高度専門技術者の受け入れ、大幅減の見込み
―移民労働者の数量制限で政府方針
本格的な導入を2011年度に予定しているEU域外からの移民労働者の数量制限について、政府は諮問機関である移民提言委員会(Migration Advisory Committee)の答申を受けて、具体的な数量や手法に関する方針を示した。給与水準や保有資格などの要件引き上げにより、11年度の高度専門技術者および専門技術者の受け入れを09年レベルから13%前後削減する見込みだ。
連立政権は、年間の移民全体の純流入数(国籍を問わず、就労、就学および家族呼び寄せを含む)を2015年までに数万人に抑制するとの目標を掲げている。その一環として、既に7月から、高度専門技術者および専門技術者の暫定的な数量制限を導入、また平行して2011年度からの本格導入に係る具体的な数量などを委員会に諮問していた。これに対して、企業等が人材調達の妨げになるなどの理由から反発していたほか、その有効性自体を疑問視する声も強かった(注1)(海外労働情報2010年9月参照)。
政府はこうした懸念を受けて、方針の見直しを始めた。一つは、専門技術者に関する制限緩和で、その多く(09年で2万2000人、約6割)を占める「国境を越えた企業内異動」を数量制限の対象外とすることや、既に国内で就業している専門技術者のビザの延長は原則全て認めるというものだ。一方、高度専門技術者については、投資家・起業家および例外的な能力を有する者に限定すべきとの考え方を示すなど、専門技術者とは対照的に、引き締め強化の方針を打ち出した(注2)。このほか、流入数の多くを占める「就学」による入国を高等教育相当に限定するほか、家族の呼び寄せに対しても制限を強化する意向を示している。
こうした中、Migration Advisory Committeeは11月18日、来年度からの制度導入に関する答申を示した。高度専門技術者及び専門技術者の11年度の受け入れ数の上限を3万7400~4万3700人とすべきであるとしており、これは09年の5万人から13~25%減に相当する。内訳は、高度専門技術者が8000~1万1100人、専門技術者が2万9400~3万2600人で、双方とも3150~6300人削減するというもの(注3)。前提として、移民労働者の制限による削減数は政府目標に必要な削減数の2割に止め、残る8割は就学や家族の呼び寄せによる入国者の制限によるべきであるとしている。また実施にあたっては、企業への影響を考慮して高度専門技術者よりも専門技術者を優先すること、より選別的な受け入れに向けて給与水準や資格要件を引き上げること、さらに既に国内にいる移民に関して、短期滞在から定住への滞在資格の切り替えに係る経済的要件の厳格化の必要性について検討することなどを政府に求めている。また、移民労働者の選択的な受け入れと平行して、国内の労働者の能力開発を実施し、企業が国内で必要な人材を調達出来るようにする必要があるとしている。
委員会の答申をうけて、政府が23日に示した新たな方針は、大枠では削減案の下限である13%減(高度専門技術者・専門技術者の合計で4万3700人)を採用したとみられるものの、専門技術者に大きく配慮した内容となった。高度専門技術者については、起業家・投資家及び「例外的な才能を有する者」に受け入れを限定、うち「例外的な才能を有する者」の受け入れは1000人を上限とするとしており、09年からは約1万3000人減となる。一方の専門技術者については、企業内異動以外の受け入れ数の上限を2万700人とし、大卒者レベルの職種に限定するとともに、企業内異動による12カ月以上の受け入れに4万ポンドの給与額の下限を設ける。企業内異動が09年レベルで推移する場合、専門技術者は単純計算で4万2700人となり、09年の受け入れ数を上回ることになる。
なお、就労以外の経路(就学・家族呼び寄せ)による移民の数量制限については、今後のコンサルテーションの中でより具体的な方針が示されるとみられている。
図表1:階層等別ビザ発給数
出典:Control of Immigration: Quarterly Statistical Summary, UK, Second Quarter 2010, Supplementary Tables, Office for National Statistics
2007 | 2008 | 2009 | 2010 | ||||||
計 | 計 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 計 | Q1 | Q2 | |
高度専門技術者(第1階層) | 10,055 | 15,515 | 7,890 | 4,930 | 2,960 | 3,000 | 18,780 | 3,250 | 4,195 |
高度専門技術者プログラム (旧制度) |
10,055 | 6,900 | 95 | 135 | 30 | 65 | 335 | 35 | 20 |
一般 | : | 7,785 | 6,675 | 3,725 | 1,785 | 1,745 | 13,930 | 1,840 | 2,855 |
投資家 | : | 45 | 30 | 30 | 55 | 35 | 155 | 50 | 40 |
起業家 | : | 25 | 20 | 25 | 40 | 35 | 120 | 40 | 55 |
高等教育修了後 | : | 760 | 1,065 | 1,015 | 1,050 | 1,115 | 4,245 | 1,290 | 1,225 |
専門技術者(第2階層) | 68,355 | 59,115 | 9,440 | 8,730 | 9,615 | 8,705 | 36,490 | 10,155 | 10,325 |
就労許可保有者(旧制度) | 65,885 | 56,280 | 4,010 | 720 | 305 | 130 | 5,160 | 95 | 75 |
一般 | : | 15 | 905 | 2,195 | 2,940 | 2,515 | 8,555 | 2,615 | 2,940 |
企業内異動 | : | 45 | 4,355 | 5,665 | 6,090 | 5,920 | 22,030 | 7,305 | 7,165 |
その他 (宗教指導者、運動選手など) |
2,470 | 2,770 | 165 | 150 | 285 | 140 | 740 | 135 | 145 |
出典:同上
注
- 域外からの移民労働者の数量制限のみでは政府目標の達成は困難との指摘は多く、直近では、11月はじめの庶民院の内務委員会による報告書が同様の分析結果を示している。なお連立政権を担う自由民主党も、5月の総選挙前には、「純流入数を数万人に引き下げる」との保守党の公約を実現可能性に乏しいとして一蹴していた。大きな理由は、近年の流入数の拡大がEU域内からの移民によるところが大きい点にある(EU加盟国からの流入は原則として制限できない)。
- 一昨年から導入されたポイント制の下では、専門技術者として入国する労働者には、外国人雇用のライセンスを有する雇用主による雇用の確保が求められるのに対して、高度専門技術者として入国する場合には、これが免除されている。国境庁が10月に公表した、国内の「高度専門技術者」ビザ保有者1184人に対する調査結果によれば、専門的な仕事(年間の給与額が2万5000ポンド超)に従事している者は25%にとどまり、29%は単純労働(同2万5000ポンド未満)に従事、残りは46%不明(給与額、雇用の有無が不明、または失業者)であった。
- 移民全体の純流入数に関する政府目標を5万人と仮定。委員会の提言内容は、企業内異動についても数量制限の対象とすべきであるとする点で政府方針とは異なる。なお、中小企業支援団体のForum of Private Businessは、企業内異動の制限からの除外は多国籍企業にのみ利益をもたらす不公正な手法であるとして反対している。
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=131.76円(※みずほ銀行
ホームページ2010年11月24日現在)
2010年11月 イギリスの記事一覧
- 「戦後最大」規模の歳出削減策、公表―低所得層に高負担との批判も
- より多くの一人親に求職を義務化
- 高度専門技術者の受け入れ、大幅減の見込み―移民労働者の数量制限で政府方針
関連情報
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