則変更を取り下げるのか、それとも行政規則の内容を見直すのかによって方向性はまったく異なる。いずれにせよ、オバマ政権下の試みは交代する可能性が高い。

オバマ政権の最低賃金引き上げ政策

オバマ政権では一貫して労働者の賃金上昇が試みられてきた。2014年2月12日には、連邦政府が契約する請負業者の雇用する労働者の賃金を10.10ドル以上にすることを定める大統領令を出した。これは、2009年以来、7.25ドルにとどまっていた連邦最低賃金を10.10ドルに引き上げようとする強い意志を表明するものだった(E.O13658)。2016年8月25日には、同じく連邦政府が契約する請負企業が最低賃金などに関する法令に違反した場合、その企業名をリスト化して公表するという大統領令を出している(E.O13673)。

2012年の再選以降、オバマ政権を支える民主党は連邦下院、上院ともに過半数の議席を獲得することができなかった。連邦最低賃金の引き上げには法改正が必要である。企業利益を代弁する共和党は連邦最低賃金の引き上げに反対だったために、その道は閉ざされていた。だから、オバマ政権は法改正に頼らない大統領や行政規則の改正という手法をとらざるを得なかったのである。

しかしながら、トランプ政権への移行にともなって、これらの方向はいずれも頓挫しつつある。連邦政府との請負契約を結ぶにあたり、労働関係の法令違反を行った企業名を公表する大統領令を取り消す決定が3月6日に連邦議会で行われている。

後退の見通しが高まる

ブッシュ政権下で行われたホワイトカラー・エグザンプショに関する行政規則改正は、製造業からサービス産業へ産業構造が移行することに伴い、増えつつあったホワイトカラー労働者の実態にあわせることが目的だった。だがそれにより、多くの労働者が残業代の支給対象から外れる、週給455ドル、年収2万3660ドルに留まる多くの労働者が生まれることになったのである。

オバマ政権は、週給913ドルもしくは年収4万7476ドル残業代支給対象となる上限額を引き上げるとともに、その額に毎年ごとに見直す物価調整を加えることで、2020年1月1日に5万1000ドルになる見込みだった。これにより、新たに残業代の支給対象になる労働者は420万人にのぼるとともに、残業代の支給により労働者の年収が大きく上昇することが期待されていた。

トランプ大統領は、大統領選挙を通じてアメリカのミドルクラスの復活を提唱していたことから、今回のホワイトカラー・エグザンプションに関する行政規則改正にどのような姿勢で臨むかが、今後の労働行政における一つの試金石になると思われる。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Ben Penn(2017) Overtime Rule Under Trump Enters Repeal and Replace Talks, Daily Labor Report, Mrch.13.

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