労使、雇用維持のための賃金助成など提案
―政府、消極的な反応

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2009年4月

不況の影響から大幅な人員削減が相次ぐ状況をうけて、労使団体は政府に対し、雇用維持を主眼とする対策に関する提案書をまとめた。操業短縮やレイオフによる企業の解雇回避の努力に対する賃金補助のほか、円滑な転職のための訓練受講や求職期間の求職者手当の給付条件の緩和などが柱。

1-1月期の失業者数、200万人に到達

雇用状況は依然として悪化が続いている。統計局が3月に発表した11-1月期の失業者数は、前期から16万5000人増の202万9000人、失業率は対前期比0.5ポイント増の6.5%となった。失業者の増加分の3分の2にあたる11万3000人を男性が占め、男女別の失業率はそれぞれ7.1%と5.6%となっている。また、同期の解雇者数は、調査が開始された95年以降で最高の26万6000人(前期比8万6000人増)。2月の求職者給付申請者数は139万人、前期比13万8000人の増加で、これも71年の調査開始以降最大の増加幅だ。

11-1月期の就業率は74.1%と前期比0.1ポイント減だが、就業者数は2000人増の2938万人で、これは自営業者数の増加(3万7千人)による。またフルタイム労働者が4万8000人減少しているのに対して、パートタイム労働者は5万人増。求人数にも減少が続いており、12-2月には前期比7万4000件減の48万2000件、特に流通・宿泊・レストラン業と金融業で顕著な減少がみられる(それぞれ、2万7000件と2万4000件)。さらに、11-1月期の賃金上昇率は1.8%で、前期から1.3ポイントと大幅に下落した。ただし、一時金を除いた場合は3.5%とほぼ横ばいで推移しており、金融部門などでの一時金の減少が大きく影響しているとみられる。

企業による大規模な人員削減の発表は3月に入って減少しているものの、今後も厳しい経済状況が続くとの見通しは変わっていない。金融部門に次いで雇用の減少が著しい製造業では、11-1月期の生産高が6.4%減少した(注1)。機械産業使用者連盟(Engineering Employers Federation)は、製造業の今年の成長率をマイナス8.6%と予測、14万人分の雇用が失われるとみている。

操短などで賃金の6割助成

イギリス労働組合会議(Trades Union Congress)と小企業連盟(Federation of Small Businesses)は3月初め、企業支援策のための基金設置を求める提案書(注2)を政府に提出した。基金を財源に、(1)解雇防止のため、企業の操業短縮やレイオフの実施に対して当該労働者の通常支払われる賃金の6割を3~6カ月にわたり助成する(2)求職者手当(Jobseeker's Allowance)の受給条件を緩和し、雇用を維持しながら他の仕事を探す求職者にも手当受給の権利を認める(3)在職者向け訓練助成制度(Train to Gain)の利用条件の緩和により、賃金助成対象者の資格を前提としない部分的な訓練受講に対しても、これを無料とすること――などを実施するよう政府に求めている(注3)。企業・産業内での雇用維持の努力を通じて、解雇により労働者の技能が失われることを防ぐねらいだ。対象となる労働者が新たな仕事を得ることによる福祉給付コストの抑制と税・社会保険料収入の増加により、想定される32億ポンドの財政支出の3分の2が賄えるとの計算で、年間12億ポンドの予算で60万人の雇用を守ることができるとしている。提案書によれば、EU加盟国の多く(ドイツ、フランス、スペイン、オランダ、イタリア)では既に操業短縮やレイオフの実施による解雇の回避に対する賃金助成制度が実施されており、またこの1月にはウェールズも同様の制度を導入している(注4)。

しかし政府は、可能性は検討するとしつつも、賃金助成による企業および労働者の支援には消極的な反応をみせている(注5)。本来は不要な解雇を前提に助成を受けるなどの企業による不正利用を防止しにくいことや、整理されるべき生産性の低い仕事が温存される可能性があることなどがその主な理由だ。また、ドイツやフランスなどとは社会保障制度の対象や水準が異なり、賃金助成を新たに導入する場合のコストがこれらの国に比して大きいことも一因として挙げている(注6)。失業者支援については既存の政策による対応が可能であるとして、むしろ企業の資金調達の円滑化や訓練助成制度の拡充などを通じた企業支援の実施に前向きな姿勢を示している。

参考資料

参考レート

  • 1英ポンド(GBP)=149.92円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2009年4月6日現在)

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