フリーランサー賃金条例
―ニューヨーク市で成立へ

カテゴリー:労使関係労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2017年2月

2016年11月16日、デブラシオ・ニューヨーク市長がフリーランスで働く労働者や個人請負労働者、シェアリング・エコノミー下で働く労働者の賃金を守るための条例に署名した。これは、フリーランスで働く労働者の権利擁護活動をすすめてきたフリーランサーズ・ユニオンの長年にわたる政策要求が実を結んだものである。

フリーランサー賃金条例

雇われて働く労働者であれば、最低賃金、労働時間、健康保険、年金といった権利が保護されている。しかし、フリーランスや個人請負、シェアリング・エコノミー下で働く労働者は、企業に雇われていない。企業から業務を請け負う際の契約は、書面で取り交わさないことが少なくなく、約束どおりの金額が支払われなかったり、期日までに入金されなかったりすることも多い。

こうした状況のなかで、フリーランスや個人請負、シェアリング・エコノミー下で働く労働者の賃金を守るための条例が、「フリーランサー賃金条例」である。その内容は、800ドル以上の請負労働につき、書面で対価の支払い期日と金額を記した契約を、元請け企業と労働者が取り交わすことを義務付けるものである。

期日までに元請け企業が対価を支払わなかったり、そもそも契約書に支払期日が記載されなかったりしていた場合は、業務が終了してから30日以内に元請け業者には支払い義務が発生することになる。

条例案は、2016年10月27日に、全会一致によりニューヨーク市議会で可決され、11月16日にデブラシオ市長が署名したことで発行した。これは、フリーランスや個人請負、シェアリング・エコノミー下で働く労働者の対価を守るための全米ではじめての法律である。

フリーランサーズ・ユニオン

条例は、民主党選出のブラッド・ランダー市議会議員が発議したものだが、その背景には、長年にわたるフリーランサーズ・ユニオンの制度政策要求活動がある。

フリーランサーズ・ユニオンは、1980年代からアメリカで増え始めていた雇われない働き方をする労働者の権利を守るための団体として始まった。

創設者はサラ・ホロヴィッツ。コーネル大学労使関係学部およびニューヨーク州立大学バッファロー校ロースクールを卒業して弁護士資格を取得している。全米で最大のヘルスケア労働組合であり公民権運動に深くかかわった、1199SEIU United Healthcare Workers Eastで組織化担当を経て、雇われない働き方をする労働者のための組織であるWorking Todayをニューヨークで1995年に設立し、2001年にフリーランサーズ・ユニオンを立ち上げた。現在の会員は全米で30万人。創設者のサラ・ホロヴィッツはニューヨーク連邦銀行の理事をつとめている。

ユニオンとの名称であるが、労働組合ではない。企業と労働組合が合法的な団体交渉を行うための手続きを示す全国労働関係法および独占禁止法は、雇われない働き方をする労働者による団体交渉を認めていない。

そのため、雇われない働き方をする人々は、個人で企業と契約を結ぶうえで、労働時間や最低賃金などの労働条件や、健康保険や年金、技能の向上など、不利な立場におかれている。フリーランサーズ・ユニオンは、こうした不利な立場にいる労働者の権利を守り、労働者間の情報共を促進するとともに、社会保障や技能向上の機会を提供している。その一つの具体的な成果がフリーランサー賃金条例であり、そのほか、健康保険や年金の団体割引加入がある。

スマートフォンのアプリケーションを介して、タクシーの利用者と運転手をつなぐライドシェアを提供する企業、ウーバーと契約する労働者が米国で60万人を数え、2020年には就業人口の43%が雇われない働き方をするとの予測(Intuit Forecast Based on the Quick Books Survey, Aug. 2015)があるなか、フリーランサーズ・ユニオンの会員数も2010年の10万人から大きく増えつつある。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Michael Rose (2016) "Freelancer Wage Bill Signed by New York Mayor", Daily Labor Report, Nov. 16.

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