2011年の労働協約賃上げ率は平均2%
―WSI総括報告

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2012年4月

経済社会科学研究所(WSI)の報告によると、2011年の労働協約の賃上げ率は年平均換算で2%、協約の適用を受けた労働者は計920万人(適用率49%)に上ることが明らかになった。このほか740万の雇用労働者に対して、2011年以前に合意した協約賃金の引き上げが実施された。

経済社会科学研究所(WSI)が発表した今回の報告書は、ドイツ労働総同盟(DGB)傘下の労働組合が昨年締結した労働協約を総括したもの。2011年の労使交渉では、ほとんどの労組が当初5~7%の賃上げを要求したが、最終的に労使合意に達した平均の引き上げ率は2%(2010年は1.8%)となった。産業別では、非営利/民間サービスが2.8%という高い賃上げ率を獲得した一方で、欧州債務危機などの影響を受けた金融・保険は1.1%だった。2007年から2011年の産業ごとの詳細な年平均の協約賃上げ率は、図表1の通り。また、2011年の主要な協約賃金の合意状況は図表2の通りである。

図表1 産業別の年平均協約賃上げ率(2007年~2011年、%)
産業 2007 2008 2009 2010 2011
建設業 2.0 3.0 2.4 2.4 2.3
食品産業 2.2 2.5 2.4 2.4 2.3
運輸・通信業 2.2 3.5 2.9 2.3 1.6
原材料製造業 2.6 3.3 2.5 2.2 2.2
農業・造園、林業 1.7 3.7 2.8 1.6 1.6
投資財製造業 3.4 2.6 3.3 1.0 1.8
消費財製造業 2.5 2.8 2.4 1.8 2.0
流通業 2.0 1.9 1.4 2.5 2.0
電気・水・鉱業 2.0 3.0 4.1 2.9 2.1
非営利/民間サービス 1.4 3.0 1.9 2.2 2.8
金融・保険 1.8 2.7 1.8 1.8 1.1
公共サービス・社会保障 0.6 4.4 3.7 0.9 1.8
合計 2.2 2.9 2.6 1.8 2.0

出所:WSI Collective Bargaining Archive

注:前年比

図表2 2011年の主な協約賃金の内容
締結日 産業 合意内容
1月31日 民間輸送業
(ノルトライン・ヴェストファーレン州)
4カ月(2010年12月~2011年3月)の賃上げ凍結後
2011年4月1日に3.1%の賃上げ
2012年3月1日に1.7%の賃上げ
有効期間:2012年12月31日まで
2月8日 フォルクスワーゲン社 2011年2月~4月に対して年収1%相当
(少なくとも500ユーロ)の一時金
2011年5月1日に3.2%の賃上げ
有効期間:2012年5月31日まで
2月23日 ホテル・旅館業
(バーデン・ヴュルテンベルク州)
3カ月(1月~3月)の賃上げ凍結後
2011年4月1日に2.9%の賃上げ
2012年7月1日に2.4%の賃上げ
有効期間:2013年6月30日まで
3月10日 公共サービス(州レベル) 2011年1月~3月に対して360ユーロの一時金
2011年4月1日に1.5%の賃上げ
2012年7月1日に1.9%+17ユーロの賃上げ
有効期間:2012年12月31日まで
3月31日 化学産業 1か月の賃上げ凍結後、4.1%の賃上げ
(地域により開始月は異なる)
有効期間:地域により異なる
(2012年5月31日、6月30日、7月31日)
4月14日 建設産業 1か月、もしくは2カ月の賃上げ凍結後
2011年5月1日に3%の賃上げ(旧西ドイツ地域)
2011年6月1日に3.4%の賃上げ(旧東ドイツ地域)
2012年6月1日に2.3%の賃上げ(旧西ドイツ地域)
2012年8月1日に2.9%の賃上げ(旧東ドイツ地域)
有効期間:2013年3月31日まで
6月10日 小売業
(バーデン・ヴュルテンベルク州)
2カ月(4月、5月)の賃上げ凍結後
2011年6月1日に3%の賃上げ
2012年4月に一時金支給
2012年6月1日に2%の賃上げ
有効期間:2013年3月31日まで
6月29日 印刷業 4月~2012年7月の間に280ユーロの一時金
2012年8月1日に2%の賃上げ
2013年7月に150ユーロの一時金
有効期間:2013年12月31日まで
7月21日 保険業 4月~8月の間に350ユーロ
(職能レベルによって450ユーロ)の一時金
2011年9月1日に3%の賃上げ
2012年10月1日に2.2%の賃上げ
有効期間:2013年3月31日まで
9月30日 鉄鋼業
(ノルトライン・ヴェストファーレン州、ニーダー ザクセン州、ブレーメン州)
1カ月(11月)の賃上げ凍結後
2011年12月1日に3.8%の賃上げ
有効期間:2013年2月28日まで
12月7日 紙処理業 2011年12月に70ユーロの一時金
2012年1月1日に3%の賃上げ
2013年1月1日に1.6%の賃上げ
有効期間:2013年5月31日まで

出所:WSI Collective Bargaining Archive

WSIは報告書の中で、上記の協約賃金に関する情報のほか、実質賃金の上昇率や男女間の賃金格差などにも触れている。

それによると、2011年に労働者が実際に受け取った毎月賃金は、前年より3.4%増加しており、同じ年のインフレ率2.3%を差し引いて、実質の賃金上昇率は1.1%増であった。WSIは、賃金上昇率について、実際に受け取った賃金(3.4%増)が、協約賃金(2.0%増)よりもかなり高かった点について、景気回復に伴う「操業短縮労働から通常労働への移行」、「残業時間の増加」、「一部の産業や企業における協約外の一時金支払い」等が主な要因だと見ている。

男女の賃金格差に関しては、ドイツは欧州の中でも格差が非常に顕著であることを指摘した上で、「2011年の労働協約ではこの格差に取り組むための特別な労使協定は締結されておらず、今後労使で何らかの取り組みが必要である」とした。

参考資料

  • Informationen zur Tarifpolitik WSI Januar 2012, frauenlohnspiegel.de(23. März 2012), Eiro online (21 March, 2012).

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