「就業促進」「賃金分配」などの現状を報告
―「中国労働保障発展報告」

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年12月

中国労働保障科学研究院と社会科学文献出版社は2015年9月、『中国労働保障発展報告(2015)』を発表した。「就業促進」「社会保障」「労働関係」「賃金分配」という4つの側面から、2014年の労働・社会保障の状況を概観。経済が停滞する情勢下の労働市場の特徴や社会保障制度改革の進展、「集団協議及び集団契約制度」の普及、地域間賃金格差の拡大などを指摘している。

「新常態」下の労働市場

経済成長率が鈍化する中、産業構造の転換をはかり、新たな発展をめざす「新常態(ニュー・ノーマル)」といわれる情勢の下で、「労働力の供給は豊富だが採用難」「求人倍率は高いが就職難」という矛盾が生じている。

中国の労働者数は減少しつつあり「人口ボーナス」の終焉といわれているものの、2014年末時点でも9.16億人にのぼっており、2030年までは8億人以上の労働力人口を維持できると推計される。しかし、労働市場では「採用難」の現象が生じてきている。それは、「現場単純作業者」「技術労働者」「ハイレベル・イノベーション型人材」という三つの分野で現れている。

一方、近年の主要都市の求人倍率は1.0倍以上の水準を維持しているが(図1)、高校卒業以上の学歴を持つ者の就職は難しくなりつつある。また、「新常態」の情勢下で失業のリスクが増大しており、特に、中高年の低技能労働者の就職難が問題となっている。

図1:中国における100都市の求人倍率
図1:画像

  • 出所:中国人力資源・社会保障部「部分的都市公共就職サービス機構市場供給需要の情況分析」暦年四半期

社会保障制度改革の進展

2014年には「事業単位」(注1)と呼ばれる組織の年金保険改革や、都市部と農村部の年金制度の統一、都市部・農村部住民大病保険(注2)の進展、異なる地域での医療費計算の実現、建築業従業員の労災保険弁法(規則)の発表などがあり、社会保障制度の改革が一歩進んだ。

2014年の全国基本養老保険(年金)の加入者数は8億4232万人で、年金を受け取っている人数は2億2906万人である。都市部従業員、都市住民の医療保険及び新型農村合作医療保険に加入する人数は13.9億人で、カバー率は95%に達した。 失業、労災、出産保険の加入者数はそれぞれ1億7043万人、2億639万人、1億7039万人となっている。

2014年末までに、全国の社会保障カード(注3)を持つ者は7.12億人にのぼった。2014年からは「全国民保険参加登録計画」が始動し、全国50地域で試行された。2017年に完成する予定であるこの計画は、各保険グループに対して、加入状況のチェック、データの集中管理を行うものである。

「集団協議」「集団契約」の普及

労働関係(労使関係)の現状については、以下の5点を述べている。

  1. 労働関係(労使関係)の協調
    「労務派遣暫定規定」(注4)の施行、および「労働人事争議仲裁弁案規則」「労働人事争議仲裁組織規則」「企業労働争議協商調解規定」(注5)などに基づく仲裁・調停が行なわれた。2013年末までに、全国で1万7193の「労働関係三者協議組織」が作られた。
  2. 企業内賃金格差の縮小
    2014年8月には中国共産党中央政治局会議で「中央管理企業責任者の給与制度改革方案」を決定。中央国有企業管理職層の報酬の制度改革を行い、企業内の賃金格差の縮小をはかろうとしている。
  3. 「集団協議及び集団契約制度」
    賃金・労働条件・安全衛生などについて従業員代表と企業代表が協議し、合意に達した事項について契約を締結する「集団協議」及び「集団契約」が普及しつつある。2014年末の全国の「集団契約」は170万件で、対象となる従業員は1.6億人となっている。
    中国人力資源・社会保障部は2010年5月、中華全国総工会、中華企業連合会、中国企業家協会ともに「虹計画」を発表した。この計画は2010~2012年に全国で「集団契約制度」を普及させることを目的としたもので、工会(注6)がある企業では、その中での「集団契約」の締結を進める。工会がない小規模の企業の労働者については、地域別、業界別の「集団契約」を締結することでカバーする。2014年には「集団契約制度のチャレンジ計画の実施推進に関する通知」が発表され、2015年末に「集団契約」の締結率を80%にする計画が打ち出された。
  4. 労働争議の調停・仲裁
    過去7年(2008~14年)、全国各レベルの調停・仲裁組織は労働争議(労使紛争)を900万件以上処理し、関係する労働者は1200万人以上に及んだ。
    2014年に処理された労働争議は155.9万件にのぼり、解決した案件は136.2万件となっている。
  5. 労働保障監察
    全国の労働保障監察機構(労働者の権益を保護するための監督行政機関)が、それぞれの管轄する地域を一定の基準に基づき分割して情報を収集し、インターネットで管理している地方が80%を超えている。2014年に全国労働保障監察機構が取り締まった労働保障の違法案件は40.6万件にのぼった。労働保障観察の強化により、461.7万人の労働者について345.5億元の未払い賃金等の問題を解決した。このうち農民労働者の問題が335.9万人(未払い賃金は265.4億元)を占めている。

賃金格差、地域間で拡大、業種間で縮小

「賃金の分配」に関しては以下の点を指摘している。

2014年の全国民一人あたりの可処分所得は2万167元で、2013年より10.1%増加。物価の要因を除くと、実質的には8.0%の増加となっている。
都市部一人あたりの可処分所得は2万9381元で、2013年より9.0%増加し、物価の要因を除くと、実質的には6.8%の増加となった。

全国都市部の非私営企業従業員の年平均賃金は5万6339元で、2013年より4856元増加し、名目増加率は9.4%だった。一方、全国都市部の私営企業従業員の年平均賃金は3万6390元で、2013年より3684元増加し、名目増加率は11.3%となっている。

  1. 地域別賃金
    2013年の都市部企業従業員の平均賃金を地域別に見ると、最高の地域は最低の地域の2.42倍で、2012年の2.27倍から拡大している。
  2. 業種別賃金
    低賃金だった業種の賃金増加率がアップし、業種間の賃金格差は縮小する傾向にある。賃金が最高の業界と最低の業界の格差は、2010年は4.2倍だったが、2012年には3.96倍に下がり、2014年は3.82倍となっている。
    卸・小売業の2014年の平均賃金は5万5820元で、2013年の5万308元より11.0%増加。全19業種の中で最も高い増加率となった。これに対し、石炭、鉄鋼などの業界の賃金増加率が低下しており、経済停滞の影響で生産過剰になったことなどがその理由として考えられる。賃金増加率が最も低かったのは採鉱業で、2.6%増にとどまった。
  3. 賃金集団協議
    中国政府は特に賃金に関する「集団協議」「集団契約」を普及させようとしている。このため、全国の各地域は「賃金集団協議条例」などを制定している。協議の結果締結された全国の「賃金集団契約」の締結件数は2010年末時点では60.8万件で、111.6万の企業、7565万人の労働者をカバーしていたが、2013年末には133万件に増え、352万の企業、1.6億人の労働者をカバーするようになっている。

参考レート

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