複数使用者年金制度の救済

カテゴリー:高齢者雇用勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2010年6月

複数使用者年金制度(Multiemployer Pension Plan)で支給される年金額が不十分であることから、民主党上院議員ほか超党派の議員による救済法案が現在検討されている。複数使用者年金制度は企業年金の1つに位置づけられる。

米国の年金制度は公的年金と企業年金の2本立てとなっている。公的年金は自営業者もしくは雇用労働者を強制加入させている一方で未就業者は加入することができない。財源は事業主と労働者が6.2%ずつ、自営業者の場合は12.4%を所得に乗じた社会保障税を徴収することによって賄われる。年金受給に必要な税金の払込年数は10年間。平均支給月額は1104.8ドル(2008年)であり、それだけでは生活することが難しいため、企業年金が中核的な役割を担ってきた。

この企業年金の積立金不足が近年問題となってきている。

年金給付保証公社

企業年金は従業員退職者所得保証法(ERISA)によって設立された年金給付保証公社(PBGC)が掛金を預かって運用している。PBGCは加盟している基金が解散するなどの事態があった場合でも退職者の年金債権を保証する。

近年は積立金不足に陥る基金が増えたため、2006年には年金保護法(Pension Protection Act)が制定された。この法律に基づき、積立不足が2割から3割5分の基金をイエローゾーン、3割5分を超える基金をレッドゾーンに分類し、健全化に向けてPBGCが指導することとなった。

PBGCが扱う企業年金は単一使用者の基金と複数使用者の基金の2種類になっている。基金数でみれば単一使用者の基金が圧倒的で、複数使用者の基金は全体の3%に過ぎない。しかし、カバーされる労働者数は年金加盟労働者全体の5分の1、1000万人ほどにものぼる。

複数使用者年金制度とは?

複数使用者年金制度は、トラック運転手、建設、食料品店などの労働者が同一産業内で頻繁に転職するという状況に対応するものとして設立された。この制度の下では同じ基金に属する企業間で転職した場合には年金が継続的に維持される。異なる基金の壁を超えて年金を移動させることができる協定を持っているところも6割ほどある。

同一産業内の複数の使用者とその使用者を組織している労働組合によって基金のマネジメントを行うことが大きな特徴となっている。具体的には、労使同数の代表による団体交渉で合意しなければならないことが全国労働関係法で規定されている。これにより、年金支給額や掛金などは、比較的自由に設定することができたのである。

このように、通常の企業年金が受ける規制の適用を除外されているため、労働組合にとっては、組合員や使用者への大きな影響力を有するものとなり得る。

通常の企業年金では、勤続年数や最低賃金といった要件があるが、複数使用者年金制度では一つの企業での勤続年数や、転勤後の所得変動に対応するために最低月額賃金などの要件がない。

同様のポータビリティを有する401Kと異なる点は、401Kが確定拠出型であるのに対し、複数使用者年金制度は、インフレや寿命が延びるなどの状況に対応した確定給付型ということである。

複数使用者年金制度の課題

複数使用者年金制度が適用される基金のマネジメントが団体交渉によって規定されるため、現実離れした高条件を組合役員が提示する可能性があると指摘されることがある。

PBGCは通常の単一使用者の年金基金が、倒産等の理由で解散に追い込まれた場合に年金債権を保証する。その1方で、複数の使用者で構成される基金からいくつかの企業が倒産などで離脱した場合は、他の企業が残っていれば基金自体は存続するため、問題が内在化してしまう。これらの理由により、通常の基金よりも積立不足に陥りやすいという特徴があった。

このため、2006年の年金保護法(Pension Protection Act)では、これまで適用除外としてきた複数使用者年金制度における掛金や支給額の設定について、たとえば掛率を上昇させるなどの指導をPBGCが行なうことができるようにしたのである。

それでもなお、問題は拡大している。

積立不足が危険水域に達した複数使用者年金制度の基金数は2008年の230から、2009年の640に上昇した。複数使用者年金制度による基金の数は合計でおよそ千600あるため、3分の1強が危険水域に達したことになる。積立金不足の合計は2009年で1650億ドルに達した。

複数使用者年金制度の救済法案は、これらの積立不足を抜本的に改善するものではなく、80億ドルの国費を投入して、年額1万2800ドルの現在の支給額を2万1000ドルに引き上げることとしている。

救済についての批判

積立不足以外の問題もPBGCは抱えている。PBGC全体の赤字額は昨年で210億ドルにのぼった。現在の運用益の状況やインフレ率を勘案した支給額を維持するとすれば、2019年には340億ドルの赤字となることが予想されている。

6月1日付のウォールストリートジャーナル紙は、「労働組合年金の救済」と題する記事で、国費を投入した複数使用者年金制度の救済について、PBGCが抱える負債の解決とは何ら関係ないことを指摘して批判している。

また、同紙は法案の背景に労働組合設立要件の緩和を企図した従業員自由選択法(EFCA)を不成立に追い込むための和解条件としての意味があるだろうと推察している。

しかしながら、米国の年金制度が公的年金だけでは不十分であり、企業年金が中核的な役割を担ってきたにもかかわらず、その企業年金制度が危機的な状況を迎えており、労働者の退職後の生活の安定をどうやって維持するかという問題は依然として残されているのである。

参考資料

  1. アメリカ年金制度の概要(PDF:191.8 KB)リンク先を新しいウィンドウでひらく」厚生労働省ウエブサイト 6月3日閲覧
  2. Annual Statistical Supplement, 2009,社会保障庁ウエブサイト6月3日閲覧
  3. CBO TESTIMONY, Statement of Douglas Holtz-Eakin Director, June 28, 2005, Congressional Budget Office
  4. Establishment of current multiemployer program, PBGCウエブサイト6月2日閲覧
  5. Multi Employer Pension Plans, U.S. Chamber of Commerceウエブサイト6月2日閲覧
  6. The Union Pension Bailout-A schem for taxpayers to cover mismanaged multi-employer plans, The Wall Street Journal, June 1, 2010
  7. Weinstein Harriet, and Wiatrowski, William J, Multiemployer Pension Plans, Compensaition and Working Condisons Spring 1999, BLS

参考レート

  • 1米ドル(USD)=92.14円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2010年6月4日現在)

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