「中国報酬発展報告2015」を発表

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2016年5月

中国人力資源・社会保障部の労働賃金研究所は2015年11月に「中国薪酬(報酬)(注1) 発展報告2015」(以下:「報告2015」)を発表した。報告は2010年に初めてまとめられ、今回で5回目になる。新常態(ニューノーマル)という経済情勢下での所得分配の現状や展望、業界間や企業内の所得格差、農民工(農村出身の出稼ぎ労働者)の所得の状況などを紹介している。

業界や企業間の格差

「報告2015」によると、業種間における所得の格差は依然として大きい。都市部「非私営企業」(注2)従業員の2014年の平均所得を業種別に見ると、最も高いのは金融業の10万8273元で、全国平均値の1.92倍となっている。これに対して、最も低いのは農林・牧畜・漁業の2万8356元で、全国平均値の50%にとどまる。金融業と農林・牧畜・漁業の所得格差は3.82倍にのぼる。

都市部「私営企業」で従業員の年平均所得が最も高いのは、情報通信・情報技術業の5万1044元で全国平均値の1.04倍。最も低いのは、農林・牧畜・漁業の2万4645元で全国平均値の74%である。情報通信・情報技術業と農林・牧畜・漁業の所得格差は1.9倍となっている。

企業内の所得格差

「報告2015」では、上場企業における「高級管理人員」(注3)と一般従業員との間の所得格差を縮小することを重視すべきだと指摘した。2010年の高級管理人員と従業員の所得格差は7.45倍にも達していた(図1)。その後、一般従業員の年平均所得が増加し、その格差は2011年に5.74倍、2012年に4.77倍、2013年に3.53倍へと縮まっていった。しかし、2014年は3.5倍と横ばいとなり、格差解消の進展にブレーキがかかった。さらに格差を縮小していくため、2015年1月より、主に国有企業の高級管理人員を対象に、給与水準引き下げのための制度改革(「中央管理企業責任者の給与制度改革方案」)が実施されている。

図1:上場企業高級管理(高管)人員と従業員の年平均所得及び格差
図1:画像

  • 出所:「中国薪酬発展報告2011」「同2013-2014」「同2015」

業種別に見ると(図2)、高級管理人員の所得が最も大きいのは金融・保険業である。その年間所得は157.35万元にもなり、不動産業(82.78万元)の1.9倍、農林・牧畜・漁業(26.74万元)の5.88倍の水準に達している。高級管理人員と一般従業員との所得格差が最も大きいのは不動産業で5.54倍となっている。

図2:2014年上場企業高級管理(高管)人員と従業員平均所得の比較(業種別)
図2:画像

  • 出所:「中国薪酬発展報告2015」

農民工の状況

「報告2015」は農民工(出稼ぎ労働者)の所得の状況とその問題点も指摘している。2011年以降、農民工の所得は増え続けてきたが、その伸び率は年々低下している(表1)。

表1:農民工の所得(暦年)
  2011年 2012年 2013年 2014年
平均収入(月) 2049元 2290元 2609元 2864元
対前年伸び率 21.2% 11.8% 13.9% 9.8%
  • 出所:「中国薪酬発展報告2015」

「報告2015」は農民工の所得を増加させるために、①経済の持続的な発展、②最低賃金の上昇、③集団協議、集団契約制度(注4)の普及、④教育訓練レベルの向上、が必要だと指摘する。

近年、各地域で最低賃金の引き上げが続き、労働市場の底辺に位置づけられる農民工の賃金に影響を与えた。「人力資源・社会保障事業発展統計公報」によると、2011年には全国の25地域で最低賃金が引き上げられ、その平均伸び率は22%に達した。2012年は25地域で平均20.2%、2013年は27地域で平均17%、2014年は19地域で平均14.1%と引き上げが行われている。

中国の団体交渉に相当する「集団協議」及び「集団契約制度」の効果についても言及している。集団契約の件数は2014年末で170万件に達し、従業員1.6億人をカバーしている(図3)。現在、全国の10地域が「賃金集団協議条例」を公布。農民工が賃金集団協議の対象になることを促し、その所得を増加する権利を保護したと指摘している。

図3:「集団契約」の件数
図3:画像

また、高等専門教育レベルの農民工や、農業以外の技能訓練を受けた農民工の割合が上昇傾向にあり、所得の上昇をある程度促進したのではないかと分析している。

ただし、都市部従業員との所得格差は解消されていない。その平均所得は都市部従業員(非私営企業在職者)の60%にとどまっている(図4)。

図4:都市部従業員と農民工の年間所得
図4:画像

  • 出所:「中国薪酬発展報告2015」

また、未払い賃金の問題も解決していない。この問題に対処するため、中央政府は「刑法」に「労働報酬不払拒否罪」を設けた(2011年5月)。そして、特に賃金未払いが集中する旧正月の時期に、全国各地域の行政機関が、その取り締まりを強化している。しかし、建築業をはじめ、卸売・小売業、交通運輸・郵政業、住宅・飲食業を中心に未払いが横行している。未払いの金額も増加しており、2014年には平均9511元で、2013年より17.1%上昇した。

農民工の長時間労働も問題になっている。「報告2015」によると、週44時間(法定時間)を超える農民工の割合は、2011年は84.5%、2014年は85.4%と高い水準のままほとんど変わっていない(表2)。「低賃金で長時間」という農民工の労働環境の改善は引き続き大きな課題となっている。

表2:農民工の労働時間
  平均出稼ぎ時間(月) 月あたり平均労働日数 1日あたり平均労働時間 労働時間が毎日8時間を越える農民工の割合(%) 労働時間が毎週44時間を超える農民工の割合(%)
2011年 9.8 25.4 8.8 42.4 84.5
2012年 9.9 25.3 8.7 39.6 84.4
2013年 9.9 25.2 8.8 41 84.7
2014年 10.0 25.3 8.8 40.8 85.4
  • 出所:「中国薪酬発展報告2015」

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