労働法令違反の監察を重点化

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  • 国別労働トピック:2017年2月

「企業の労働保障の法令遵守に関する信用等級評価弁法」(以下「評価弁法」)が2017年1月1日に施行された。これは遵法状況に基づく「信用度」により企業をランク付けし、労働・社会保障の法令違反に対する行政監察(監督)の重点化を図るものである。

中国における労働保障監察

中国における「労働保障監察」は、2004年11月に公布された「労働保障監察条例」に基づき、企業が労働者の権利を保護し、雇用に関する法令を遵守しているかどうかについて、行政機関が監督・指導(取り締まり)を行う制度である。日本の労働基準監督行政の機能に該当するが、中国ではこれに加え、社会保障の分野も管轄している。

2013年末現在、全国に3291の労働保障監察機構(機関)が設置されている。労働保障監察官は人力資源・社会保障行政部門で3年以上の業務経験がある国家公務員の中から選ばれ、所定の研修を受け、試験に合格することが必要である。

2008年以降の監察の処理件数は表1のとおりである。2008年に48万2659件だった総件数は、2010年には38万3746件へと減少したものの、2012年には41万1822件へと増加し、2014年も40万件台に達している。監察の内容を見ると、賃金関係(賃金未払いや最低賃金違反など)の取り締まりが目立つ。案件処理の手法としては、「期限を定めた是正命令」を出すことが一般的で、悪質な案件に対しては罰金などを科している。

表1:労働保障監察案件の種類・処理件数
表1画像

  • 注:2008~10年の「女性従業員」と「未成年労働者」の特殊保護、および「職業紹介」と「職業訓練・資格」は合算値。
  • 資料出所:国家統計局『中国労働統計年鑑』(各年版)

「信用度」の低い企業の監察を強化

現在、全国の人力資源・社会保障行政部門に専任の労働保障監察員は約2.8万人いるが、監察対象になる企業の数は個人自営者を含めて4,364.8万ある。労働保障監察官一人あたり平均の監察企業数は、単純に計算すると、約1500件にのぼる。

政府(国務院)は2014年6月に発表した「社会信用システム構築計画要綱(2014~2020年)」の中に、企業を「信用度」によってランク付け(信用等級評価)したうえで、行政監察を行う仕組みを整備することを盛り込んだ。このたびその内容について、遵法意識に乏しかったり、労働問題発生のリスクが大きかったりする企業を重点的に監察の対象とするための基準(評価弁法)を取りまとめて公表した。

現在、全国24の省・自治区・直轄市でこうした手法による監察が行われているが、具体的な内容は統一されていない。「評価弁法」はその指針になるとみられる。

「信用度」評価の基準

「評価弁法」は、労働社会保障に関する法律、法規、規則をどの程度遵守しているかによって、企業をランク付けすることを定めている。評価は、毎年1回、県レベル以上の地方の人力資源・社会保障行政部門によって行われる。省レベルの人力資源・社会保障行政部門は「評価弁法」に基づき、当該地域の状況を踏まえた施行規則(「実施弁法」)を制定してその内容をより具体化することができる。

「評価弁法」の主な内容は以下のとおりである。

(1)評価方法

評価は、①労働保障監察機構の定期的な巡回検査、②書類審査、③特別検査、④告発による取り締まり記録の確認、⑤前年度の記録の確認、などにより行われる。

(2)評価項目

評価項目は以下の9点である。

  • 社内の「労働保障規章制度」(就業規則、内部規定等)の制定状況
  • 労働契約締結状況
  • 労務派遣の法令遵守状況
  • 児童労働者使用禁止規定の遵守状況
  • 女性従業員と未成年労働者に対する特殊労働保護規定の遵守状況
  • 労働時間と休憩・休暇規定の遵守状況
  • 労働者への賃金給付と最低賃金基準の遵守状況
  • 社会保険の加入と保険料の納付状況
  • その他の労働保障法律・法規及び規則の遵守状況

(3)ランクの区分

上記の項目について評価した結果、企業の「信用等級」はA級、B級、C級に三区分される。A級は、労働保障に関する法律・法規及び規則を遵守し、「労働保障監察条例」の違法行為で取り締まりを受けたことがない企業である。B級は、「労働保障監察条例」の違法行為で取り締まりを受けたことはあるが、以下のC級に列記した内容に該当しない企業である。C級は、以下のいずれかに該当する企業である。

  • 「労働保障監察条例」の違法行為で3回以上の取り締まりを受けた。
  • 「群体性事件」(集団的な抗議行動になる事件)や「極端な事件」、あるいは社会に深刻な悪影響を及ぼす事件を生じさせた。
  • 児童労働や強制労働などの違法行為で取り締まりを受けた。
  • 「労働保障監察」による期限を定めた是正命令、行政処分あるいは行政処罰などを拒否し、履行しない。
  • 人力資源・社会保障行政部門の実施する監査に不当に抵抗し、妨害した。
  • 「労働保障監察条例」の違法行為で刑事責任を追究された。

(4)「信用等級」に基づく監察

各地の人力資源・社会保障行政部門は各ランクの信用等級に基づいて、企業に「労働保障監察」を行う。A級の企業は、労働保障監察の日常検査の頻度を減らしていく。B級の企業は日常検査の頻度を増やしていく。C級の企業は労働保障監察の重要な対象として、責任者との面談を行うなど検査を強化し、法令遵守を徹底させる。

国家統計局によると、2014年に全国の労働紛争仲裁委員会が処理した案件は70万件を超えている。仲裁が不調に終わった場合は裁判に持ち込まれるが、解決まで時間がかかることが問題視されている。政府は監察対象の重点化により労働者の権利保護の実効性を強化し、紛争の未然防止・抑制につなげたい考えだ。

参考資料

  • 国際協力機構(2013)『中華人民共和国労働保障監察プロジェクト詳細計画策定調査報告書』、中国政府網、中国六法通

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