「一時的」でない労働者派遣、従業員代表の判断で拒否が可能に
―連邦労働裁判所が新たな判断
連邦労働裁判所第7小法廷は2013年7月10日、派遣労働者の利用に関して、それが「一時的」な利用でないと認められる場合、派遣先企業の事業所委員会はこれに対して拒否権を行使することができる旨の新たな判断を示した。背景には、2011年7月20日のドイツ労働者派遣法改正(同年12月1日発効)によって、労働者派遣の「一時的」利用に関する条文が新たに追加されたことが強く影響している。これにより、ドイツでは今後、これまで利用可能だった長期継続的な派遣が実質上大幅に制限されることが予想されている。
「グループ企業内の無期派遣は適法」とした下級審判断、最終審で覆る
本件において問題となった労働者派遣は、グループ企業内における労働者派遣であり、かかる派遣労働者は「いかなる期間的な制限もなく」基幹労働者の代替労働力として稼働することを前提としていた。
このような派遣労働者の利用について、派遣先企業の法定従業員代表組織である事業所委員会は、事業所組織法(BetrVG)の定めにしたがい、派遣労働者受け入れに対する同意を拒否した。事業所委員会は、労派遣労働者の利用が何らかの「法律」に違反している場合に限り、その利用に関して同意を拒否する権利を事業所委員会に付与する同法99条2項1号の規定に基づいて、拒否権を行使したのである。これに対し、派遣先企業も、事業所委員会がその同意を拒否した場合には労働裁判所に対し「裁判所による同意の代替」を請求する余地を使用者側に残している同法99条4項に基づき、代替的同意の請求を求めて訴えを提起したのが本件事案である。実際上は、事業所委員会による拒否権の行使が何らかの法律違反を前提とした正当なものであったかどうかが中心的な論点となった。
以上のような派遣先企業の請求に対し、第一審及び第二審の段階では、これを是認する判断が示されていた。しかし、最終審である上記連邦労働裁判所判決の段階では一転、これを退ける判断が示されたのである。
2011年改正労働者派遣法の「一時的」という文言が決定打に
その判断の決め手となったのが、2008年11月19日のEU派遣労働指令を受けて2011年に改正されたドイツ労働者派遣法(AÜG)の「派遣先への労働者の派遣は一時的に行われる」という新たな規定(同法1条1項2文)であった。
上記連邦労働裁判所決定は、まず、第二審(ニーダー・ザクセン州労働裁判所2011年11月16日決定17 TaBV 99/11 )の段階でもなお発効していなかった2011年改正労働者派遣法1条1項2文の取り扱いについて、本最終審で基準となるのは裁判所が判断する時点での法状況であるなどとして、同規定も事業所組織法99条2項1号がいうところの「法律」に該当するものである、と判断した。
そして、同規定の趣旨について、「派遣労働者の保護」と「派遣先企業における基幹労働者と派遣労働者の長期継続的な分断の防止」にあると指摘するとともに、その法的効果について、単なる「拘束力のないプログラム規定」ではなく、「一時的という範囲を超えた労働者派遣を実際に禁止するもの」であるとした上で、本件について、「使用者が意図しているのは、当該派遣労働者を期間的な制限なく基幹労働者の代替物とするということ」であり、「これはいかなる場合であっても、“一時的”なものではない」などとして、原審の判断を破棄したのである。
判例法理としての影響力の程度はなお未知数
もっとも、同決定の射程は、少なくとも現時点においてはなお限定的なものに留まっているといわざるをえない。この点、連邦労働裁判所報道官のインケン・ガルナー氏は、同決定はあくまで派遣労働者の長期継続的な利用に対して事業所委員会が拒否権を行使する可能性を示したものにすぎず、派遣先企業における派遣労働者の労働関係一般に関する原則を示したものではない、という点を強調し、例えば「一時的」である期間を超えた場合に、派遣労働者が派遣先企業で期間の定めのない契約を締結するよう請求する権利を有することになるかどうかなどの問題においても、今回と同様の判断がなされるかどうかは、なお未解決なままである、としている。
また、同決定は、事業所組織法上の「一時的」という概念の具体的意味内容――例えば、「一時的」である具体的な最長期間はどれぐらいの期間か――についても、本件においてその必要はないとして、かかる検討を行っていない。これら未解決の部分に関しては、すでに連邦労働裁判所に継続中であるいくつか事件の中において、その判断が示されることが予想される。
