低資格労働者向けの訓練充実へ
―職業訓練制度改革案、労使が合意

カテゴリー:若年者雇用労使関係人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2009年3月

政府の職業訓練制度改革をめぐり、昨秋から会合を重ねてきた労使代表は、1月7日、25時間にも及ぶ交渉の末、ようやく合意に達した。政府は今回の労使交渉に対して、(1)職業訓練と雇用の関係を強化する(2)制度を簡素化する(3)職業上もっとも弱い立場にある者(中小企業の被用者、低資格の被用者、資格を取得せずに学校教育を修了した若年者など)を対象の中心に据える(4)透明性が高くパフォーマンスの良い制度の実現に向けた国・地方圏・労使の活動の連結――等を優先課題として示していた。この協定内容をもとに、政府は法制化の準備を進める。協定書の主な内容は以下の通り。

低資格者、失業者向け訓練参加者を70万人増加

年間の職業訓練参加者数を、低資格労働者向け50万人、失業者向け20万人、合計70万人増加する。従業員向けに「職業訓練期間(Période de progessionnalisaton)」もしくは「訓練活動(Action de formation)」制度を導入する雇用主には、職業訓練費を優先的に支給し、職業訓練個人休暇(CIF)を取得する従業員には、休暇中の手当を優先的に支給する。低資格であるが故に不安定な雇用に就かざるを得ない就労者の職業訓練への参加を促進するのが狙い。失業者には、公共職業安定所(Pôle emploi)(注1)が紹介した職に就くのに必要なスキルの獲得を目的として、最長400時間の短期職業訓練(「就業準備:préparation opérationnelle à l'emploi」)を提供する。これは、職業訓練によるスキルアップを条件に、期間の定めのない雇用契約(CDI)か、12カ月以上の期間の定めのある雇用契約(CDD)による採用を、企業があらかじめ約束するというもの。

職業課程安定化労使同数基金を設立

現在、企業に拠出が義務付けられている職業訓練費は、労使同数認定徴収機関(OPCA)が徴収し、余剰分を単一調整基金(FUP)に回している。低資格者・失業者向けの職業訓練枠を拡大するにあたり必要となる財源確保という明確な目的のもとに、このFUPに置き換わる新たな基金として、「職業課程安定化労使同数基金(FPSPP:Fonds paritaire de sécurisation des parcours professionnels )を設立する。FPSPPの財源については、労使で激しく議論されたが、企業に拠出が義務付けられている職業訓練費の一定比率(最大で13%、およそ9億ユーロが限度となる)を財源に充てる)ことで合意した。なお、この比率については、「職業訓練のための労使全国委員会(CPNFP: Comité paritaire national pour la formation professionnelle)」が毎年10月末までに、翌年の割合を決定し、2009年は10%と定められた。

職業訓練に関する権利のポータビリティー性の確保

雇用契約が終了し、失業又は転職した場合でも、既に獲得していた「職業訓練への個人の権利(DIF:droit individuel à la formation)」を、保持し続けるか現金化することが可能となる。現在フランスでは、フルタイムの賃金労働者の場合、1年以上同じ企業に勤めた場合、年間20時間までのDIFを取得でき、最高6年間(120時間)持ち越しが可能。DIFを持つ労働者は、雇用主の同意の下で、就業時間内、又は就業時間外に、職業訓練を受けることが出来る。この職業訓練にかかる費用は、原則として雇用主が負担し、職業訓練中の賃金も、一部又は全額支払われる。なお、今回の協定によると、現金化する場合、労働法典で定められている金額「1時間当たり9.15ユーロ」に、取得している時間数をかけた金額が支給される。

熟練化契約(Contrat de professionnalisation)の促進

現在16~25歳の非熟練労働者や26歳以上の一部が対象となっている「熟練化契約(Contrat de professionnalisation)」の対象範囲を、低資格者や就職困難者(失業保険制度の対象から外れ国の連帯制度による各種手当を受給している者等)へ拡大する。同契約は、働きながら職業訓練を受けて、特定の職種に就くために必要なスキル等を習得するというもの。また、就職困難者には、採用企業の同意があれば、企業が外部にチューターを置き、通勤や住居、健康問題など、職業訓練以外で社会参入に必要な事柄について、個別的な支援を行うことも可能となる。

学業再開制度(formation initiale différée)の創設

高等教育の第一段階(大学の一般教養課程)以前に学業を終えたが、いずれ復学したいと考えている就労者を対象に、自己の能力などの測定・評価にかかる費用を助成することで、学業(特に、外国語や情報処理など)の再開を促す制度を導入する。これに伴い、3年以上の職業経験のある者を対象に、職業経験(ボランティア労働も含む)から得た知識・技術を認証し、職業の資格・免状を与える「職業経験認定制度(VAE)」の利用促進も図る。

労使代表は、今回の労使合意を「低資格の賃金労働者や失業者が職業訓練にアクセスしやすくするもの」と評価しているが、35ページにも及ぶ協定内容は複雑で、政府が求めていた「制度の簡素化」からは程遠い。また、政府が強く求めていた労使同数職業訓練費徴収機関(OPCA)の透明性や機能に関するテーマについては、深く掘り下げた議論がなされることなく、新たな基金(FPSPP)の設立という形での労使の答えに政府は不満を隠せない。政府は、この協定内容について、関係者間の最終的な交渉を経て、法制化の準備を進める。

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