雇用状況の悪化続く

カテゴリー:雇用・失業問題若年者雇用統計

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  • 国別労働トピック:2009年8月

昨年末から今年初めにかけての急激な景気縮小と雇用状況の悪化を経て、イギリス国内には、「最悪の時期は脱した」との楽観的な見方が広がってきている。統計局が7月に発表した2009年第2四半期のGDP成長率は、マイナス0.8%と依然縮小傾向にあるものの、前期のマイナス2.4%からは大きく改善している。これは、製造業や建設業、ビジネス・サービスなど多くの産業・業種で、前期の大幅なマイナス成長から復調していることを反映したものだ。

一方、前後して発表された3―5月期の雇用関連統計は、多くの労働者が未だ回復を実感できる状況にはないことを示唆している。失業者数は238万1000人で、前期から28万1000人と記録的に増加、失業率は前期から0.9ポイント増の7.6%となった。特に、今回の不況の影響を最も受けているとみられる若年層では、16~17歳層で30.5%、18~24歳層で17.3%と高い失業率を記録、いずれもこの1年間で5.3ポイントと増加している。さらに、今年新たに労働市場に参入する学卒者は一層厳しい就職難に直面するとみられ、雇用状況のさらなる悪化が懸念されている。

経営者団体のイギリス産業連盟CBIが6月下旬に公表した調査("Employment Trends 2009")からは、企業の多くが不況対応のために労務費の調整をはかっている状況がうかがえる。今年4月から5月にかけて実施した704社(雇用者300万人に相当)から回答を得た同調査によれば、企業の約3分の2が労働時間短縮のための制度を活用しているか、導入を検討している。また同様に、3分の2の企業が採用を控えているほか、半数以上が賃上げ抑制を実施している。このほか、国内の景気低迷への懸念から、4分の1の企業が海外への事業移転を検討しているという。雇用維持に関する民間主導のキャンペーンであるKeep Britain Working(注1)は、こうした企業の取り組みに対する労働者の評価について調査を実施。回答した労働者2900人のうち、52%が企業の取り組みを積極的に評価する一方、残る48%は、企業が不況を利用して、本来不必要な賃金引き下げや労働時間の短縮、剰員整理を行っていると感じているという。

若年者の就業支援に注力

政府は6月末に発表した政策方針文書「Building Britain's Future」で、景気回復と将来的な経済成長に向けた景気・雇用対策をはじめ、教育制度や福祉、医療、治安など広範な分野における今後の施策の方向性を示した。雇用対策の目玉は、4月に発表した09年度予算案にも盛り込まれている若年失業者向け支援策で、12カ月以上失業状態にある全ての18~24歳層に、助成金付き雇用、職業訓練もしくは企業等での就業体験の機会を提供し、これを拒否する場合は福祉給付を削減するというもの(注2)。またこの一環として、10億ポンドの基金(Future Jobs Fund)を設置、若者や雇用状況の厳しい地域の失業者15万人に最低6カ月間継続する雇用機会を提供することを目標に、自治体や非営利団体等の就業支援の取り組みに資金を提供する。さらに、能力開発施策の一環として近年力を入れている徒弟制度(apprenticeship)を09年度中に3万5000件拡大し、25万人分の受け入れ先を確保するとしている。このほか、併せて実施が予定されている公的住宅11万戸の建設で4万5000人、また低炭素化などの産業支援策を通じて数十万人など、次期議会の会期中(来年から最長で5年程度とみられる)に、150万人の雇用創出を見込んでいる。

7月末には、ビジネス・イノベーション・技能省や雇用年金省など4省庁(注3)が合同で、若年支援のキャンペーン「Backing Young Britain」を立ちあげた。同キャンペーンは、次のような若年支援施策の実施に企業等の協力を呼びかけるものだ:(1)Future Jobs Fundを通じた雇用機会の提供、(2)ボランティアの機会もしくはそのための助言の提供、(3)就業体験の機会の提供、(4)トライアル雇用の提供、(5)19~24歳向けの徒弟訓練の提供、(6)大卒者向けインターンシップの提供、(7)地域雇用パートナーシップ(Local Employment Partnership)への参加――。また関連して、新たに2万件のインターンシップの受け入れ先を確保(うち半数は、非大卒者の19~21歳の若者向け)するとともに、専用のウェブサイトにより、利用可能な数千件のインターンシップ先の情報提供を行う。

一方、労使の間では、企業における雇用維持に対する公的支援策を要請する声が強い。既にこの3月、イギリス労働組合会議(TUC)と小企業連盟(Federation of Small Businesses)が、企業に対する賃金助成制度の導入を求める提言書を政府に提出したところだが、これに加えて、7月にはCBIが、新たに剰員解雇の代替策(Alternative to Redundancy)を政府に提言した。その内容は、一時帰休期間中の労働者に対して、企業と政府がそれぞれ求職者手当(Jobseekers' Allowance)相当額(注4)を最長で6カ月間支給するというものだ。現地メディアによれば、CBIは賃金助成制度よりも効果があると主張、政府にも追加的な財政負担がかからないとしている。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=160.33円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年8月7日現在)

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