政府が格差縮小のための意見書を発表

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  • 国別労働トピック:2017年2月

国務院(政府)は2016年10月21日に「重要なグループの活力を引き出し、都市部と農村部住民の所得増加を促進することに関する実施意見」(以下:実施意見)を発表した。一人あたりの国民所得を2020年までに倍増することや、農村の貧困人口をなくして中間所得層を増やすことなどを目標に設定。その実現のため、技能の取得・向上が賃金のアップにつながる仕組みの導入や、農業の近代化、貧困地域での産業育成など7つのグループ(分野)に重点を置いた所得増加、所得分配制度改革の支援策を打ち出した。貧困層の解消に向けた取り組みはとくに強化しており、その後採択された「貧困克服計画」では「教育による貧困脱出」などが課題にあがっている。

所得増加のため7分野の「潜在的なエネルギー」を刺激

国家統計局によると、2016年の国民1人あたり平均の可処分所得は2万3821元で、2015年に比べて物価変動を除いた実質で6.3%増となり、実質GDP成長率(6.7%増)を下回った。両者の増加率はそれぞれ前年より1.1ポイント、0.2ポイント低下しており、経済成長が鈍化するなかで、所得の増加も減速している状態だ。

国務院が発表した「実施意見」は国民の所得増加のため、7つの分野に焦点を絞って支援する方針を掲げた(表1)。その分野とは、「技術者(技能人材)」「新型職業農民(注1)」「科学研究者」「ベンチャー企業創業者」「企業経営者」「基層幹部(県級(注2)以下の公職に就く現場レベルの公務員)」「労働能力のある就職困難者」である。

表1:所得増加支援策の対象と主な内容
支援対象グループ(分野) 主な奨励内容
技術者(技能人材) 技術の向上に応じて昇進する仕組みの導入
新型職業農民 職業訓練の実施、地域振興(「一村一品」運動)
科学研究者 研究成果が収益をもたらした時の待遇改善
ベンチャー企業創業者 創業の規制緩和
企業経営者 年俸制の適切な実施、市場原理に基づく賃金制度の導入
基層幹部(現場レベルの公務員) 業績評価を賃金に反映
労働能力のある就職困難者 就職支援の強化

国務院国家発展・改革委員会の就業・収入分配局長は10月21日の記者会見で、「『実施意見』は単に賃金や福利厚生を向上させるためのものではなく、潜在的なエネルギーを刺激して所得を増加し、公平な発展の環境を構築するもの」「7つのグループを刺激することにより、都市部・農村部の多くの住民の能力を引き出すことができる」と主張。この取り組みは特定のグループにとどまらず、国民各層への波及効果を狙った所得増加策、所得分配制度改革であるとの考えを示した。主な対策は以下のとおりである。

「技術者」に対しては、賃金制度を整備し、技能の標準等級を設け、技能が上がれば等級が上がる仕組みをつくり、技術者の昇進の道を拡大する。

「新型職業農民」については、国の奨学制度や研修補助政策により「半農半学」などで職業訓練が受けられる方式の導入を奨励する。また、「一郷(県)(注3)一業、一村一品」の発展を支援し、農村地域の産業振興を促す。

「科学研究者」向けの対策としては、研究成果が収益をもたらした場合に、その利益を享受できる割合の引き上げといった待遇改善策を示した。
「ベンチャー企業創業者」には、起業のための障壁を取り除いて手続きを簡素化、効率化する。起業に失敗した失業者には、速やかに就職支援サービスを提供することも記している。

「企業経営者」への支援策には、財産権の保護、新規事業の展開、従業員の増加という良好なサイクルの実現を促し、年俸制の適切な実施などをあげている。また、国有企業に専門的な経営者を招聘し、市場原理に基づく賃金制度で待遇すること、民間経営者が投資を拡大し、国有企業改革に参加することなども盛り込んだ。

