2007年大統領の政策方針演説
―医療保険制度改革提案、移民政策など内政を重視―

カテゴリー:外国人労働者勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2007年3月

前年度に行った施策方針では、中国、インドなど新たな競争相手国の出現に対して保護主義に回帰せず競争力強化を柱とした新経済政策を打ち出した。(注1)これに対して、2007年度の一般教書演説は、財政歳出の抑制、医療保険、移民政策、エネルギー問題など内政課題に重点をおいた内容となっている。今期のブッシュ大統領は、昨年11月の中間選挙における民主党圧勝をうけて民主党の主張に一定の配慮を加えている点が特徴。しかし、民主党の支持基盤である労働組合は、ブッシュ政権政策に対して現段階では厳しい評価を下しているのが現実である。

2007年「一般教書」では、労働分野にかかわる政策として、医療保険制度の改革と移民政策がある。

医療保険については、(1)税制を改革し医療保険加入者に対する定額控除を認めること、(2)市民の利用可能な価格による民間医療保険を州政府が創設できるよう、後押しすること――の2つの項目が提起されている。

医療保険の定額控除については、医療保険に加入している家族世帯の場合、保険料1万5000ドルを上限に所得税や給与税が控除対象となる。単身者の場合,保険料7500ドルを上限に所得税や給与税が控除される。

市民に利用可能な価格による民間医療保険を州政府が創設するためには、「医療保険加入促進イニシアチブ(Affordable Choices Initiative)」を推進し、保険に加入できない低所得者や長期にわたって高額医療費を支払う人々に対する追加的支援を行うことを宣言している。大統領案は、現行の税制のもとでの不公正な補助金制度が原因で、多くのアメリカ国民が医療保険に加入できない状況を克服するとしており、今回の医療保険改革が実現すると、現在、非加入だか自分で保険に加入しようとする家族の医療保険の平均コストは、実質半分以下に削減されるはずであると試算している。

大統領一般教書では、安全な国境を確保するための移民政策の実現のため、安全、雇用、教育の各面で政策が提案されている。

安全については、南部国境地帯への州兵の派遣のほか、有人・無人探査飛行機の使用拡大や、最新鋭の探査技術の導入など国境監視技術を包括的にレベルアップすることで不法移民を減少させるための計画を提案している。州警察との協力による不法入国者の根絶を目指している。

不法移民の雇用問題については、雇用主の逮捕を含む強制取締りの実施、不法移民を雇用する雇用主の摘発強化のための法案(注2)を発表している。

米国の経済成長がもたらすニーズに対応するため、米国と移民の双方が利益を教授できるよう、一時雇用労働者プログラムの創設を検討していく。一時雇用労働者プログラムの実施にあたっては、(1)米国人労働者は、外国からの労働者(ゲストワーカー)より優先されなくてはならない、(2)雇用期間は滞在許可の範囲内という期間限定による一時的なものでなくてはならない、(3)景気変動や経済成長の需要に応じて、プログラム対象をより多くの参加者に拡大する必要がある――などの原則を提案している。

ブッシュ大統領は、2月5日に予算教書も発表し、2008年度予算の編成にあたっての方針を発表している。一般教書で強調された経済の好調、良好な雇用失業情勢を維持していくことの重要性を前提に、財政に関しては、増税することなく、2012年度までに財政を均衡させることを目標として、今後は、社会保障費の見直しや教育、エネルギー、医療保険分野での施策の優先的促進を盛り込んでいる。

ブッシュ大統領案の一連の政策方針に対して、AFL.・CIOや議員は必ずしも評価するコメントをよせているわけではない。AFL・CIOは、「今回の大統領案は勤労者に利益をもたらすものではなく、むしろ改悪の方向に向かっている。多くの労働者世帯は低賃金労働であるため、所得控除の便益を被ることはない」と反発の姿勢を示している。

参考

  • White House Office of Commucation
  • “The State of the Economy” 2007年1月23日
  • “Reforms to Spend Tax Dollars Wisely” 2007年1月23日
  • “Overall of the President’s 2008 Budget” 2007年2月5日
  • AFL・CIOウェッブページ”Statement by AFL-CIO President John Sweeney on President Bush’s Health Care Proposal” 1月24日
  • Washington Post, 2007年1月24日、27日、2月6日
  • The New York Times 2007年1月24日
  • 外務省ウェッブページ「北米」「2008年度米国予算教書(概要)」

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