メルケル政権、最低賃金政策を転換
―連立政権内で調整へ
メルケル首相は11月14日、ライプチヒで開かれた自身が所属するキリスト教民主同盟(CDU)党大会で、1000人の出席者を前に法定最低賃金の導入を認める提案をした。その結果、反対4、棄権8が出たものの、圧倒的多数で承認された。しかし、法定最低賃金の導入には、反対を表明している連立相手の自由民主党(FDP)の了承が不可欠で、この溝が解消できるかどうかは未だ不透明な状況だ。
背景に労働協約適用率の低下や貧困格差の拡大
ドイツは、ヨーロッパでは少数派の法定最低賃金制度がない国である。その代わりに、労使は主に産別を中心に賃金交渉を行い、そこで決定された協約賃金を拡張適用することで、未組織労働者にも波及する仕組みを取ってきた。政府はこの「労使自治(Tarifautonomie)」による賃金決定を長年尊重してきたが、昨今の産業構造の変化や労組組織率の低下に伴う協約適用率の低下、低賃金労働や貧困の拡大といった問題が生じるにつれて、労働組合や社会民主党(SPD)から法定最低賃金の導入を求める声が強くなっていた。
メルケル政権は、2009年の政権誕生時から法定最低賃金の導入を否定しており、FDPと交した連立協定書にも「(労使間の)協約に関する自治を支持する。これは社会福祉的な労働経済秩序の枠の中で放棄しがたい尊いものであり、国による賃金設定より優先される。また、法による統一最低賃金は、これを拒否する」と明記されている。
そのため、今回の最低賃金策の見直しはメルケル政権にとって、徴兵制の停止、脱・原子力エネルギーへの転換、基幹学校(Hauptschule)など教育制度の見直しに続く大きな政策転換となる。
労組は歓迎、使用者側は警戒
フォン・デア・ライエン労働社会相は地元紙の取材に対して、「最低賃金を導入するかどうかはもはや問題ではない。導入を前提に、労使代表がどのようにして適切な最低賃金額を決定し、合意するかが重要だ」と述べた。
労働組合やSPDは、前述の通り今回の動きを歓迎しており、法定最低賃金が導入されれば、闇労働の抑制や社会保障制度の空洞化の防止にもつながるとの期待を寄せている。一方で、経済界やFDPは、法定最低賃金の導入は雇用機会の喪失や経済成長の阻害につながるとして反発を強めている。
今後、FDPが実施を求めている減税策などでCDUが歩み寄りを見せて両者で折り合えば、法定最低賃金導入の動きが加速する可能性もあり、注目が集まっている。
参考資料
- European industrial relations observatory on-line(10 Nov 2011)、 Deutsche Welle(15.11.2011, 31.10.2011)、The Economist (Nov 5th 2011)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=106.04円(※みずほ銀行
ホームページ2011年10月25日現在)
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