失業者や就労困難者向けの給付制度、統合も

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  • 国別労働トピック:2010年8月

ダンカン・スミス雇用年金相は、低所得層向けの給付制度の簡素化に向けて、制度統合や基準の統一化などを検討していることを明らかにした。失業者や就労困難者が就労に移行する際の給付内容の見直しなどにより、就労が給付の受給よりも利益になることを明確に示して、就労促進をはかりたい意向だ。

給付制度改革に関する検討内容は、7月30日に開始されたパブリック・コンサルテーション(一般向け意見聴取)の中で示された(注1)。雇用年金相は、現在の給付制度の問題点として、就労への移行のインセンティブが弱いことと、制度が複雑であることを指摘(注2)。非就業者と就業者のそれぞれに設けられた給付制度間の切り替えが円滑に行われておらず、かつ収入や労働時間に応じた給付の減額率が高いことが、受給者の就労への意欲を削いでいる、としている。また、基本的な所得保障給付と併せて低所得者向けに設けられた住居費や地方税の免除などの複数の制度が、それぞれ異なる基準で複雑に連動しており、就労による収入や労働時間の増加などの状況の変化に応じた手続きをさらに煩瑣にしているという。高い給付依存率や貧困率を改善し、給付にかかる財政負担の増大を防止するには、受給者が就労に移行した場合の収入減のリスクや不確実性を排除するための制度改革が必要である、というのが雇用年金相の主張だ。

複数の改革案のうち最も有力なのは、非就業者の低所得層向けの手当制度(所得調査制の求職者手当、雇用・生活補助手当、所得補助)と、低所得就業者向けの税額控除制度を統合した「ユニバーサル・クレジット」の導入だ。基礎手当に加えて、家族構成(子供や障害者の有無)や住居などの条件に応じた追加的な手当を加算、所得水準と資産額に応じて給付を緩やかに減額する。非就業者は、同じ給付制度からの給付を受けながら、非就業状態から就業に移行することになる。

また代替案として、現行の諸々の給付制度は基本的に残しつつ、減額率を統一する(single unified taper)方法も提示されている。基本的な所得保障給付のほか、条件に応じて支給される住居費や税額控除などの総額に対して、所得額に応じた減額率を適用するもので、給付に関する手続きの簡略化とともに、就労による収入と給付を合わせた所得額を受給者に明示、併せて現在より低い減額率を設定することで、就労へのインセンティブの向上をはかる。

コンサルテーションではこのほか、外部のシンクタンクなどが提唱する給付制度の統合案として、拠出制の廃止や、所得税制との連動、負の所得税などの手法が紹介されている。また給付制度改革と併せて、給付に係る条件や給付業務の効率化などの実施を検討するとしている。

大きな課題となっているのは、予算の調達だ。雇用年金省は、改革案実施にかかる予算額を明示していないが、ユニバーサル・クレジットについては、導入に約30億ポンドを要すると試算されている(注3)。しかし、イギリスは現在、財政赤字対策として歳出削減を進めており、財務省は給付制度にもむしろ大幅な削減を求めているところだ(注4)。現地メディアによれば、財務省は雇用年金省に対して、2014年度までに100億ポンドの歳出削減を行うことを条件に、約30億ポンドを新制度導入の予算として確保することを約束したとみられている。雇用年金省はこれをうけて、追加的な給付削減策(注5)を検討しているという。ただし、最終的な方針の確定は10月の歳出見直し(Spending Review)(注6)まで持ち越される見込みだ。雇用年金省は、来年の早い段階に給付制度の改正に必要な立法措置を行うとしている。

参考資料

参考レート

  • 1ユーロ(EUR)=113.38円(※みずほ銀行ホームページ2010年8月2日現在)

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