「中央管理企業責任者の給与制度改革方案」を施行

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  • 国別労働トピック:2015年2月

中国政府は昨年8月29日の党中央政治局会議で承認された「中央管理企業責任者の給与制度改革方案」(以下「方案」という)を2015年1月1日から施行した。この方案は国有企業改革の一環として実施され、中央管理企業の主要責任者の給与制度の調整だけでなく、給与情報の公開制度の確立もめざしている。今回の給与改革は72の中央管理企業に関係している。そのうちの53は国務院国家資金委員会が出資人責任を履行する中央管理企業(中国石油や中国移動など)であり、19はその他の金融、鉄道などの中央管理企業である。対象は中央が管理する責任者のみで、市場から選任された企業責任者は除外される。

高い給与水準と大幅な格差

人力資源・社会保障部労働賃金研究所によると、中国では2013年の上場企業の責任者の平均年給は46.1万元、上場企業の主要責任者の平均年給は76.3万元であった。これに対し、中央管理企業の責任者の給与水準は、上場企業の主要責任者の2~3倍、従業員の12倍と社会の平均より遙かに高かった。

「フォーブス中国版」が2014年に発表した「中国上場企業CEO報酬ランキング」によると、中国国際海運集装箱股份有限公司(中集集団)の総裁が年収870万元でトップであった。中国統計局によると、2013年の都市部企業就業者の平均年収は5万1474元で、中集集団総裁の169分の1に過ぎない。

中央管理企業の中には、企業経営で莫大な赤字を出しても、主要責任者が依然として高額の報酬を受け取っている例が見受けられる。

昔から、中央管理企業の主要責任者の「見えない収入」の問題が社会で議論の焦点となってきた。主要責任者は中央政府が任命し、行政級別の身分と企業の責任者の身分の2つを持っている。主要責任者の職務収入には、責任者としての収入のほか、公務員としての収入も含まれる。中央管理企業の主要責任者の収入と業績とのつながりがほとんど見えない。また、中央管理企業の責任者は上場企業の株式を大量に保有しており、それが隠蔽された巨額の収入の一部となっている。その他、中央管理企業の責任者には兼職の者も多い。子会社や中央管理企業に投資しているその他の企業で職位を持ち、多額の利益配当を受け取っている。こうした点がかねてから指摘されてきた。

給与水準引下げのための制度改革

中国政府は、中央管理企業の主要責任者の給与水準を引き下げるとともに、支払基準を明確化するため給与制度改革を実施した。

中央管理企業の主要責任者は、国務院が国家を代表して出資人の責任を履行する国有独資企業または国有持株企業において、中央管理によって任命される董事長(取締役会会長)、党委書記、総経理(社長)、監事長(監査役)およびその他の副職の責任者である。任期は1期3年で、再任される場合は3期まで務めることができる。

中央管理企業の主要責任者の現行の給与制度は、2013年2月の「中央企業責任者経営業績審査暫定弁法」(以下「2013年暫定弁法」という)に基づき、基本年給と業績年給の2つで構成されている。それが今回の「方案」により、基本年給、業績年給、任期激励給の3つの組み合わせに変更された。

基本年給は前年度の中央管理企業の在職職員の年平均給与の2倍に設定されている。中央管理企業の主要責任者は中央政府によって任命され、原則としてほぼ同じ額の基本年給を受け取っている。

中央管理企業の業績年給の計算方法は、「2013年暫定弁法」によって、「本年度業績収入基数×業績収入倍数」と定められている。業績年給は基本年給の2倍を超えてはならない。業績年給は年度考査の結果に基づき、5つのレベル(A~E)に分けられる。Aレベルは業績収入基数の2~3倍、Bレベルは1.5~2倍、Cレベルは1~1.5倍、Dレベルは0~1倍、Eレベルは0となっている。

任期激励給は、中央管理企業の主要責任者の任期考査評価結果に基づき決定される。任期激励給は任期内年給の30%を超えてはならない。年度や任期内の考査評価が不合格の場合、業績年給と任期激励給を受けることができない。

中国国務院国有資産監察管理委員会のデータによると、中央管理企業の主要責任者の給与は、2001年は職員の平均給与の9.85倍であったが、2010年には格差が13.39倍に拡大した。2013年および2014年も10倍~15倍の格差があると推測される。今回の給与制度改革により、中央管理企業の主要責任者と職員の平均給与との格差は7~8倍に縮小すると予想されている。

長期的な利益追求と任期審査の合理性

今回の「方案」に基づく給与制度改革では、「任期激励給」が新しく導入された。短期的な利潤の最大化を追求するのではなく、長期的に経営を行い、市場を広く開拓するという基準で主要責任者の業績を評価し、任期激励給などを任期終了後に支払う制度となっている。

従来の中央管理企業責任者の任期審査指標は、「2013年暫定弁法」に基づいていた。年度経営業績審査指標と任期経営業績審査指標に分けられ、さらにそれぞれ基本指標と分類指標の2つに分けられる。年度経営業績審査の基本指標は利潤総額および経済増加値(企業税引後営業利益-資本コスト)、任期経営業績審査の基本指標は国有資産の維持・増加率(年末国有資本権益/年初国有資本権益×100%)および総資産回転率を含んでいる。審査制度からみると、やはり「利潤の最大化」が最大目標となっていた。

これに対し、「方案」に基づく制度は、現在の企業経営は、短期の利潤最大化を追求するのではなく、経営の長期化、市場の最大化を求めている。

中央企業責任者の任期は1期3年で、再任されれば、3期まで務めることができる。例えば、任期中に市場拡大戦略を策定し、戦略が順調に進んでいる最中に離任し、後任の責任者が市場拡大の成果を享受したとする。従来の審査基準に基づいて審査すると、離任した責任者の業績は普通で、新任の責任者の業績が優れていることになる。このような情況を考慮し、中央管理企業責任者の業績評価について、任期内だけではなく、長期的な審査制度への転換が必要とされ、離任した責任者に対しても任期後に激励収入を与えるべきだという考えに至ったものである。

給与情報公開の基準

中央管理企業の責任者の給与情報は、これまで上場企業の年次報告書において一部のみ公開されていたが、その他の中央管理企業の責任者の給与情報は不透明であった。今回の「方案」は、企業責任者の給与の調整以外に、給与情報公開制度の確立もめざしている。中央管理企業責任者の給与水準や、福利収入などの責任者の給与情報は、上場企業のみならず、非上場企業においても上場企業の情報公開に基づいて社会に公開するよう義務づけている。しかし、企業が具体的に給与のどの部分の情報を、どのような形式や方法で公開し、国民はどのように情報にアクセスすることができるのか、などの具体的な規定がまだ公表されていない。国民の関心はやはり、中央管理企業責任者の基本年給をはじめ、業績年収、任期激励給、福利収入、手当などの詳細情報が公開されることにあり、今回の「方案」が実効性をもって執行されることが期待されている。

参考文献

  • 中国新聞網、京華時報、北京晩報、光明日報

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