母親から父親へ最長6カ月の休暇の移転が可能に
―父親休暇制度の改正

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  • 国別労働トピック:2011年4月

 

新たに子供を持つ父親が育児のために申請することができる休暇の期間が、4月から大幅に延長された。従来、母親のみに認められていた1年間の休暇の半分を、父親が替わりに取得することが出来るようにするもので、政府やシンクタンクは、制度改正による大きな影響はないとみているが、企業などの間では人員調整などのコスト増が懸念されている。

従来の制度は、母親に対して、出産または養子受け入れから最長52週の出産休暇(maternity leave)と39週の法定給付(statutory maternity pay)の権利を認める一方、父親に対しては最長2週間の休暇(paternity leave)とこの間の法定給付のみを認めていた(注1)。父親休暇に関する今回の改正は、現行の2週間に加えて、母親が復職等で法定の権利より2週間以上短く休暇を終了する場合、出産等から21週目以降であれば、残余期間のうち最長26週までの休暇を父親が申請することができるとするものだ。2011年4月以降に出産・養子受け入れによって子供を得るカップルに適用され、出産等を予定している週の15週前(雇用主に対する申請期限)までに勤続期間が26週を超えていること、給与水準が社会保険加入対象の下限額(lower earnings limit)以上であることが要件となる。

休暇期間中の法定給付については、母親向けと同様の条件が適用される。最初の6週間は平均給与額の9割、以降39週までは定額の法定給付(2011年4月時点で週128.73ポンド)または平均給与額の9割のうちいずれか低い方の額を支給するもので、支払いは直接的には雇用主が行ない、92%(小規模企業の場合は全額)が政府により還付される。さらに、自営業などで受給資格がない場合は、過去13週にわたる国民保険料への加入を条件に、法定給付と同額の出産手当(maternity allowance)または平均給与額の9割のうちいずれか低い額が支給される。

出産休暇と父親休暇はいずれも1999年に制度化されて以降、資格要件となる勤続期間の短縮(104週から26週へ)や、出産休暇手当の支給期間延長(18週から39週へ)など、制度の拡充が継続的に行なわれてきた。今回の父親休暇の延長も、関連の制度改正を可能とする法律が2006年に成立して以降、具体的な実施方法に関して前労働党政権が調整を進めていた(注2)が、代表的な労使団体である労働組合会議(TUC)やイギリス産業連盟(CBI)が賛意を示す傍ら、経営側の一部からは、複雑な手続きや人員調整などの負担増を理由に消極論が根強かった。例えばイギリス商業会議所(BCC)の調査では、回答企業1300社の52%が父親休暇の導入は損失につながるとみており、小企業連盟(FSB)の会員企業に対する調査も同様の結果を示している(注3)。民間のチャリティ団体Working Familiesがこの3月に実施した調査では、回答企業250社の4割が制度改正に未対応であると回答、ただしその多くは、今後2カ月のうちに必要な人事制度の改定を行なうとしている。一方、既に制度改正に対応済みと回答した企業の約2割は、最初の6週間について法定基準を超える給与の全額支給を予定しているという。

シンクタンクの人材開発協会(CIPD)は、現在の父親休暇手当の給付額が低いことや、制度の普及には社会的な意識の変化が必要であることなどから、現状では申請者が急激に増えることはないとみている(注4)。平等人権委員会(EHRC)が2009年に実施した調査によれば、休暇取得を希望する父親のうち、36%は休暇を取得した場合に仕事へのコミットメントを疑われることを、また44%は昇進に支障が出ることを、それぞれ懸念している。

政府は、両親が同時に休暇を取得できるようにするなど、さらなる制度の柔軟化に意欲を示している。しかし、同じく4月に開始された法定定年年齢の段階的な廃止(10月に完了予定)や派遣労働規則の施行(10月)、あるいは来年度の年金制度の改正など、既に予定されている規制の導入に対する企業の負担感は大きく、景気や雇用の回復には規制緩和が必要であるとの反発が予想される(注5)。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=137.66 円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2011年4月12日現在)

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