「90後」世代の就業意識

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  • 国別労働トピック:2017年3月

2016年の大卒者は765万人で、2017年には795万人に達する見込みだ。彼らは1990年代以降に生まれていることから「90後」(ジュウリンホウ)世代、あるいは「95後」(ジュウウーホウ)世代と言われている。「一人っ子政策」の下、経済的にも比較的恵まれた環境の中で育ってきた彼らの多くは、それ以前の世代と比べると、職場に「給与」とともに「自由な環境」「働きやすさ」を求める傾向が強いとみられている。

解消しない就職難

教育部(教育省)によると、中国の大学新卒者は、2014年が727万人、15年が749万人、16年が765万人で、17年はこれらをさらに上回る795万人になる見通しである。年平均20~30万人のペースで増え続けているが、経済が停滞する中で、就職難の状態は解消されていない。

大手就職支援サイト・智聯招聘(ジーレンシャオピン)が2016年5月に発表した「2016年大学新卒者就職力調査」(以下・智聯招聘調査)の結果によると、2016年の大卒予定者のうち卒業後、企業への就職を希望する者(就職の意欲がある者)は75.6%で、 前年の71.2%より4.4ポイント高まった(図1)。

図1:新卒者の就職意識
図1グラフ画像

資料出所:智聯招聘「2016年大学新卒者就職力調査」

これまでは大都市での就職に憧れる者が多かったが、近年は若干の変化がうかがえる。新卒者が就職を希望する地域を見ると、北京、上海、広州、深圳という大都市を指す「一線都市」(注1)は29.0%で、成都、杭州、武漢など今後の発展が見込まれる「新一線都市」が38.3%と最も多かった。地域レベルの影響力を持つ「二線都市」、「その他の地域」はそれぞれ19.2%と13.6%だった。物価高や大気汚染、交通渋滞など様々な問題を抱える巨大都市よりも、経済発展が見込まれ、生活コストがあまりかからない「新一線都市」が大卒者の就職先として注目を集めていると見られる。

就職先として最も人気がある業種は、IT業(ネット・通信・電子などを含む)で、金融機関(銀行・アセットマネジメント(資産の管理・運用代行)・証券・保険など)、政府機関(非営利機関を含む)が続いている。実際の就職先を見ると、IT業が29.5%で約3割に達し、製造業は16.1%、金融機関は13.7%だった。アリババ、百度(バイドゥ)、テンセントに代表されるように、IT業は中国で急速に発展している。その高収入も人気の理由の一つであろう。

教育コンサルティング機関・麦可思(マイコス)研究院が6月に発表した「2016年中国大学生就職報告」(以下・マイコス調査)によると、コンピュータ科学・テクノロジーを専攻した者の平均月給は入職半年後(2015年大卒者)で4978元、3年後(2012年大卒者)で7932元となっている。これらは大学の主要10専攻(注2)の中で最も高い水準だ。これに次ぐのは、入職半年後では「国際経済貿易」の4123元、3年後では「法学」の6763元だった。一方、就職率が最も高かった専攻は「財務管理」(95.3%)で、「コンピュータ科学・テクノロジー」(94.5%)をわずかに上回った。「法学」(87.9%)は前年に続いて最も低かった。

大卒者の起業を促進

教育部が2010年に「大学での創業教育、大学生の自主的な創業の強力な推進に関する意見」を発表して以来、大卒者による創業(起業)の割合は上昇してきた。2015年大卒者のうち自主創業した者の割合は3.0%で2009年(1.2%)から倍増している。しかし2014年の2.9%と比べるとほぼ同水準で、その伸びは頭打ちとなっている。

2015年大卒創業者の78%はその資金を両親や親族、自らの貯金に頼っている。ベンチャーキャピタル(3%)、政府資金援助(4%)の割合は少ない。創業のリスク要因については、「資金不足」が28%、「市場拡大の困難さ」が26%、「企業管理の経験不足」が24%となっている。資金や経験の不足などから大卒者の創業の成功率は高くないとみられている。
智聯招聘調査によると、大学新卒者の創業意欲は2015年の6.3%から2016年は3.1%に半減した(前掲図1)。

人力資源・社会保障部と教育部は2016年10月、「大卒者の就職・起業促進計画の実施に関する通知」を公布した。能力向上、創業への誘導、就職支援、情報提供などの方針をあらためて示し、大卒者の就職・起業を促している。

初任給の希望と実際

人力資源・社会保障部労働賃金研究所の「大学卒業生の初任給」報告(「2015中国薪酬発展報告」掲載)は、学歴の高さに応じて初任給が高い傾向が顕著になっていると指摘している。

また、北京大学教育学院教育経済研究所が2016年1月に発表した「2015年大卒者就職状況調査」によると、全国の2015年大卒者の平均初任給は、3年制大学卒業生(注3)で2640元、大学卒業生で4010元、大学院卒業生(修士)で6363元、 博士で6753元となっている(表1)。

表1:各学歴卒業生の初任給 (単位:元)
  2003年 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 2015年
3年制大卒 1,356 1,413 1,410 1,510 1,856 2,285 2,640
大卒者 1,502 1,618 1,788 2,276 2,743 3,278 4,010
修士 3,009 2,790 3,469 3,637 4,003 5,461 6,363
博士 3,021 3,035 3,252 3,757 5,118 8,800 6,753
全体 1,569 1,659 1,798 2,331 2,394 3,378 4,187

資料出所:北京大学教育学院教育経済研究所「大卒者就職状況調査」

なお、同調査によると大卒者の初任給は、2003年は1502元だったが、2009年には2276元、2013年には3278元と上昇を続け、2015年には4000元台に達している。

また、智聯招聘調査によると、2016年の大卒者が期待する初任給は平均4985元で、実際の初任給は平均4765元となっている。

「働きやすさ」を重視

「90後」世代の大学生の職業意識を見ると、自らのキャリアの将来性を特に気にかけているようだ。マイコス調査によると、就職する際に、大学生が最も重視するのは「将来性(注4)」(67%)で、「給与・福利」(66%)とほぼ並んでいる。「仕事の安定性」は42%にとどまった。

2015年大学新卒者の就職半年後の離職率は34%で、2014年大学新卒者の離職率(33%)とほぼ横ばい。主な離職理由は「将来性のなさ」(49%)や「給与・福利」(42%)の低さだった。

離職理由には、このほか「仕事がきつい」「残業が多い」なども挙がっている。「一人っ子」として経済的に恵まれた環境の中で暮らしてきた「90後」世代の多くは、「70後」や「80後」の「安定性」を求める傾向が強い世代に比べると、「ワーク・ライフ・バランス」や「自由で束縛のない環境」など「働きやすさ」を重視していると考えられている。

参考資料

  • 新華網、人民網、東方網 中国新聞網

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