最低賃金の引き上げ実施による州レベルでの影響
最低賃金引き上げに関する法案が2007年5月に成立し、第1段階の引き上げが7月24日に実施された。その結果、米国の最賃は、従来の時給5.15米ドルから5.85ドルにまず引き上げられた。州別の最賃を独自に設け連邦最賃よりも高い水準に設定していた30州では今回の引き上げによる影響は受けないが、連邦最賃と同水準にあった20州では対応を迫られた。
なお、連邦最賃の引き上げは3段階で実施され、第2段階=08年7月24日に6.55ドル、第3段階=09年7月24日に7.25ドルとスケジュールが決まっている。
雇用への影響薄いとの見解
アイダホ州の地元紙アイダホ・ステイトマン紙(注1)は同州の労働省の統計を報道している。それによると今回の最賃引き上げは同州の非農業労働の3.2%に相当する約2万人の労働者の賃金に影響を与えるという。この2万人のうち、レストラン業界、食品加工業の労働者が約4分の1を占める。
また、今回の引き上げによる労働コストは総額で年間1250万ドル増える。ただこの推計には社会保険や労働安全衛生関連の負担増は含まれておらず、これらを加えれば、経営者の負担はなお重くなる。
同紙は特にチップ収入を伴う業種の経営者の負担増について触れている。これらの業種ではチップ収入と賃金の合計が最賃水準を上回ればよい。同州ではチップ収入の基準を3.35ドルに定めており、従来は5.15ドルを満たすために1.8ドル分を経営者が支払うことになっていた。(なお、チップ収入が3.35ドル未満の場合には最賃額との差額を支払わなければならない(注2))。チップ収入の基準は今回の改正によって変更されておらず、経営者の負担は5.85ドルから3.35ドルを差し引いた2.5ドルに増える。
とはいうものの、同州の場合最賃引き上げによる影響はそれほど深刻ではないという見解が大勢を占める。労働省スポークスマンのボブ・フック氏は、同州の失業率は2.8%程度の低水準で人手不足のため、最賃引き上げによって、労働者の採用を控える経営者は少ないだろうと述べている。
経営者の負担増の声も
違った見解も出ている。ケンタッキー州は先述のアイダホ州に対して失業率が5.7%と比較的高い水準にある。ケンタッキー州の地元紙グラスゴー・デイリー・タイムズ紙(注3)は、最賃の引き上げは、経営者の採用行動を変えるだろうという、ある企業の経営者の話を紹介している。従業員数の削減、ベテラン従業員を増やす代わりにパートタイム労働者を減らすなどの行動の可能性を指摘している。
またある経営者は「小企業への影響は大きい」と話している。従業員を減らさざるを得ないし、それは顧客へのサービス低下にも結びつくという。店頭でのサービスをより少ない従業員でやっていかなければならず、いままでのサービス水準を保つことは難しいという。さらにあるレストランの経営者は、従業員を削減するわけにはいかない、その代わりに価格を引き上げざるを得ないと話している。
注
- アイダホステイトマン紙のウェブサイト
- Gregory K. McGillivary, editor-in-chief, David Borgen et al., senior editors, 2004, Wage and hour laws: a state-by-state survey, Federal Labor Standards Legislation Committee, American Bar Association. Section of Labor and Employment Law, Washington, DC: Bureau of National Affairs
- グラスゴー・デイリー・タイムズ紙のウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=116.32円(※みずほ銀行ウェブサイト2007年9月5日現在)
2007年9月 アメリカの記事一覧
- 最低賃金の引き上げ実施による州レベルでの影響
- 最低賃金の適用範囲をめぐって論議
関連情報
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