最低賃金と団体交渉について分析
―ILO世界賃金報告
国際労働機関(ILO)は11月25日、『世界賃金報告:最低賃金と団体交渉――整合性のある政策に向けて』を公表し、経済危機の影響を受けて、2009年に世界全体で数百万人の労働者の賃金が低下する可能性を指摘した。国際通貨基金(IMF)の最新予測をもとにILOが算出した09年の実質賃金の伸びは1.1%にとどまる(08年は1.7%)。とくに先進諸国の実質賃金は、08年に0.8%増であったものが09年には0.5%減に転じる見通しだ。
また、近年の所得格差の拡大を背景として、多くの諸国で最低賃金が社会的課題として浮上し、2001年~2007年の間に年平均で実質5.7%(先進諸国では3.8%)上昇し、平均賃金に対する比率も、37%(2000年~2002年)から39%(2004~2007年)へと上昇した(表1、表2)。他方、団体交渉の適用対象労働者は、非正規労働者や零細企業に従事する労働者の増加などが原因で減少傾向にある(表3)。報告書は、団体交渉は賃金水準および賃金分布双方に影響を及ぼすが、最低賃金の効果は労働市場の低賃金層における賃金分布に制限されると強調したうえで、最低賃金政策と団体交渉制度の相補性を確保する効果的な組み合わせを提唱している。
09年の実質賃金、先進国でマイナスに
報告書は、2001~2007年の実質賃金の伸び率が、データが入手可能な83カ国平均で2%に満たず、経済成長と連動した賃金の伸びが達成されなかったことを明らかにしている。また、1995年~2007年にかけ、一人当たりGDP成長率の年平均1%の上昇に対応した平均賃金の伸び率がわずか0.75%で、調査対象の約4分の3の国で労働分配率が低下したと分析している。報告書はさらに09年の実質賃金予測を示し、経済危機の影響を受け、世界全体で数百万人の労働者の賃金が低下する可能性を指摘した。国際通貨基金(IMF)の最新予測に基づくILO試算では、09年の実質賃金の伸びは1.1%にとどまる(08年は1.7%)。とくに先進諸国の実質賃金は、08年に0.8%増であったものが09年には0.5%減に転じる見通しだ。
世界の最低賃金、実質水準、対平均賃金比率ともに上昇
ILOの定義では、「最低賃金」とは、賃金分布の底辺にある労働者を保護する目的で賃金構造に下限を提供するものである。ILO加盟国の90%を超える国で最低賃金制度が導入されている。その水準や、改定の頻度は国によって異なる。今回の報告では、2000年~2007年の最低賃金に関するデータをもとに、3つの指標を明らかにしている。一つは、実質ベースの年平均最低賃金伸び率(インフレ調整後)で、最低賃金適用者の購買力指標となるものだ。二つは、最低賃金の対平均賃金比率で、最低賃金政策による賃金格差の度合いが分かる。三つは、最低賃金の対一人当たりGDP比率で、最低賃金率の変化と全体的な労働生産性レベルとの関連をみる指標である。もっとも、最低賃金水準は地域、産業、職種、労働者の年齢などにより多様であるため、単純な比較は難しい。そこで分析では、労働者への適用率が最も高い最低賃金水準、あるいは、最低賃金の地域格差が大きい国については平均値で推計を試みている。
まず実質ベースの最低賃金伸び率をみると、2001年~2007年の間に世界の最低賃金は、年平均で5.7%(先進諸国で3.8%、発展途上国で6.5%)上昇した。先進諸国のなかで上昇幅が大きかったのは、イギリス、スペイン、アイルランド、EU新規加盟国だった。アメリカでは、同期間に連邦最低賃金が実質ベースで17%も低下し、そのため2007年末に10年ぶりに引き上げ、続いて08年、09年にも引き上げる。
次に最低賃金の対平均賃金比率(表1、2)は、平均賃金の40%前後に集中している。時系列では、2000~2002年の37%から2004~2007年には39%と若干上昇しているが、これは主に途上国における引き上げ傾向を反映したものである。先進諸国のうち最低賃金の対平均賃金比率が相対的に高いのはスペイン、イギリスで約35%、最も高いのはフランスで50%程度に達している。他方、最低賃金の対一人当たりGDP比率(表1、表2)をみると、先進諸国では横ばいで推移しているが、全体では68%から60%へと低下している。これは、主に途上国における労働生産性の向上を反映したもので、労働市場の底辺にある最低賃金の上昇とは連動していない。
