最低賃金の適用範囲をめぐって論議 

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  • 国別労働トピック:2007年9月

最低賃金の適応範囲をめぐって下された1つの連邦最高裁判所判決が各方面で論議を巻き起こしている。2007年6月11日に下された判決で、家庭介護従事者を最賃と超過勤務手当の保護適用対象から除外するという内容だった(注1注2)。

2002年、家庭介護従事者コーク氏(73歳)は、派遣元企業のロング・アイランド・ケア社が、24時間の泊り込み勤務に対して、超過勤務手当として1.5倍の賃金をしばしば支払わなかったことを不服として訴えを起こした。法廷での争点は、1974年の改正公正労働基準法において、企業派遣の家庭介護従事者が最賃と超過勤務手当の保護規制対象となるかどうかであった。最高裁の判決は、高齢者が個人で直接に雇う介護従事者であろうと、企業が雇用し派遣される介護従事者であろうと保護の対象外であるとするものであった。

家庭介護従事者で最高裁判決

巡回区裁判所(2審)の判決では、賃金保護対象から家庭介護従事者を除外することは違法であるとする判決であった。巡回区裁判所は、この規制は1974年に最賃の適用範囲を拡大する際に、不備があったという見解を示している。

しかし、最高裁は、議会が家庭介護従事者を賃金保護規定の適用対象にしたのかどうかに関しては不明確であるとした上で、巡回区裁判所の判決を覆した。ただ、最高裁判事は労働省による法規制には矛盾した点があることを認めている。1975年、改正公正労働基準法を施行する過程で、労働省は次の2つの規則を発効している。ある規程では、企業や第三者組織から派遣される家庭介護従事者は公正労働基準法による保護対象から除外されるとしている。一方、他の規程では要介護者の自宅以外で就労する場合には最賃や超過手当ての保護対象となるとしている。最終的に労働省は前者が適用されると結論づけたという(注3)。その上で最高裁判事は、議会には最賃制度の保護対象を拡大しようとする動きがあり、労働省に対して1974年改正法の解釈が明確になるよう促している事実についても付け加えている。

使用者等は判決支持

家庭介護斡旋会社や連邦政府および市町村政府は、人件費を下げることができ、市町村でのコストを削減できるとの考えから判決を支持している。

被告となった人材派遣会社のロング・アイランド・ケア社は、80名の家庭介護従事者を抱えている。副社長は判決には大満足であるとし「この判決でコストを下げることができるし、高齢者や障害者に対するサービスを一層充実させることができる」と述べた。

家庭介護会社ブルームバーグ社によると、もし原告勝訴の判決であったなら、市、州政府、連邦政府は、6万人の家庭介護従事者に対して2億5000万ドル以上を支払うことになっただろうという。

女性団体は反発

これに対して、労働組合や女性団体は、全米にいる140万人の家庭介護従事者の経済的な状況を悪化させる不当判決だとして抗議している。

1972年に設立され女性の可能性の拡大に関する活動を行なっているNational Women's Law Center 共同代表のナンシー・ダフ・キャンプベル氏は、この裁判判決は苦労している低賃金の女性達にとって大きな打撃になるとしている。「ほとんどの家庭介護従事者は、低所得者であり、有色人種の女性である。彼女らは増加する高齢者や様々な障害を持った国民に対して重大な役割を担っているにもかかわらず、不公平な処遇を受け続けて行くことになる」と訴える(注4)。

法改正の動きも

マサチューセッツ選出の民主党上院議員で、上院保健教育労働年金委員会委員長でもあるエドワード・ケネディ氏 は、公正労働基準法が家庭介護従事者を保護対象とするよう法改正を促すことを考えているという。「裁判所の決定は、米国の法律が保護するべき対象に重大なギャップがある」と指摘し、「勤労家庭介護従事者が当然享受すべき尊厳と尊敬を受けることができるよう」民主党議員を中心に働きかけるという。

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