定年制廃止へ
―2011年4月から
政府は7月、法定定年年齢(default retirement age)を2011年4月以降原則として廃止する方針を示した。現行制度は、従業員が65歳に達する6カ月前までに通知することを前提に、雇用主が退職を強制することを認めているが、政府案は、4月からこの通知を禁止した上で、6カ月の移行期間を経た10月以降は、定年年齢による解雇を原則として禁止するとしている。
法定定年年齢の廃止は、連立政権が政策協定に盛り込んだ項目のひとつだ。既に6月には、2011年4月から「段階的に廃止」(phase out)するとのスケジュールが示されていたが、7月29日に開始したコンサルテーション(一般向けの意見聴取)で、完全廃止の時期などより具体的な内容が明らかになった。コンサルテーション文書(注1)は、廃止の理由として、高齢化による生産年齢人口の相対的な減少、引退後の生活に十分な収入を確保していない人々が多いこと、さらに高齢者の健康の維持や社会的な有益性などを挙げている(注2)。
法定定年年齢の廃止によって、労働者には引退時期に関する選択の自由を、また雇用主には既存の継続就業にかかわる行政的手続きからの自由を提供する、というのが政府の基本的な主張だ。廃止以降は、年齢を理由とする解雇は年齢差別に相当することになり(注3)、通常の解雇手続き(能力、品行、違法性または他の実質的な理由による)を経なければ高齢従業員を解雇することはできない。ただし、例えば業務内容が高齢者にとって困難であるなど、客観的な妥当性を示すことができれば、雇用主は定年制を維持することができる。また、定年年齢の廃止と併せて、雇用主に対する6カ月前までの通知義務や、定年年齢後も継続雇用を希望する権利など、定年制に伴う規制も廃止される見込みだ(注4)。
なお、政府は定年年齢の廃止と並んで、年金支給開始年齢の引き上げを前政権の計画より前倒しで実施する方針を固めている(注5)。定年年齢が廃止されれば、年金支給開始年齢に達した労働者が引き続き働き続けて一定の収入を維持することで、高齢者を対象とする補助的給付の削減や受給延期などにより、財政負担が緩和されることを見込んでいる。
注
- "Phasing out the Default Retirement Age - Consultation document (PDF:439.7KB)
, Department for Business, Innovation and Skills, Department for Work and Pensions
- 現在、65歳未満の成人と65歳以上の人口比は4:1だが、10年後には3:1、30年後には2:1になると政府は予測している。コンサルテーション文書によれば、高齢者層の就労によるGDP成長率への寄与は1%程度とみられ(イギリス経済社会研究所(NIESR)の推計による)、高齢者自身の収入も、年金を受給する場合と比べて3~10%増加すると推計されている。
また、併せて公表された調査報告書「"Second survey of employers' policies, practices and preferences relating to age, 2010 (PDF:1.5MB)」(Department for Business, Innovation and Skills)によれば、現在、定年制を利用している国内の事業所は全体の32%、雇用者全体の45%に相当する。利用事業所は規模が大きい傾向にあり、過半数(58%)が退職を義務化できることを重視している。
- 高齢者問題を扱う非営利団体が、定年制を容認する現行の年齢差別禁止法制はEU法に反するとして政府を提訴していたが、高等法院は2009年9月、定年制は合法であるとしてこの訴えを退けている(2009年11月の記事参照)。
- ただし、現在従業員に対する通知の際に行われている面談については、例えば段階的な退職などについて雇用主と従業員が合意する上で有益ならば、定年年齢廃止後もガイダンスなどを通じて実施を支援すると政府は述べている。
- 前政権は、2010年から2020年までの間に女性の年金支給開始年齢を男性と同じ65歳に引き上げた上で、2024年から46年までの期間で順次68歳に引き上げるとしていた。新政権は、男性については早ければ2016年、女性は2020年に、それぞれ66歳に引き上げる見込み。
参考資料
2010年8月 イギリスの記事一覧
- 定年制廃止へ―2011年4月から
- 失業者や就労困難者向けの給付制度、統合も
関連情報
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- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 高齢者雇用
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