最低賃金の実質上昇率(%) | 最低賃金の対平均賃金比率(%) | 最低賃金の対一人当たりGDP比率 (%) | |||
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2001 - 07 | 2000 - 02 | 2004 - 07 | 2000 - 02 | 2004 - 07 | |
先進諸国 | +3.8 | 39 | 39 | 38 | 37 |
途上国 | +6.5 | 36 | 40 | 76 | 68 |
全体 | +5.7 | 37 | 39 | 68 | 60 |
出所: ILO Wage Database
ILO条約の批准状況(2008年1月1日現在) | 2001‐2007年の最低賃金伸び率 | 最低賃金水準(2007年もしくは最新年) | ||||||
ILO第26号条約 ILO第131号条約 | 年平均伸び率(実質) (%) | 最賃の対一人当たりGPD比率 (%) | 最賃の対平均 賃金比率 (%) | PPP (US$) | 最賃の対一人当たりGDP比率 (%) | 最賃の対平均賃金比率 (%) | ||
オーストラリア | 1 | 1 | 1.11% | -5.38% | -1.81% | 1557 | 51.53% | 57.16% |
オーストリア | 1 | 0 | ||||||
ベルギー | 1 | 0 | 0.00% | -4.50% | -1.57% | 1459 | 49.98% | 40.60% |
ブルガリア | 1 | 0 | 7.03% | 0.27% | 6.45% | 275 | 29.19% | 41.76% |
カナダ | 1 | 0 | -0.05% | -4.48% | -0.13% | 1146 | 35.79% | 41.52% |
チェコ | 1 | 0 | 6.09% | 1.76% | 3.00% | 560 | 27.71% | 36.80% |
デンマーク | 0 | 0 | ||||||
エストニア | 0 | 0 | 10.05% | -0.41% | 4.65% | 419 | 23.84% | 33.69% |
フィンランド | 0 | 0 | ||||||
フランス | 1 | 1 | 2.03% | 2.65% | 3.45% | 1402 | 50.84% | 48.29% |
ドイツ | 0 | 0 | ||||||
ギリシャ | 0 | 0 | -0.10% | -9.49% | -1.87% | 931 | 33.30% | 37.39% |
ハンガリー | 1 | 0 | 9.26% | -0.68% | -4.37% | 498 | 31.39% | 33.83% |
アイルランド | 1 | 0 | 2.94% | -0.65% | 0.28% | 1450 | 40.41% | 41.61% |
イタリア | 1 | 0 | ||||||
日本 | 1 | 1 | ||||||
ラトビア | 0 | 1 | 8.69% | -9.32% | -7.70% | 339 | 23.39% | 30.15% |
リトアニア | 0 | 1 | 3.01% | -11.91% | -10.68% | 370 | 25.13% | 33.09% |
ルクセンブルク | 1 | 0 | 1.67% | -4.68% | 1655 | 24.87% | ||
マルタ | 1 | 1 | 0.51% | -2.26% | 3.85% | 439 | 22.98% | 53.63% |
オランダ | 1 | 1 | 0.02% | -3.24% | -2.21% | 1483 | 46.39% | 38.28% |
ニュージーランド | 1 | 0 | 3.31% | 5.91% | 7.18% | 1252 | 56.93% | 51.83% |
ノルウェー | 1 | 0 | ||||||
ポーランド | 0 | 0 | 1.91% | -7.98% | -1.91% | 500 | 36.77% | 35.25% |
ポルトガル | 1 | 1 | 0.36% | -0.37% | -0.49% | 665 | 36.86% | 34.67% |
ルーマニア | 0 | 1 | 12.80% | -6.75% | -3.09% | 237 | 24.94% | 30.09% |
