要介護高齢者の増加と介護保険

カテゴリー:勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2017年2月

人力資源・社会保障部は2016年6月に「長期介護保険制度の試行地域の展開に関する指導意見」を発表した。中国では公的介護保険制度が整備されておらず、今回出された意見は初めての全国的な施策である。それによると、制度は要介護の「失能状態」(注1)にある者の生活を長期的に支えるもので、まずは都市部従業員基本医療保険制度の加入者らを対象とし、徐々にその範囲を広げていく。給付水準は支出額の70%程度としているが、その比率や介護サービスの内容は各地の状況に応じて設定する。上海市や重慶市、広東省広州市など15地域(注2)で試行する。

「失能老人」と「空巣老人」

国家衛生計画出産委員会『中国家庭発展報告2015』によると、中国には全世帯の20%を超す8800万世帯に65歳以上の高齢者が存在する。また、中国老齢科学研究センター・調査グループが2011年に発表した『全国の都市と農村部における「失能老人」の状況に関する研究』によると、2010年に要介護の「失能状態」にある高齢者(失能老人)は約3300万人に達し、高齢者人口の19.0%を占めている。このうち自力での着替え、排泄、食事、入浴、寝起き、室内移動の全てが困難な「完全失能老人」は1084万人で、高齢者人口の6.25%にのぼる。同研究は「失能老人」の数が2015年までに、4000万人に達すると予測していた。

「一人っ子政策」による少子化の進展や核家族の増加で、老いた親の面倒を子どもがみる従来の家族の機能は弱まってきている。しかし、要介護高齢者の生活を公的に支援する仕組みは整っておらず、伝統的な意識から、老人ホームなどの施設ではなく自宅で老後を過ごしたいと考える高齢者も少なくない。このため、子どもが離れた(巣立った)後の実家に残って暮らす高齢の夫婦、または一人暮らしの高齢者が増えている。こうした高齢者は「空巣老人(コンチャオ・ラオレン)」といわれる。中国人民大学・中国調査・データセンターが2016年3月に発表した『中国老年社会追跡調査』によると、60歳以上の「空巣老人」は全国の高齢者の47.5%を占めている。「空巣老人」らの介護が必要とされるようになったとき、だれがどのように面倒をみるのだろうか。

「9073」の目標

中国で全国的な介護保険制度は整備されていない。急速に進む高齢化と高齢者介護の必要性に迫られつつあるなかで、地方政府が各地の状況に応じた取り組みを進めている状態だ。上海市などでは「9073」という目標が設定されている。「9073」とは、介護の90%を在宅(家族)で、7%を地域コミュニティ(社区)で、3%を専門医療施設で担おうとする政策である。一方、北京市では「9064」という政策が掲げられている。

中央政府は「第13次五カ年計画(2016~2020年)」で、介護保険制度の確立を検討する方針を打ち出している。「指導意見」では、原則として都市部従業員基本医療保険制度の加入者を介護保険の対象に指定。その範囲は各地の状況に応じて拡大していく。財源は従業員基本医療保険制度とともに運用するものとし、その基金の残高を介護保険の基金に振り替えるなどして調達する。給付水準は支出額の約70%とする基準を示しているが、サービスの具体的な内容とともに、各地の状況を踏まえて設定するものとされている。

青島市での先行実施

高齢化の進行が著しい山東省青島市では、2012年7月に介護保険(長期医療介護保険)制度の試行を先行的に始めた。2015年からは都市部と農村部の医療保険制度の統一により、都市だけでなく農村の住民も制度の対象に含まれるようになった。財源は都市部従業員医療保険基金と住民医療保険基金から拠出されている。

介護サービスを受けるためには、日常生活にあたって介護が必要であることを、市の指定医療機関から認定される必要がある(注3)。1日あたりの給付額は、在宅介護で50元、「介護院」といわれる養老医療施設への入所介護で65元、指定医療機関での専門介護で170元となっている。巡回介護のサービスも行われており、週2回の訪問で年間1600元、または週1回で年間800元が給付される。都市部従業員および「第1種成人」(住民医療保険の納付額が年間350元の者)らは週2回、「第2種成人」(同150元の者)は週1回の訪問とされている。これらのサービスの自己負担率は、都市部従業員が10%、「第1種成人」らが20%、「第2種成人」が60%となっている。

北京市海淀区の対応

北京市海淀区は2016年6月に「海淀区在宅養老失能介護協力保険試行弁法」を発表した。中国で初めて介護保険の資金を医療保険と分離して運用するもので、具体的な内容は以下の通りである。

  1. 北京市海淀区に戸籍のある18歳以上の住民で、希望する者が制度に加入する。
  2. 食事、着替え、寝起き、排泄など4項目の基本生活能力を3段階(「軽度失能」(1項目喪失)、「中度失能」(2~3項目喪失)、「重度失能」(4項目喪失))に分け、それぞれのレベルに応じた額を支給する。支給額(月額)は「軽度」900元、「中度」1400元、「重度」1900元である。
  3. 納付額(月額)は都市部住民の場合、「18歳~39歳」76元、「40歳~59歳」83.6元、「60歳以上」91.2元、農村部住民の場合、「18歳~39歳」66元、「40歳~59歳」73.6元、「60歳以上」81.2元。
  4. 15年以上納付した者が65歳になり、6カ月以上の治療と医療機関の証明で基準を満たしていると認定された場合、介護保険のサービスを受けることができる。

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