若年層の雇用への影響に配慮
―最低賃金額の改定
政府は3月7日、今年の最低賃金の改定額について、諮問機関である低賃金委員会の案を了承した。21歳以上の成人向けの最賃額は、10月から6.08ポンド(15ペンス・2.5%増)となる。景気の先行きが不透明であること、また特に若年層の雇用状況が継続的に悪化していることなどを勘案、控え目な引き上げ幅に留まった。
公労使の委員で構成される低賃金委員会は、毎年、政府の諮問を受けて、過去の改定による経済・雇用への影響や、平均賃金・物価の動向を分析し、政労使等の意見も考慮のうえ改定案を決定している。今年の報告書は、不況以降特に悪化が続いている若年層の雇用状況に焦点を当てて分析を行なっている。若年層の雇用への不況の影響は、とりわけ18-20歳層で顕著に表れ、景気回復期にも復調していない。委員会は、若者の賃金水準が生産性に比して高い傾向にあること、さらに不況期には若年層の平均的な賃金水準の伸びが小さかったにもかかわらず、最低賃金額の増額がこれを上回ったことが、雇用不振の一因となった可能性を示唆している(注1)。一方、昨年10月から新たに最賃額を設定したアプレンティス(見習い訓練生)については、業種によって不況の影響がみられるものの、政府の政策的な努力で件数は順調に増加しており、最賃制度の適用はさしたる影響を与えていないと推定している。
一方、今後の予測として、今年の経済成長率は1.7~2%、賃金上昇率は2.6%程度(インフレ率は第4四半期で2.9%)と委員会はみている。経済成長は続くとみられるものの、民間消費の動向に依るところが大きく、また下振れリスクも存在するという。また労働市場については、歳出削減の影響で生じる公共部門の雇用減を上回って民間部門の雇用が増加するとの政府などの予測を引いている。委員会はこれらの分析結果を総合して、今年10月の改定では、21歳以上向けの基本額を6.08ポンド(15ペンス・2.5%増)、18-20歳向け額を4.98ポンド(6ペンス・1.2%増)、16-17歳向け額を3.68ポンド(4ペンス・1.1%増)とし、若者向けの最賃額の改定幅を低く抑えた。また昨年10月より新たに導入されたアプレンティス向けの額を2.60ポンド(10ペンス・4%増)に引き上げた。委員会の試算によれば、89万3000人(3.5%)に影響する見込みだ。
なお、問題も指摘されている。ひとつは、地方自治体やNHS(全国保健サービス)が民間事業者から介護サービスを調達する際に、最低賃金をベースに費用を算定していない点で、委員会はこれを是正するよう政府に提言している。また、本来最低賃金が適用されるべき仕事にインターンを受け入れて、無給で就労させる悪質な雇用主がみられることについても、委員会は懸念を示しており、インターンやその他の就業体験プログラムに対する最賃制度の適用に関する周知徹底と併せて、監督官庁である歳入関税庁による取締りの強化を求めている。
注
- 年齢層毎の賃金の中央値に対する最賃額の比率をみると、21歳以上向け額が約51%であるのに対して、18-20歳向け額は79%、16-17歳向け額は71%といずれも高い。
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=137.66 円(※みずほ銀行
ホームページ2011年4月12日現在)
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