年金「一元化」改革が本格的に始動

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  • 国別労働トピック:2016年5月

中国国務院は2015年1月に「政府系事業組織(注1)従業員年金保険制度改革に関する決定」を発表し、年金制度の「一元化」に向けた改革を本格的に始動させた。省・自治区は各地の状況に応じた「実施細則」を相次いで発表。2015年11月までに、あわせて22の省・自治区で公布された。政府系事業組織の従業員はこれまで保険料の個人負担がなかった。それは公務員に準じた措置だった。今回の改革により、都市部の企業に勤める従業員と同様に賃金の8%の掛け金を負担することになった。

支給対象者を三つに区分

新制度の実施、保険金の徴収は遡って2014年10月からとし、すでに退職した従業員への年金支給方法は従来の仕組みを踏襲する。改革以前から務めている従業員は、これまで保険料を負担してきたとみなして年金の支給額が決まる。負担額の計算方法は省・自治区等で異なるが、給付水準が従来の計算方法に基づく場合より低下しないよう配慮するとともに、改革後の給付水準が高まらないよう抑制する措置が設けられている。

改革により、政府系事業組織の使用者側が賃金総額の20%、そこで働く従業員個人が賃金の8%をそれぞれ基本年金保険料として負担することになった。基本年金は賦課方式の「基礎年金」と積立方式の「個人口座年金」で構成されている。前者を使用者側、後者を従業員個人が拠出する。

個人の保険料を計算する基礎となる賃金には上限と下限が設けられている。上限は当該地域における前年度在職従業員の平均賃金の300%、下限は60%である。

また、基本年金に上乗せされる企業年金の加入も義務化された。そのため、政府系事業組織は賃金総額の8%、従業員個人は賃金の4%、基本年金との合計ではそれぞれ28%、12%の負担となる。例えば、改革前は6000元の月給を得ていた政府系事業組織の従業員の場合、基本年金保険料として8%(480元)、企業年金保険料として4%(240元)が差し引かれ、手取りの月給は5280元となる。

各省等の「実施規則」によると、年金給付対象者は制度改革の期日を境に「老人」「中人」「新人」の三つに分けられる(表1)。

表1:年金給付対象者の区分
対象 「老人」 「中人」 「新人」
定義 2014年10月1日前に、すでに定年退職した者 2014年10月1日前に就職し、かつ、2014年10月1日以降に定年退職する者 2014年10月1日以降に就職した者
年金の種類 基本年金保険(改革前の待遇維持) 基本年金保険(基礎年金+個人口座年金+過渡期年金)+企業年金 基本年金保険(基礎年金+個人口座年金)+企業年金

「老人」は改革時(2014年10月1日)より前に、すでに定年退職した者、「中人」は改革時をまたいで勤務している者(改革前に就職していて、かつ、改革後に定年退職する者)、「新人」は改革後に就職した者である。

「中人」に対しては、制度改革前も基本年金保険料(個人口座年金分)を支払ったとみなして計算したうえで年金が支給されるが、この年金を「過渡期年金」と呼ぶ。その計算方法は各省等によって異なる。一部の省ではその基本的な計算方法を公表している。

給付水準の下限と上限

今回の改革で掲げられているのは、年金給付について、改革前の計算に基づく給付水準を保つとともに、上限を設けるという「保低限高」の原則である。

改革後の計算方法を用いると企業年金を含む年金給付額が改革前より低くなる場合は、改革前の計算方法に従う。一方、改革前より高くなる場合、その超えた部分は次のように調整する。2014年10月1日~2015年12月31日に定年退職する従業員には、超えた年金部分は10%の給付にとどめる。その翌年の2016年中に定年退職する従業員への超えた年金部分の給付は20%とする。このようにして1年につき10%ずつ給付割合を増やしていき、2024年1月1日~同年9月30日に定年退職する従業員には超えた年金部分の全額を給付する仕組みとする。

例えば、2016年1月30日に定年退職する予定の従業員の年金給付額が改革前の計算方法に基づくと5000元だったとすると、改革後の計算による給付額が4500元になる場合でも、改革前の計算方法にしたがって5000元が給付される。
一方、改革後の計算が5500元になる場合、5000元+(500元×20%)=5100元として、100元を補償する形で給付される。

政府系事業組織従業員の年金「一元化」の実現により、「官民格差」の縮小が期待される。しかし、高齢化が急速に進む中で「過渡期年金」を含め、年金の財源をどう確保していくのかといった財政上の課題は残されている。

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