競争力強化策を柱とする新経済政策
―大統領一般教書演説から

カテゴリー:雇用・失業問題地域雇用

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  • 国別労働トピック:2006年3月

06年1月31日、ブッシュ米大統領は議会で一般教書演説を行い、07年度の内政・外交全般に渡る施政方針を表明した。大統領は、米経済が力強い成長を続けていると指摘しつつ、中国・インドなどの新たな競争相手の出現にも保護主義に回帰せず競争力を強化すると述べた。このほか、主な重点課題として(1)減税の恒久化と歳出削減、(2)競争力維持のための合法的で経済に寄与する移民政策の必要性、(3)メディケア・メディケイド(注1)の適切な運営、(4)中小企業等への税優遇措置――についても言及した。

堅調に推移する雇用情勢

大統領はアメリカ経済の強さを強調する中で、過去2年半に雇用が460万人増加し、その数値はEUや日本を上回っていると述べた(注2)。米労働省が発表した1月の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数は前月比で19万3000人増えた。失業率も4.7%と前月比で0.2ポイント低下し、同時多発テロ発生前の01年7月以来、4年6ヶ月ぶりの低水準となるなど、アメリカの雇用情勢は堅調な推移を見せている。

中国・インドをにらんだ新経済政策

昨年の一般教書演説では、公的年金制度の抜本改革を経済政策の目玉に据え、強力に改革を推進する意思を表明していた。しかし民主党のみならず大統領の出身政党である共和党内からも支持が得られず、改革は事実上頓挫した。これに関し今回の演説では、ベビーブーマー世代(注3)の社会保障問題を検討する委員会設置を言及するにとどまった。

代わって大統領は経済政策の柱として競争力強化策を掲げ、国を挙げた技術開発基盤の強化を訴えた。その背景には、急速な経済成長を遂げる中国とインドへの警戒感がある。新聞報道によると、アメリカの対中貿易赤字は膨らむ一方で、製造業を中心に、中国に雇用を奪われるとの危機感が米国内で高まりつつあるという。他方、インドはIT(情報技術)大国と呼ばれ、高度な専門知識をもった優秀な人材、安定した英語力、安い人件費が魅力となり、最近では米企業が顧客サービス拠点や研究開発施設を移す動きが出ている。

競争力強化のための労働省の施策

一般教書演説で言及された競争力強化策を踏まえて、2月1日、労働省は「WIRED」(Workforce Innovation in Regional Economic Development)と呼ばれる地域経済開発計画を発表した。本プログラムは、政府・ベンチャーキャピタル・研究機関や企業等あらゆる領域の力を結集して高技能・高賃金の労働者を育成し、地域経済を活性化することを目的としている。高技能の労働者が核となって、更なる経済成長や企業の誘致への期待を盛り込んでいる。労働省の高官は、国策であるアメリカ経済の強化への取り組みとしては、地域経済を強化し活性化するのが唯一の方法であると述べた。

労働省は、同プログラムを13の指定地域で導入し、一地域1500万ドル、合計1億9500万ドルの予算を投入する予定である。指定地域は、貿易のグローバル化によって悪影響を受けた地域や、単一の産業に依存する地域、自然災害で打撃を受けた地域が主な対象である。

参考

  • 2月2、3、4日付日本経済新聞、2月1日付ワシントンポスト紙、米労働省ホームページ

参考レート

  • 1米ドル=116.29円(※みずほ銀行リンク先を新しいウィンドウでひらくホームページ2006年2月28日現在)

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