スロバキア | 1 | 0 | 5.32% | -2.56% | 2.54% | 479 | 28.40% | 40.21% |
スロベニア | 0 | 1 | 7.63% | -2.90% | -1.85% | 38.59% | 41.11% | |
スペイン | 1 | 1 | 3.51% | 3.17% | 7.04% | 857 | 34.26% | 36.29% |
スウェーデン | 0 | 0 | ||||||
スイス | 1 | 0 | ||||||
イギリス | 0 | 0 | 4.09% | 3.53% | 3.92% | 1431 | 48.88% | 36.52% |
アメリカ | 0 | 0 | -0.71% | -3.63% | -0.89% | 1014 | 26.54% | 33.67% |
出所:ILO
legal database . 今回の報告書作成にあたり、データベースを更新。
団交の適用率低下、交渉の分権化や非典型雇用増加が影響
調査は次に団体交渉の適用率について調べている。団体交渉の適用率は、労働協約の適用を受ける賃金労働者の割合と定義している。適用率に関する国際比較を可能とする統計情報は主に二つある。一つは、全雇用者のうち労働協約の適用を受ける雇用者比率で、もう一つは、公務労働者の一部(警官や軍隊)、インフォーマル経済従事者など団体交渉適格のない雇用者を全雇用者から除外した上で調整した比率である。手法が異なれば国際比較は不可能となる。加えて、団体交渉が最も発達した国を除き、登録手続や労働協約のモニタリングがない国が多いため、労働協約の適用対象労働者数の把握自体が難しいという問題もある。こうした問題を解消するため、今回の調査では、二次的ソースから既存の統計を収集し、これを2008年のILO総会中に実施した労働者代表に対する特別調査から得られたデータで補うという手法を採った。
調査結果は、各国を4つの範疇――(1)15%未満(2)15%以上50%以下(3)51%以上70%以下(4)71%以上――に分けている(表3)。欧州諸国を除き、団体交渉適用率は総じて低く、アジア諸国では15%未満が大半で、5%を下回る国もあった。欧州諸国では適用率が相対的に高く、EU諸国の大半では70%を超えている。なかでも協約拡張メカニズムが厳格なオーストリアでは、適用率がほぼ100%だった。もっとも、EU諸国でも適用率が相対的に低い国もあり、ハンガリー、ポーランド、イギリスでは50%未満、ラトヴィア、リトアニアでは15%未満だった。また、低水準だった適用率が一層低下した国もある。チェコ、スロヴァキアなどの中欧・東欧諸国、ドイツ、オランダ、イギリスがその例で、特に1995年以降の低下が目立つ。組合組織率の低下や団体交渉の分権化が主な要因だ。企業別交渉の増加や団体交渉の分権化は、オーストラリア、イギリス、アメリカ、ニュージーランド、中欧・東欧諸国の多くの諸国で観察された。一般に、団体交渉の集権度が高く、中央レベルあるいは産業レベルで労働協約が締結される国では、適用率が高くなる傾向が強い。報告はさらに適用率の低下の要因として、小企業に従事する労働者や非典型雇用(有期、派遣、パートタイム労働者)の増加も挙げている。このグループは往々にして団体交渉から除外されているためだ。また、非典型雇用に従事する割合は女性に高く、サービス業をはじめ女性が多い産業では適用率が低いことも指摘された。
もっとも団体交渉が全般的に弱体化しているわけではない。欧州諸国のなかには、デンマーク、フィンランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンなど団体交渉の適用率が依然として高水準、あるいは上昇傾向にある国もある。また、市場経済に移行した国では団体交渉制度の導入あるいは再生への試みが活発化している。ラトヴィア、リトアニアの適用率は低かったが、団体交渉による賃金設定への取り組みが強化されている。また、スロヴェニアでは、強い拡張メカニズムを導入した結果、適用率がほぼ100%に達した。
15 %未満 | 15 - 50 % | 51 - 70 % | 71 %以上 | |