「基層幹部」に向けては、地域や部署に応じた賃金の奨励策を設けること、基本給が賃金収入に占める割合を引き上げること、業績評価を賃金に関連づけることなどを提示した。

最低生活保障(注4)の保護対象者や障がい者、高齢者など「労働能力のある就職困難者」に対しては、積極的に職に就くよう誘導する。就職支援等の関連部門が労働者本人の健康状態や労働能力に見合った仕事を紹介したにもかかわらず、3回連続で受け入れなかった場合、最低生活保障の給付額を差し引いたり、支給を停止したりするといった措置もとるとした。

「再分配調整メカニズムを健全化」

このほか「実施意見」では、「働きに応じた分配を中心」とし、「税金や社会保障などによる再分配調整メカニズムを健全化する」観点から、「6大支援行動」として、「就業の促進」「職業能力の向上」「基本的な生活保障制度の整備」「所得財産の法的保障の強化」「所得分配秩序の規範化(中間レベル以下の所得者の税負担の軽減など)」「所得分配状況のモニタリングの向上(統計類の整備など)」に関する全体的な政策をまとめ、リストアップしている。

「就業の促進」に関しては、沿海部の労働集約型産業が中西部へ秩序正しく移転するよう誘導すること、家事サービス、高齢者介護などの生活型サービスや、手工芸など少数民族居住地域の特色ある産業を発展させ、とくに貧困世帯の労働者の就業を促進することなどを提唱した。

また、労働力の流動化を制約する障害を除去し、地域や業界、所有制(国有・民営)の違いを越えた就業を進める。労働力のマッチング機能も強化し、都市と農村を網羅する公共の就業・起業サービスを整備する。起業・イノベーション(事業の革新)が集中する地域では、人員の募集、訓練、コンサルティングなどがまとめて受けられるワンストップ式サービスの構築を支援する。

「職業能力の向上」支援については、(1)政府の支援強化、(2)社会的な投資の奨励、(3)職業技能教育機関の外資導入の制限緩和、により職業訓練の環境を改善する。企業と学校の連携による実習生制度の推進や、農村の貧困世帯の子女、未進学の中卒・高卒者、農民労働者、退役軍人に対する無料職業訓練の展開などもあげている。

貧困層の解消も数値目標に

2015年10月に北京で開催された「貧困削減、発展フォーラム」で習近平(シー・チンピン)国家主席は、7000万人にのぼる年収2800元未満の「貧困層」を今後5年間で、すべて「脱貧」(貧困脱出)させると発言した。

2016年3月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)で採択された「国民経済・社会発展の第13次五カ年計画」では、「貧困地域での特定産業の振興支援」(3000万人)、「就労移転(職業訓練による職種転換)」(1000万人)、「貧困地域からの転居」(1000万人)などにより、合計約5000万人の貧困層を解消する数値目標を掲げている。残る2000万人は高齢、障がいのため「労働能力」を喪失している者とみられることから、社会保障政策で対処する。

「貧困地域からの転居」については、10月に国家発展・改革委員会が、移住者のための住宅の建設や移住先のインフラ整備などで2020年までに9463億元を投資する計画を発表した。国家開発銀行、中国農業発展銀行の融資などにより、貧しい地域から経済開発が進む地域、交通至便の地域に移住できる環境を整える。

さらに、11月15日に開かれた国務院常務会議では上記五カ年計画に基づく「貧困克服計画」が採択された。この中では「教育による貧困脱出」を重要な課題のひとつにあげ、「貧困地域の地区級の各市(州、盟(注5))に少なくとも一校、現地の発展需要に適した中等職業学校を建設できるよう、重点的にサポートする」「模範的な中等職業学校などが貧困家庭の子女を対象に生徒を募集し、実用的な技能を身に付けさせる」ことを掲げている。

なお、国家発展・改革委員会は2017年2月10日、上記「貧困地域からの転居」のうち、2016年中に249万人の移住計画が完了したと発表した。2017年は340万人を対象に同計画を実施する予定にしている。

参考資料

  • 国家統計局、国家発展・改革委員会各ウェブサイト、新華網、人民網

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