賃上げ率、前年を上回る
―今年前半の労使交渉
今年前半の労使交渉は、景気回復を追い風に前年を上回る賃上げが続いた。経済社会科学研究所(WSI)のまとめたところによると、年平均換算の2011年の平均賃上げ率は約2.0%で、前年の1.7%を0.3ポイント上回っている。またドイツ労働総同盟(DGB)傘下の組合が締結した上半期の協約適用者数は約450万人(うち60万人が東ドイツ在住)に上る。
主な労働協約事例
主な労働協約事例(表2)をいくつか挙げると、3月10日に州の公共サービス部門の使用者団体(TdL)と統一サービス産業労組(ver.di)が労働協約を締結(ヘッセ州とベルリン州を除く)。同協約は58万5000人の州の公共サービス部門の労働者に適用される。交渉の結果、360ユーロの一時金のほか、2011年4月から1.5%、2012年1月から1.9%+17ユーロの二段階の賃上げを獲得した。協約の有効期限は2012年12月31日までの24カ月である。
その後3月31日には、ドイツ化学産業使用者連盟(BAVC)とドイツ鉱業・化学・エネルギー労組(IG BCE)が労働協約を締結。交渉の結果、化学産業全体で4.1%増という高い賃上げ率を獲得し、1900事業所・約55万人の労働者に適用された。しかし、各企業によって経営状況に差があるため、新協約締結直後からの賃上げをする企業がある一方で、最大2カ月の賃上げ延期も認めている。
4月14日には、二つの建設関連の使用者団体(ZDB、およびHDB)と建築・農業・環境産業労働組合組合(IG BAU)が、協約を締結。新協約は約56万2000人の労働者が適用を受け、旧西ドイツ地域(ベルリン含む)では5月1日から3%、さらに2012年6月から2.3%の賃上げを実施する。旧東ドイツ地域は2011年6月から3.4%、さらに2012年8月から2.9%の賃上げを実施する。協約期間は24カ月で、期限は2013年3月31日までである。
なお、建設業の協約最低賃金(時給)は、2012年1月1日から2013年1月1日にかけて段階的に引き上げられる予定(表1)。
2011年7月* | 2012年1月 | 2013年1月 | ||
旧西ドイツ地域 (ベルリン含む) |
スケール 1 | 11.00 | 11.05 | 11.05 |
スケール 2 (熟練労働) |
13.00 (ベルリン: 12.85) |
13.40 (ベルリン: 13.25) |
13.70 (ベルリン: 13.55) |
|
旧東ドイツ地域** | スケール 1 | 9.75 | 10.00 | 10.25 |
- 注:(* )2009年合意、(**) 東ドイツ地域ではスケール2(熟練労働)に関する最低賃金の設定なし
- 出所: WSI
バーデン・ヴュルテンベルク州の小売業の労使交渉は、数週間のストライキを経て6月9日に協約を締結。協約締結当事者は、同州のドイツ商業使用者連盟(HDE)と統一サービス産業労組(Ver.di)で、2011年6月1日から3%の賃上げ、さらに2012年6月1日から2%の賃上げを実施する。その他、6週間(36日)の有給休暇にも労使は合意した。
締結日 | 分野 | 協約内容 |
---|---|---|
2011年1月25日 | ドイチェ・バーン (ドイツ鉄道) |
2010年8月~12月に対して500ユーロの一時金 2カ月(1月~2月)の賃上げ凍結後 2011年3月1日から1.8%の賃上げ 2012年1月1日から2%の賃上げ 有効期間:2012年12月31日まで |
2011年1月31日 | 民間輸送 (ノルトライン・ヴェストファーレン州) |
4カ月(12月~3月)の賃上げ凍結後 2011年4月1日に3.1%の賃上げ 2012年3月1日に1.7%の賃上げ 有効期間:2013年2月28日まで |
2011年2月8日 | フォルクスワーゲン社 | 2011年2月~4月に対して年収1%相当(少なくとも500ユーロ)の一時金 2011年5月1日に3.2%の賃上げ 有効期間:2012年5月31日まで |
2011年2月21日 | 石炭鉱業 | 2011年1月~3月に対して600ユーロの一時金 2011年4月に3.3%の賃上げ 有効期間:2012年12月31日まで |
2011年3月10日 | 公共サービス(州レベル) | 2011年1月~3月に対して360ユーロの一時金 2011年4月1日に1.5%の賃上げ 2012年1月1日に1.9%+17ユーロの賃上げ 有効期間:2012年12月31日まで |
2011年3月31日 | 化学産業 | 1か月の賃上げ凍結後、4.1%の賃上げ(地域により開始月は異なる) 有効期間:地域により異なる(2012年5月31日、6月30日、7月31日) |
2011年4月14日 | 建設産業 | 1か月、もしくは2カ月の賃上げ凍結後 2011年5月1日に3%の賃上げ(旧西ドイツ地域) 2011年6月1日に3.4%の賃上げ(旧東ドイツ地域) 2012年6月1日に2.3%の賃上げ(旧西ドイツ地域) 2012年8月1日に2.9%の賃上げ(旧東ドイツ地域) 有効期間:2013年3月31日まで |
2011年5月20日 | 卸売業 (バーデン・ヴュルテンベルク州) |
1か月(4月)の賃上げ凍結後 2011年5月1日に3%の賃上げ 2012年5月1日に 2.4%の賃上げ 有効期限:2013年3月31日まで |
2011年6月10日 | 小売業 (バーデン・ヴュルテンベルク州) |
2か月の賃上げ凍結後(4月、5月) 2011年6月1日に3%の賃上げ 2012年6月1日に2%の賃上げ 有効期限:2013年3月31日まで |
- 出所: WSI Collective Agreement Archive(2011年7月)
上半期には、このほか自動車メーカーのフォルクスワーゲン(注1)や石炭鉱業、卸売業などでも新たな労働協約が締結された。
注
- フォルクスワーゲンは世界第3位の自動車会社である。ナチス政権時代に国策会社として設立された経緯もあり、1960年までは国営企業であった。このため現在も大株主の中にニーダーザクセン州が含まれるなど、一般企業とは異なる側面を持つ。その最たるものが金属産業労組(IGメタル)とフォルクスワーゲン社の「企業別労働協約」である。通常、産別労組のIGメタルは、同じく産別使用者団体と協約を締結する。しかし、過去の経緯から、長年にわたり両者は協約を締結しており、企業別協約でありながら産別協約とほぼ同等の扱いをされている。
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=109.91円(※みずほ銀行ホームページ2011年9月2日現在)
参考資料
- Tarifpolitischer Halbjahresbericht(2011), eiro online(18 August, 2011)
2011年9月 ドイツの記事一覧
- 2010年労働争議、前年より大幅減―過去5年で最低水準
- 賃上げ率、前年を上回る―今年前半の労使交渉
関連情報
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