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EU | ラトビア, リトアニア | ハンガリー, ポーランド, スロバキア, イギリス | チェコ, ドイツ, ルクセンブルク | オーストリア, ベルギー, デンマーク, フィンランド, フランス, ギリシャ, イタリア, ポルトガル, オランダ, ルーマニア,スロベニア, スペイン, スウェーデン |
非EU加盟国 | セルビア, トルコ | スイス | ノルウェー | |
CIS 諸国 | ベラルーシ, ロシア, ウクライナ | |||
北アメリカ | アメリカ | カナダ | ||
その他先進諸国 | ニュージーランド | オーストラリア, 日本 | ||
東アジア | 韓国 | 中国 | ||
太平洋諸国 | キリバス | |||
南アジア | ネパール | インド | ||
東南アジア | インドネシア, マレーシア, フィリピン, シンガポール, タイ | |||
中央アメリカ | エルサルバドル, メキシコ, ニカラグア | |||
南アメリカ | ブラジル, チリ, コロンビア, ペルー | ベネズエラ | アルゼンチン, ボリビア, ウルグアイ | |
中東 | アラブ首長国 | |||
北アフリカ | モロッコ | スーダン | ||
サハラ以南のアフリカ | ブルンジ, コモロ,マラウイ, モーリタニア | 南アフリカ, ガーナ, ケニア, スワジランド, タンザニア, トーゴ | ギニア, レソト | エチオピア, ニジェール, セネガル |
出所:ILO特別調査(2008年総会中に実施)、労組組織率・団体交渉適用率に関するILO内部データベース、OECDその他地域別、国別統計情報
注1:団体交渉適用率とは、労働協約による労働条件規制の度合いを示す指標である。団体交渉適用率とは、全雇用者(賃金労働者及び俸給雇用者)に占める労働協約適用対象雇用者の割合である。当該団体交渉適用率は、団体交渉権が付与されていない雇用者を除外した上で調整されたものではない。団体交渉適格のない雇用者に関する信頼できるデータはない。
注2:団体交渉適用率と労組組織率は一致しない。数値が異なるのは、主として団体交渉適用率には、労働協約の拡張方式により適用対象となる非組合員が含まれることによる。
適用範囲の拡大、賃金格差是正に貢献
団体交渉の適用率の拡大は、賃金を経済成長に対応させ、平均賃金の上昇と賃金格差の是正に貢献する。今回の調査では、団体交渉と賃金弾性値(一人当たりGDPに対する賃金変化率)との関係を、団体交渉の適用率が30%を上回る国(適用率が高い国)と、30%以下の国(適用率が低い国)とに分けて分析している。適用率が低い諸国の賃金弾性値は約0.65と、世界平均の0.75を下回る。これに対し適用率が高い諸国の賃金弾性値は0.87で、GDPが1%伸びると平均賃金が0.87%上昇する。団体交渉の適用範囲が大きいと、実質賃金が経済成長により有意に相関する結果が明らかになった。
適用率も賃金の重要な決定要因であるが、団体交渉レベルや各レベル間の調整の度合も賃金水準に影響を及ぼす。今回の調査でILOはこの実証は行っていないが、集権度が高く、かつ(あるいは)調整度の高い団体交渉が賃金格差の縮小や男女間賃金格差の縮小と強く相関していることを明らかにした他の調査に言及している。また、団体交渉の分権化が、賃金格差の拡大をもたらすことも幾つかの研究で明らかになっている。一方で、団体交渉制度と労働市場パフォーマンスの相関性は単純な図式ではなく、一般化すべきでないことを強調する研究もあるため、今後調査を深める必要がある。
また、実際の賃金格差の状況をみても、例えばデンマーク、フィンランド、フランス、オランダ、スウェーデンなど団体交渉の適用範囲が大きい国では、ハンガリー、ポーランド、イギリスなど適用範囲が小さい国に比べ、全体的な賃金分布でも、低賃金層の賃金分布でも賃金格差がかなり小さい。
他方、最低賃金の引き上げは、低賃金グループ間や男女間の賃金格差の縮小に相関する。例えばアメリカの調査で、最低賃金の引き上げにより賃金分布の下位10%の労働者の賃金率が上昇するという頑健な証拠を示すものがあり、賃金格差の拡大を阻止する効果があることを明らかにしている。近年、先進諸国・発展途上国双方で、格差拡大による社会的緊張を緩和する目的で、最低賃金が社会的課題として再浮上している。
