スマホを通じた家事代行、食材配達のビジネスモデル

スマートフォン等のアプリケーションを介して仕事を請け負うビジネスモデルが広がりを見せている。配車サービスのユーバー(注1)が先駆けとなったことから、フランスではユーバー化(Ubérisation)とも言われる。類似するビジネスが、家事代行や家庭での大工仕事手伝い、食材の配達といったサービスに広がっている。

非公式な雇用としての個人向けサービス業

フランスでは、家事労働者、家政婦などの家事代行サービスや簡単な日曜大工手伝い、引越しなどを請け負う個人向けサービス業が拡大している。そもそも、個人向けサービス業は、個人が家事労働者と契約して対価を現金で支払うため、非公式な雇用とされる場合が多い。雇用労働者であるならば手にすることができる保障の対象外となる。また、家事労働者が収入を申告せずに生活保護を不正に受給している可能性などの問題が指摘されている。

こうした問題に対応するために、「対人サービス振興および社会的団結の諸施策に関する2005年7月26日法」が制定された。この法律は家事労働者を正規化して雇用労働者として扱うことで、雇用機会を創出することを目的としている。具体的な措置には、サービス雇用包括小切手制度の導入が盛り込まれた。これは、雇用主が支払った賃金の半額相当額(原則として、年間15000ユーロを上限)を雇用主の所得税額から控除するものである。雇用主が家事労働者を雇用労働者として扱うようにすることがねらいだ。

2005年以降、個人向けサービス業は拡大し続けている。これに伴い、サービスを仲介するJemepropose、YoupiJob、Helplingといったインターネットサイトを通じて、専門的職業訓練を受けた経験のない一般の労働者が個人向けサービスを請け負う場合が出てきている。これは、サイト上に書き込まれた家事などの業務内容や求人条件を見て応募してきた労働者の中から、雇用主が採用者を選ぶというもので、報酬はインターネットサイト上で支払われることもある。個人向けサービスを仲介するインターネットサイト業者は、手数料として雇用主が支払った賃金の一定額を徴収する。YoupiJobの場合、支払い賃金額の13%となっている(注2)

こうした状況の中で、個人向けサービスを仲介するインターネットサイトの問題を指摘する声も出てきている。フランス全国に120支店を持つ個人向けサービス業者であるシヴァ・フランス(Shiva France)のシャルル・ドマン社長は、「買い物をするように、家政婦を選択する」ことが雇用主、もしくは労働の発注者としての意識を低下させていることを問題視する(注3)。また、フランス民主労働総同盟(CFDT)のマニュ・レコ氏は、「個人向けサービス仲介に関わる労働問題が顕在化しつつある」と指摘する(注2参照)

違法な食事配達サービス

食事の配達をインターネット上で手配する業者も増加している。Deliveroo、Foodora、UberEats、Nestorといった企業がサイトを開設して、食事の配達サービスを行うようになっている。配達にはスクーターが活用される場合が多いが、このことがフランスの法制度に抵触しているとの指摘がある。

フランスの交通政策や規則・基準を定めた法律である交通法典は、商材(販売される物財)のモーター付の車輌(自動車やバイク、スクーターなど)による輸送に関して定めており、1999年8月30日の政令で、運送能力証明書の所持を義務づけている。証明書の取得には、15日間ほどの職業訓練を受ける必要があり、900ユーロから2500ユーロの費用がかかる。職業訓練を受けた後に試験に合格しなければならず、運輸事業従事者として登録する必要がある(注4)。だが、配達員の多くは運送能力証明書を所持しないまま、モーター付き車両で配達業務に従事している。こうした状況において企業側は、自転車による配達が契約の条件としており、スクーターではないと説明する。UberEatsの場合、運転免許証及び車輌登録証の所持と自動車保険加入のみ義務づけており、証明書については求めていない。Nestorと Deliverooも自動車保険と車輌登録証のみを求めている。Expresse紙が企業に対して行った取材では、Foodcheri と Stuartのみが法規則を遵守していると回答し、Nestorや Deliveroo、Foodora、UberEatsは回答しなかった(注4参照)

小規模輸送全国労働組合(syndicat national du transport léger)のアントワンヌ・カルドン氏は、配達員が証明書を持たず仕事をしていることを把握しようとしていない企業の姿勢が問題であるとする(注4参照)。一方で、行政が指導に乗り出す動きは見えない。このため法規則を遵守して従来から操業している企業は、経費が新興企業よりも割高になっている。こうした法規則を遵守する企業は、不正競争に該当するとして競争・消費・不正防止総局(DGCCRF)へ訴えることを決定している。

現在、インターネット上で食事の配達を手配するビジネスで数千人が個人事業主として操業しているとされる。対人サービス振興および社会的団結の諸施策に関する法などの基盤整備により、雇用の創出につながる可能性がある一方で、事業の違法性も指摘されている(注4参照)

保障が欠如する雇用条件

ソーシャルメディアを活用したビジネスによって勤務時間の柔軟性が増し、学生や失業者などが職に就いて収入を得ることが容易になった。その反面、個人事業主として就労することで、雇用労働者であれば享受できる様々な保障はない。こうした状況に対して、ユーバー型ビジネスの問題の解決に取り組む団体「Observatoire de l'ubérisation」もうまれている。彼らによる具体的な指導事項は次のとおり(注5)

デリバリー注文サイトの運営会社は、配達員の社会保険料を一切払っていない。収入は個人事業主として申告することになり、個人事業主の法規制に従った社会保険と、事故に備えるために賠償責任保険の高額な保険料の納付が義務付けられる。休業時の補償はほとんどない。だが実際は請負ではなく、雇用労働であるとして、雇用労働者に準じる地位を求める運動が起こっているが(注5参照)、現状では労働者側の時間管理の柔軟性の高さや兼業が認められていることから、雇用関係がないとする考え方が大勢を占める (TokTokTok.comの弁護士であるマリアンヌ・レコ氏)。

こうした指摘があるなかで、政府は規制強化よりも雇用創出効果に期待する姿勢をみせている。

2016年7月26日に、食事の配達を手配するサイトの「Take Eat Easy (TEE)」が会社更生法の適用を申請し、これよって「不安定な労働者」がクローズアップされた(注5参照)。しかし、エル・コムリ労働相は、2016年6月、「失業者に収入を与え、若年者に就業の機会を生み出すなど、これらのサイトは雇用を生み出しているため、それらの手足を縛るわけにはいかない」と述べており、「このような労働者への最低限の権利を確保する必要性がある」としながらも、規制を強化する意向はないとの方針を表明している(注6)

(調査部海外情報担当)

(ウェブサイト最終閲覧日:2017年3月14日)

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