2011年の労働協約賃上げ率は平均2%
―WSI総括報告
経済社会科学研究所(WSI)の報告によると、2011年の労働協約の賃上げ率は年平均換算で2%、協約の適用を受けた労働者は計920万人(適用率49%)に上ることが明らかになった。このほか740万の雇用労働者に対して、2011年以前に合意した協約賃金の引き上げが実施された。
経済社会科学研究所(WSI)が発表した今回の報告書は、ドイツ労働総同盟(DGB)傘下の労働組合が昨年締結した労働協約を総括したもの。2011年の労使交渉では、ほとんどの労組が当初5~7%の賃上げを要求したが、最終的に労使合意に達した平均の引き上げ率は2%(2010年は1.8%)となった。産業別では、非営利/民間サービスが2.8%という高い賃上げ率を獲得した一方で、欧州債務危機などの影響を受けた金融・保険は1.1%だった。2007年から2011年の産業ごとの詳細な年平均の協約賃上げ率は、図表1の通り。また、2011年の主要な協約賃金の合意状況は図表2の通りである。
産業 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 |
---|---|---|---|---|---|
建設業 | 2.0 | 3.0 | 2.4 | 2.4 | 2.3 |
食品産業 | 2.2 | 2.5 | 2.4 | 2.4 | 2.3 |
運輸・通信業 | 2.2 | 3.5 | 2.9 | 2.3 | 1.6 |
原材料製造業 | 2.6 | 3.3 | 2.5 | 2.2 | 2.2 |
農業・造園、林業 | 1.7 | 3.7 | 2.8 | 1.6 | 1.6 |
投資財製造業 | 3.4 | 2.6 | 3.3 | 1.0 | 1.8 |
消費財製造業 | 2.5 | 2.8 | 2.4 | 1.8 | 2.0 |
流通業 | 2.0 | 1.9 | 1.4 | 2.5 | 2.0 |
電気・水・鉱業 | 2.0 | 3.0 | 4.1 | 2.9 | 2.1 |
非営利/民間サービス | 1.4 | 3.0 | 1.9 | 2.2 | 2.8 |
金融・保険 | 1.8 | 2.7 | 1.8 | 1.8 | 1.1 |
公共サービス・社会保障 | 0.6 | 4.4 | 3.7 | 0.9 | 1.8 |
合計 | 2.2 | 2.9 | 2.6 | 1.8 | 2.0 |
出所:WSI Collective Bargaining Archive
注:前年比
締結日 | 産業 | 合意内容 |
---|---|---|
1月31日 | 民間輸送業 (ノルトライン・ヴェストファーレン州) |
4カ月(2010年12月~2011年3月)の賃上げ凍結後 2011年4月1日に3.1%の賃上げ 2012年3月1日に1.7%の賃上げ 有効期間:2012年12月31日まで |
2月8日 | フォルクスワーゲン社 | 2011年2月~4月に対して年収1%相当 (少なくとも500ユーロ)の一時金 2011年5月1日に3.2%の賃上げ 有効期間:2012年5月31日まで |
2月23日 | ホテル・旅館業 (バーデン・ヴュルテンベルク州) |
3カ月(1月~3月)の賃上げ凍結後 2011年4月1日に2.9%の賃上げ 2012年7月1日に2.4%の賃上げ 有効期間:2013年6月30日まで |
3月10日 | 公共サービス(州レベル) | 2011年1月~3月に対して360ユーロの一時金 2011年4月1日に1.5%の賃上げ 2012年7月1日に1.9%+17ユーロの賃上げ 有効期間:2012年12月31日まで |
3月31日 | 化学産業 | 1か月の賃上げ凍結後、4.1%の賃上げ (地域により開始月は異なる) 有効期間:地域により異なる (2012年5月31日、6月30日、7月31日) |
4月14日 | 建設産業 | 1か月、もしくは2カ月の賃上げ凍結後 2011年5月1日に3%の賃上げ(旧西ドイツ地域) 2011年6月1日に3.4%の賃上げ(旧東ドイツ地域) 2012年6月1日に2.3%の賃上げ(旧西ドイツ地域) 2012年8月1日に2.9%の賃上げ(旧東ドイツ地域) 有効期間:2013年3月31日まで |
6月10日 | 小売業 (バーデン・ヴュルテンベルク州) |
2カ月(4月、5月)の賃上げ凍結後 2011年6月1日に3%の賃上げ 2012年4月に一時金支給 2012年6月1日に2%の賃上げ 有効期間:2013年3月31日まで |
6月29日 | 印刷業 | 4月~2012年7月の間に280ユーロの一時金 2012年8月1日に2%の賃上げ 2013年7月に150ユーロの一時金 有効期間:2013年12月31日まで |
7月21日 | 保険業 | 4月~8月の間に350ユーロ (職能レベルによって450ユーロ)の一時金 2011年9月1日に3%の賃上げ 2012年10月1日に2.2%の賃上げ 有効期間:2013年3月31日まで |
9月30日 | 鉄鋼業 (ノルトライン・ヴェストファーレン州、ニーダー ザクセン州、ブレーメン州) |
1カ月(11月)の賃上げ凍結後 2011年12月1日に3.8%の賃上げ 有効期間:2013年2月28日まで |
12月7日 | 紙処理業 | 2011年12月に70ユーロの一時金 2012年1月1日に3%の賃上げ 2013年1月1日に1.6%の賃上げ 有効期間:2013年5月31日まで |
出所:WSI Collective Bargaining Archive
WSIは報告書の中で、上記の協約賃金に関する情報のほか、実質賃金の上昇率や男女間の賃金格差などにも触れている。
それによると、2011年に労働者が実際に受け取った毎月賃金は、前年より3.4%増加しており、同じ年のインフレ率2.3%を差し引いて、実質の賃金上昇率は1.1%増であった。WSIは、賃金上昇率について、実際に受け取った賃金(3.4%増)が、協約賃金(2.0%増)よりもかなり高かった点について、景気回復に伴う「操業短縮労働から通常労働への移行」、「残業時間の増加」、「一部の産業や企業における協約外の一時金支払い」等が主な要因だと見ている。
男女の賃金格差に関しては、ドイツは欧州の中でも格差が非常に顕著であることを指摘した上で、「2011年の労働協約ではこの格差に取り組むための特別な労使協定は締結されておらず、今後労使で何らかの取り組みが必要である」とした。
参考資料
- Informationen zur Tarifpolitik WSI Januar 2012, frauenlohnspiegel.de(23. März 2012), Eiro online (21 March, 2012).
関連情報
- JILPT海外労働情報(2011年3月)IGメタル、フォルクスワーゲン社と3.2%の賃上げで合意
- JILPT海外労働情報(2011年9月)賃上げ率、前年を上回る―今年前半の労使交渉
2012年4月 ドイツの記事一覧
- 「長期労働時間口座」の活用、労働社会相が提案―年金支給開始年齢の引き上げの対策
- 2011年の労働協約賃上げ率は平均2%―WSI総括報告
- 公務労働者、2年協定で6.3%に段階的引き上げ―ベルディ、賃上げ交渉に合意
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