団体交渉と賃金の関連については幾つかの調査はあるが、全体的な傾向は定かではない。最近の分析では、団体交渉が、雇用あるいは経済パフォーマンスへのマイナス効果を伴わず、賃金にプラス効果を及ぼすという認識が強まりつつある。例えば、アメリカやドイツに関する調査で、賃金格差の拡大の一部が労組組織率低下に起因することを明らかにしたものがある。このほか報告書では、最低賃金あるいは団体交渉のマイナス効果について一般に指摘される認識を否定する多くの研究に言及している。
最賃と団交の効果的な組み合わせ提唱
調査結果を踏まえILOは、各国政府に対し、賃金稼得者の購買力を保護し、国内消費を刺激するよう提言し、整合性のある賃金政策の必要性を訴えている。具体的には、(1)団体交渉を促進し、労働分配率の悪化や賃金格差の拡大を防ぐための労使交渉の奨励(2)最も脆弱な労働者の保護を可能とするよう最低賃金水準を維持すること(3)最低賃金や団体交渉を、所得移転制度を通じた公的介入によって補完すること――を提言している。そのうえで、整合性ある賃金政策設計に向け、報告書は幾つかの方向性を掲げている。
一つは、最賃を団体交渉の代替物として活用せず、効果的な組み合わせを図ること。グローバル化や新雇用形態の増加、団体交渉の分権化などを背景として、団体交渉制度が弱体化するなか、最低賃金という政府の介入を通じて脆弱な労働者を保護する動きが拡大している。だが、団体交渉は最低賃金よりも広範な労働者を対象とし、労働時間など賃金以外の労働条件も交渉対象とすることが可能だ。したがって、最低賃金が団体交渉を阻害する可能性を回避し、最低賃金と団体交渉とを相補的に機能させる必要がある。ブルガリア、カンボジアでは、最低賃金政策と並行して団体交渉の活性化を試みている。また、「拡張方式」を活用して、団体交渉の活性化を図ることも効果的だ。
二つは、最低賃金設定制度を可能な限り簡素かつ運営可能なものに留めること。イギリス、フランス、アメリカを含め、大半の国に比較的単純な全国一律最低賃金がある。全国一律最低賃金とは、地域あるいは労働者のカテゴリー(若年層や家内労働者などその他のグループ)により一部の例外を認めるものの、全労働者に適用する賃金の下限を定める制度だ。これに対し、より複雑な産業・職種別最低賃金制度を有している国もあり、多くの場合、部門別団体交渉を補完する制度として機能している。
最賃設定プロセスへの労使の関与の仕方も国によってまちまちだ。大半の国では、労使パートナーとの協議を経て、政府が最賃決定を行っているが、少数ではあるものの、独立した政労使機関の社会対話を通じて最低賃金額が直接設定される国もある。また、国家一律の最低賃金を社会パートナーが直接交渉して全国一律最賃を定める国もあり、ベルギーやギリシャがこれに該当する。ここでは、政府の役割は交渉結果を承認するだけである。この他、団体交渉を通じて産業別最賃を決定する国もあり、ドイツ、イタリア、スイスなどが該当する。この制度では柔軟性が担保され、最低賃金設定における国家の介入を回避できる。しかし、決定的な制約もある。第1 に、団体交渉制度が定着した欧州諸国では効果的な労働者保護が可能であるが、団体交渉適用率が低い国では非効率な制度である。第2に、欧州諸国においてさえも、団体交渉適用率の近年の低下傾向やワーキングプアの増加が社会問題として浮上し、例えばドイツやスイスでは、賃金の下限を定めた全国一律最低賃金の導入をめぐる議論が活発化している。
このほか報告書は、労使と労働基準監督官が関与する実施メカニズムや、最低賃金の適用対象の拡大(家内労働者など脆弱グループなど)の必要性も掲げている。
資料出所
- ILO(2008)Global Wage Report 2008/09: Minimum wages and collective bargaining: toward policy coherence.
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2009年 > 1月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > ILOの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 労使関係、労働条件・就業環境、統計
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > ILO
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