地方政府による女性従業員保護政策

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  • 国別労働トピック:2015年12月

女性従業員保護の政策が各地方政府で進められている。国務院による2012年の「女性従業員労働保護特別規定」(以下「特別規定」)は、女性従業員に対して「三期」(妊娠期間、出産期間、授乳期間)の保護を規定した。この中央の決定を受けて、各地方政府は、それぞれの状況に適して強化した内容の女性従業員保護に関する条例や弁法(規則)を公布するようになった。

湖北省武漢市は2015年6月に「武漢市女性従業員労働保護弁法」(以下「労働保護弁法」)を公布した。山西省でも同年10月1日から「山西省女性従業員労働保護条例」(以下「保護条例」)を実施している。武漢市と山西省では「三期」のほか、労働契約、授乳休暇、更年期障害などに関する内容も保護の対象に追加している。

労働契約の制限禁止

国務院「特別規定」第5条は、「雇用企業は、女性従業員の妊娠、出産、授乳の期間中に給料を下げ、退職させ、あるいは、労働契約や雇用契約を解除してはならない」としている。

近年、女性従業員との労働契約に、結婚や出産の制限を設ける企業があり、それに対する訴訟が増えている。

ニュースサイト・光明網がそうした事例を紹介している。2012年3月にAさんはある建築会社と2年間の労働契約を結んだ。その労働契約第8条は「双方(建築会社とAさん)は各自の意志で契約を結び、従業員は契約期間中に結婚してはならず、それに違反した場合、企業は労働契約を解除する権利がある」とされていた。

Aさんは、2013年3月に結婚して「結婚休暇」を取得。雇用企業はそれを違約だとして解雇し、休暇期間中の賃金1200元も支払わなかった。Aさんは仲裁が不調に終わった後、裁判所に提訴。企業に2014年3月までの労働契約を履行させ、休暇中の1200元の賃金支払いも求めた。裁判所は、「結婚の禁止」という労働契約の内容について、「公民婚姻自由」の侵害で違法だと判断し、Aさんが勝訴した。それを受けて、地方政府は労働契約の内容に結婚や出産などの制限を設けることを禁じた。

山西省「保護条例」は、①労働契約を結ぶ時、企業は書面で女性従業員に対し、仕事中に生じた被害及び結果、保護制度などを通知しなければならない、②労働契約の中に女性従業員の結婚や出産制限などの内容を記入してはならない、③企業は、女性従業員が結婚、妊娠、出産、授乳などのときに、給料や福利待遇などを下げたり、昇進や評価を制限したり、労働契約や雇用契約を解除してはならない、④契約期間が完了したが、妊娠、出産、授乳の期間を満たしていない場合、労働契約あるいは招聘契約の終了は、妊娠、出産、授乳期間を満たした後に順延すべき、⑤労働者の派遣元と派遣先の企業は労働者派遣協議を結ぶ時、女性従業員の保護内容を明確にしなければならない、と定めている。

武漢市は「労働保護弁法」で、「企業は労働契約あるいは招聘契約の中に、女性従業員の結婚、出産制限など合法権益を損なう内容を取り決めてはならない」「賃金調整、昇進、評価などで女性従業員を差別してはならない」ことを規定している。

女性従業員の「三期」保護

国務院「特別規定」は以下のとおり、女性従業員の「三期」の保護を規定している。

  • 妊娠期間
    • ①雇用企業は女性従業員の労働量を減らし、他のふさわしい労働を手配する。
    • ②妊娠して7カ月以上の女性従業員に、労働時間の延長や夜勤労働などをさせてはいけない。労働時間内に休憩時間を手配しなければならない。
    • ③妊娠した女性従業員が就業時間内に産前検査を行なった場合、その期間は労働時間に算入する。
    • ④流産の場合、妊娠4カ月未満で15日、4カ月以上で42日の休暇を与える。
  • 出産期間
    • ①出産休暇は98日(出産前15日の休暇日数も含む)。難産の場合、15日を増加。双子以上の場合、乳児一人につき、15日増加する。
    • ②産休期間の手当は、出産保険加入の場合、雇用企業の過去の職員の月あたり平均賃金水準に基づいて、出産保険基金により支払われる。出産保険未加入の場合、産休前の女性従業員の賃金水準に基づいて雇用企業が支払う。
  • 授乳期間
    • ①1歳未満の乳児がいる場合、雇用企業は女性従業員に超過勤務及び夜勤労働を命ずることができない。
    • ②労働時間内に毎日1時間の授乳時間を与えなければならない。双子以上の乳児がいる場合、乳児一人につき1時間、授乳時間を増やす。
    • ③女性従業員の多い雇用企業は、その需要に応じて、女性従業員衛生室、妊婦休憩室、授乳室などの施設を設立する。

武漢市「労働保護弁法」は、授乳期間の終了後も、三級以上(注1)の医療機関あるいは雇用企業の指定した医療機関が乳児を虚弱体質と診断した場合、6カ月を超えない範囲で授乳期間を延長することができる、としている。

山西省「保護条例」では、女性従業員に授乳休暇を与えることを規定した。従業員本人が申請し、企業の同意を得ると、乳児が1歳まで授乳休暇を取得できる。休暇期間の労働条件等は本人と企業の協議で確定。乳児が満1歳で、雇用企業の指定した医療機関が虚弱体質と診断した場合、6カ月を超えない範囲で授乳休暇を延長することができる、としている。

妊娠中に失業した場合、失業前に出産保険に参加し、連続して保険料を支払っている女性従業員は、失業救済金を受け取る期間中、出産医療費用が出産保険基金から支払われる、とした。

「更年期障害」も保護対象に

武漢市「労働保護弁法」と山西省「保護条例」では、国務院「特別規定」に定めていない「更年期障害」も保護の対象に追加している。

山西省「保護条例」は、二級以上の医療機関から「更年期症候群」と診断され、著しい治療効果がなく、現在の職位では働けないという意思がある場合、雇用企業は他のふさわしい職位を提供すべきだとした。

武漢市「労働保護弁法」では、女性従業員が「更年期症候群」で自らの仕事を担当できないという場合、三級以上の医療機関あるいは指定されている医療機関による証明があれば、雇用企業は女性従業員と話し合ったうえで職位を調整し、変更後の労働契約と当該雇用企業の賃金制度に基づいて賃金を調整することができる、としている。

参考資料

  • 中国政府網、中華全国総工会、国務院法制弁公室、光明網

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