労使団体の反応に大きな隔たり
金属産業労組(IG Metall) 副委員長のデトレフ・ヴェッツェル氏は、以上のような今回の連邦労働裁判所における判断を大いに歓迎するとともに、同決定が派遣労働者の「常用代替」的利用に大きな影響力を与えることを期待している。「事業所委員会はこれで、職場が中核的労働力と周縁的労働力とに分裂してしまうという事態にくさびを打つ手段を手にすることができた。派遣労働はあくまで一時的、例外的なものに過ぎないものであることも、今回の連邦労働裁判所の判断で明確となったはずだ。派遣労働は、繁忙期を乗り切るための一時的・例外的利用という本来の姿に戻る。基幹労働者のポストを安価で、いつでも解約可能な派遣労働者のポストへと代替しようとする“戦略的派遣労働”の時代はこれから終焉を迎えるだろう」。
一方、使用者側に立つドイツ労働者派遣事業協会(iGZ)会長のマルティン・ドライヤー氏は、自分たちが連邦労働裁判所の判断を歓迎していない点を認めつつも、しかし、今回の判断はあくまで「グループ企業内で行われた基幹労働者ポストの派遣労働者ポストへの転換という性格をもって行われたやや特殊な派遣労働に関わるもの」であり、「柔軟な就労と就労場所の変更を特徴とする典型的な派遣労働に関わるもの」ではないと確信している、と語っている。
研究者からは新たな低廉労働力利用への移行を危ぶむ声も
元連邦労働裁判所裁判官でコンスタンツ大学客員教授(労働法)のフランツ=ヨーゼフ・デュベル氏は、今回の判断について、「問題なのは、職場が長期継続的に派遣労働者によって占められることによって、基幹労働者のポストが代替されてしまうということである。しかし、ドイツの立法者は、労働者の “一時的”な派遣が何を意味するのか、その具体的な期間や法的効果について、まったく明記することはなかった」などとして、法の欠缺を補充した連邦労働裁判所の判断に一定の評価を与えている。
また、コブレンツ大学教授(社会科学)のシュテファン・ゼル氏も、「これまでは派遣労働者は一生、同じ企業で使用され、一生、隣の同僚よりも少ない賃金しか得られない可能性もあった。連邦労働裁判所は、派遣労働の行き過ぎに歯止めをかける決意であろう」と評価している。だが同時に、「使用者側はすでに、例えば請負契約をつうじた労働力利用や東欧からの越境的配置労働者(送り出し労働者)の利用など、新たな低廉労働力の利用に踏み出している」と警鐘を鳴らしている。
参考資料
- BAG, Einsatz von Leiharbeitnehmern - Zustimmungsverweigerung des Betriebsrats
, Pressemitteilung Nr. 46/13
- Süddeutsche.de, Betriebsräte bekommen Vetorecht bei Leiharbei
t, 12. 07. 2013
- DIE WELT, Bundesarbeitsgericht setzt Leiharbeit enge Grenzen
, 12. 07. 2013
- ZEIT ONLINE., Betriebsrat kann dauerhaften Einsatz von Leiharbeitern verhindern
, 11. 07. 2013
- Frankfurter Allgemeine Zeitung, Bundesrichter schränken Leiharbeit ein
, 11. 07. 2013
関連資料
- ベルント・ヴァース(仲琦訳)「ドイツにおける企業レベルの従業員代表制度(PDF:411.3KB)」日本労働研究雑誌630号(2013年)
- 海外労働情報 2013年5月「社会民主党と左派党、「請負契約の濫用」規制法案をそれぞれ提出」
- 海外労働情報 2012年5月「派遣労働者に最低賃金、1月に導入」
- 海外労働情報 2011年4月「派遣の低賃金協約無効判決」
- 労働政策研究・研修機構 報告書(2011)「諸外国の労働者派遣制度(1.74MB)」
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=132.10円(※みずほ銀行ウェブサイト
2013年8月23日現在)
関連情報
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